魔術師ユーリンが召喚した使い魔は獣人・狼一族の末裔でした②

ユーリンとレイは連れ立って、森へと続く夜の道を歩いた。
「足元、暗くないですか?」
「私は夜目が利くから問題ない」
家がぱらぱらとあるだけの、町の中心地から離れたこの辺りでは人々の戸締まりも早く、他の人間に会う事は無かった。
ユーリンはランプの心もとない灯りで自分の足元を照らしながら、誰とも会わずに済んでいる事に感謝した。
見慣れない異性と夜中に一緒にいた、などと誰かの口に上れば、そんな噂は狭い町の中ではあっという間に広がってしまう。
――獣人と言っても、見た目は人間だものね……
ふと隣に立つレイの顔を見上げたユーリンに、レイが微笑を返す。
「どうした?」
「いえ……狼一族って言っていましたけど、人間と見た目が変わらないんだなって」
「――狼の姿が良いなら変わるが」
事も無げに言われたその一言に、ユーリンは息を飲んだ。
「変化出来るんですか!?」
「無論だ。この姿は、ユーリンを怖がらせないように人間に寄せただけのものだ」
獣人には、変化出来る者と出来ない者がいる。
出来ない者の姿は様々で、完全に狼の姿の者もいれば、人間に近いが牙や鋭い爪、毛深い体を持つ者もいる。
変化出来る者の、変化後の姿も同じように様々だ。
レイは変化したらどんな姿になるのだろうかと、ユーリンは考えた。
「……今の姿で、狼の尻尾だけ生やすとかって出来ます?」
「出来るが、どんな意味が?」
「いえっ、いいんです!ただの興味本意です!」
慌てるユーリンの肩を抱き、レイは顔を寄せ囁いた。
「尻尾では、服を脱がねば見えぬが――見せろと?」
「そんな事言っていませんっ!」
楽しそうなレイの笑い声を聞きながら、ユーリンは火照った頬をレイに見せまいとでもいうように、そっぽを向いた。


「……ここが、森の入口です」
木々が鬱蒼と生い茂り昼間でも薄暗い森は、夜には真っ黒い闇の塊に見えた。
「まだ、魔物の気配はしないが――」
レイはするりとユーリンの腕に腕を絡め、その手を握った。
「用心した方が良いな」
「な、何で手を?」
「森の中は人間には歩きやすい道ではないだろう?転ばぬように――それと、弟の下まで案内しよう」
レイはそう言いながら森の中へ入って行く。
「弟がどこにいるか分かるんですか?」
手を引かれながら、ユーリンは尋ねた。
「あぁ、こちらからユーリンに似た匂いがする」
レイは灯りも持たないのに、よくこんなに真っ暗な闇の中を歩けるものだとユーリンは感心した。
ランプで照らされた自分の足元だけを見ているユーリンとは違い、レイは前を見て進んで行く。
やがて少し開けた場所に出た時、レイは足を止め呟いた。
「――近いな」
「え?弟ですか!?」
「いや」
その瞬間、何かが木の陰から飛び出しユーリンに向かって来た。
「――これは私のもの。手出しはさせぬ」
レイの落ち着いた声と、何かの叫び声が同時にユーリンの耳に届く。
「な……なに?」
「小物の妖魔だ。血の匂いに惹かれたか」
ユーリンがランプを向けると、レイの手から何かがだらりとぶら下がっているのが見えた。
コウモリのような羽と、細く長い尻尾を持つ黒い獣。
「血の匂いって……さっきの傷ですか?もう血は止まってますけど」
「例え血が止まっていても、傷口からは血の匂いがする」
レイは当然といった口調で答え、その妖魔を繁みの中へ投げ捨てた。
「今のが、噂の魔獣……?」
「違うな」
「……え?」
レイは森の奥へ目を向け、静かに言った。
「――もっと奥に、何かが居る」



SNS初出2016年6月1日
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テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

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