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映画

「夕鈴、たまには映画でも観に行こうか?」
いつものように、週末に泊まりに来た夕鈴が淹れてくれたお茶を飲みながら、僕はキッチンに立つ夕鈴の背中に問い掛けた。
「え?」
夕鈴は振り返ると、意外そうな表情を見せながら僕の側に来た。
「黎翔さんがそんな事を言うのって珍しいですね」
「うん、これなんだけど」
テーブルの上に置いたPCの画面を夕鈴に向けると、夕鈴は僕の隣に座って画面を覗き込んだ。
そこに表示されているのは映画館のホームページ。
「あ、これって……」
上映中の文字の中、僕達二人が目を留めたのは、漫画が原作の映画だった。
以前、夕鈴が友達から借りたと言って読んでいた時に表紙を見て、変わったタイトルだなと思ったのを覚えている。
「映画化されたんですね」
「観に行く?」
「はいっ!」
嬉しそうな笑顔の夕鈴が可愛すぎて、僕はつい夕鈴を抱き上げると自分の膝の上に乗せてしまった。
「な、何ですか!?」
「んー?」
慌てる夕鈴に何と言ったものかと思いつつ、僕は夕鈴を抱き締め頬に軽く口付けた。
「夕鈴が可愛いから、つい、ね」
「つい、で人を膝抱っこしないでくださいっ」
真っ赤な顔で暴れる夕鈴が愛らしくて、僕はもう一度、今度は逆の頬に唇を付けた。


次の日、映画館へ向かい予約しておいたチケットを受け取ってから、僕達は何を買うか相談した。
「何か飲み物と……ポップコーン買いません?」
「夕鈴の好きな物で良いよ」
「黎翔さん、いつもそう言いますよね」
どことなく不満げに言う夕鈴の手をとった僕が、
「夕鈴が美味しそうに食べているのを見るのが、僕にとってのご馳走なんだよ」
と目を見つめながら囁いた瞬間、夕鈴は頬を一気に染めて視線を泳がせた。
「じゃ、じゃあ濃厚キャラメル味にしちゃいますよ!?」
「――飲み物はブラックのアイス珈琲にしてもらえるかな?」
苦笑する僕に、夕鈴は小さく吹き出すと楽しそうな笑い声を上げた。

映画はまぁ、女性が好きそうな内容だった。
年の差カップルの恋愛もの、といった所か。
僕はどちらかというと、映画の内容よりも、熱心にスクリーンを見つめる夕鈴の横顔に魅力を感じていた。
生き生きと目を輝かせているその横顔に見惚れていると、視線を感じたらしい夕鈴から、映画を観るようにと注意されてしまった。
お詫びのつもりで、夕鈴が膝の上に大事そうに抱えているポップコーンを一つ摘まんで夕鈴の口元に運んだら、余計に睨まれてしまった。
そんな顔も可愛いと、つい頬がゆるんでしまい、今度は夕鈴から頬を摘ままれた。


「黎翔さんって、全然映画観ていませんよね」
マンションに帰ってから、買ってきたケーキでお茶を楽しみつつ夕鈴が言った。
「観ていたよ?」
珈琲を飲む僕を、夕鈴はちらりと見た後で頬を膨らませた。
「だって、気付く度に黎翔さん、人の顔を見ていたじゃないですか」
「――それ、美味しい?マンゴーの……何だっけ」
「ミルクレープは美味しいですけど、話をはぐらかさないでくださいっ」
くわっと怒り出した夕鈴に、僕は手にしていた珈琲をテーブルの上に置いて笑いかけた。
「じゃあ、観ていた証拠を見せようか」
「……え?」
ぽかんとする夕鈴の前に跪いた僕は、夕鈴の足をすくいあげ、その爪先にキスをした。
「れっ、黎翔さんっ!?」
途端に真っ赤な顔で、慌ててスカートの裾を押さえる夕鈴の初々しさに頬が緩んでしまう。
「こういうシーン、あったでしょ?」
「あ、ありましたっ観ていたのは分かりましたから、足を放してくださいっ!」
せっかくだから、と僕は夕鈴の足の甲にも口付ける。
ビクッと夕鈴の足が震えたけれど、嫌がってはいないようだ。
「黎翔さん、もう本当に止め……」
小さな声で制止を促す夕鈴の言葉を聞き流し、僕は次に夕鈴のくるぶしにチュッと音を立ててキスをした。
小さく夕鈴の足が震えているのは恥ずかしさからか、と気付いた僕の中に、もう少し悪戯してみたい欲望が湧いてくる。
夕鈴の足首に唇を付けた僕は、そのまま軽く歯をたてた。
「きゃっ!?」
見上げると、視線の先には涙目で、これ以上ないくらい耳まで真っ赤に染まった夕鈴の顔。
歯を食いしばった様な口元が、軽く震えている。
「――嫌だった?」
「い……嫌と言うか、その……」
もじもじと話辛そうな夕鈴をぎゅっと抱き締めた僕は、今にも零れ落ちそうな夕鈴の涙を唇で拭った。
「――ごめん、ちょっと悪戯が過ぎたかな」
「……びっくり、しました」
「うん……今日省いた所は、また後で、ね」
僕の腕の中で、夕鈴の体が強張るのが分かった。
本当にうぶだなぁと思った僕は、ついクスクス笑ってしまった。
「笑わないで、ください……」
やっと絞り出した様な、聞こえるかどうかというくらい小さな声でそう言った夕鈴は、僕の肩に額を付けると、そっと僕の背中に腕を回した。
珍しい事もあるもんだなと思っていると、夕鈴がぽつりぽつりと話し始めた。
「あの映画ほど年は離れていませんけど……早く、黎翔さんに似合う様な、大人の女性になりますから」
「――今でも十分に、僕には勿体ないくらいの女性だけど?」
夕鈴はおずおずと顔を上げると、上目遣いに僕の顔を見た。
「でも、黎翔さんの今みたいな悪戯にも、どう返せば良いか分からなくって」
「ちゃんと返してくれていたよ?言葉では無いけれど」
にっこり笑う僕に、夕鈴は不思議そうな顔をした。
「――体で素直に応えていたでしょ?」
ぼふっと湯気が出そうなほど赤面した夕鈴は、その後で何故か、じとっと座った目で僕を見た。
「黎翔さん……言う事がオヤジっぽいです」
「……オヤジかぁ」
一気に気分が萎えた僕は、力なく曖昧な笑みを浮かべてから、夕鈴を抱えソファーに座った。
膝の上に横抱きにした夕鈴は直ぐに下りようとしたけれど、僕が夕鈴の腰に腕を回した事に気付くと渋々諦めた様だった。
「高校生から見たら社会人はオジサンかなぁ」
そう言いながら、僕がテーブルの上のケーキが乗った皿を夕鈴に渡すと、夕鈴は両手でそれを受け取ってから首を傾げた。
「いえ、あの、年齢的な事じゃなくて……さっきの黎翔さんの台詞が……その……か、体とか言っちゃうあたりが」
徐々に染まっていく夕鈴の頬を見ながら、僕は珈琲を手にして言った。
「人間って、言葉では何とでも言えるけど、体は正直なもんだよ?」
「……どこの悪代官ですか」
「夕鈴、時代劇とか観るの?」
「父が好きでよく観てますから」
「――あぁ、なるほどね」
自分では意識してなくても、これがオヤジの思考か、と僕は冷めてしまった珈琲を一気に飲み干しながら思った。



SNS初出2015年7月11日
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『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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