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吸血鬼11

「黎翔様、王という立場を軽視なさらないでください。ましてや王族の直系は現在、あなた一人なのですよ」
「――軽視している訳ではない」
向かい合った二人の間に見えない緊張感が漂う。
「……それほどまでに、その人間が良いですか?」
「私は夕鈴を花嫁にすると言ったはずだが?」
冷ややかな笑みと共に答えた黎翔に、李順は眼鏡を指先で押し上げると低い声で呟いた。
「――仕方ありませんね」
その呟きが黎翔に聞こえた瞬間、李順は夕鈴に襲い掛かり、その首筋に牙をたてた。
「っ!?」
自分に何が起こったのかも分からないうちに、夕鈴の体が崩れ落ち瞳が閉じられた。
青白くなった顔で倒れる夕鈴をそのままに、李順は黎翔に振り返った。
「――これで黎翔様のお心を煩わせるものは無くなったでしょう」
静かに言う李順に近付き、その唇の端を紅く染める夕鈴の血を、親指の腹で黎翔は拭った。
「――甘いな、李順」
李順の耳元で囁きながら、黎翔は親指の血を舐めニヤリと笑った。
「甘い……?」
眉間に皺を寄せ、怪訝そうな顔をした李順を余所に、黎翔は夕鈴を抱き上げるとベッドに横たえた。
「私がただ何の勝算もなく、夕鈴を娶ろうとしていたと思うか?」
「黎翔様、一体何を?血を吸った以上、今その人間のマスターは私ではありませんか?」
黎翔は口の端で笑うと、夕鈴の髪を撫でた。
「――そして血を飲ませ、己の花嫁にするつもりか?」
「まさか!私はただ、黎翔様にはふさわしい花嫁を娶っていただきたいと」
そうか、と黎翔は呟くと、夕鈴の首筋に手をかざした。
李順の牙の跡が見る間にふさがり、元通りの白い首筋へと変わっていく。
「普通なら血を吸われた人間は、マスターにしか従わない存在になるはず……だな?」
念を押す様な黎翔の余裕のある態度に、李順の頭に疑問が湧く。
「黎翔様……?」
「李順、吸血鬼に血を吸われた人間が、自我を失わない方法を知っているか?」
夕鈴の長い髪を指先に絡め、口付けを落とした黎翔は薄く笑みながら李順に問いかけた。
「それは……花嫁以外、不可能では?」
「――どうかな」
黎翔が夕鈴を見つめ、その頬を優しく撫でた時、かすかに夕鈴のまぶたが動いた。
「……まさか」
「ん……」
ふうっと息を吐いた夕鈴は、うっすらと目を開き二人に視線を向けた。
「え?」
途端にぱっちりと目を開けた夕鈴は、ガバッと上半身を起こし頬を染めた。
「わ、私、寝ちゃったの!?」
信じられないといった風情で、両手で真っ赤な頬を覆った夕鈴に、李順は驚きの眼差しを向け言葉を失った。
「――夕鈴、気分は?」
「気分?ちょっと頭はぼんやりしてますけど……寝ちゃうなんてっ嘘っ!!」
ベッドの上で、立てた自分の膝に顔を埋めた夕鈴は耳まで赤く、とても先ほどまで蒼白な顔をしていたとは思えないほどだった。
黎翔は立ち竦む李順に向かって目を細めると
「残念だったな」
と口角を上げた。
「な……何故ですか?」
やっと李順が口にした問いにも黎翔は答える事なく、ただ夕鈴の頭を撫でながら微笑むだけだった。
「夕鈴、今夜はもう遅いからお休み。今度は良い夢を見られるように――」
その囁きを残して、夕鈴の髪から黎翔の手が離れた。
夕鈴がそっと顔を上げると既に二人の姿は無く、ただ紅い薔薇の甘い香りが漂うだけだった。



SNS初出2015年4月6日
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エイプリルフール

暖かい陽気が続いた春の日、夕鈴は春休みを利用して黎翔のマンションに遊びに行こうと考えた。
夕飯を作ろうと駅前のスーパーで買い物を済ませ、マンションに向かって歩き出した夕鈴の前を、背の高い女性が歩いていた。
――うわぁ大きいなぁ……モデルさん?
長いストレートの黒髪が風に揺れ、女性は鬱陶しそうに後ろに手で払った。
――な、何か動きがかっこいいかも……
夕鈴が見惚れていると、その女性は夕鈴が目指すマンションに入って行った。
――え、黎翔さんと同じマンションに住んでるの!?
だが夕鈴がエントランスに入った時には、既に女性の姿は無かった。
何となく残念に思いながら、夕鈴は黎翔の部屋へ向かう。
合鍵でドアを開けると、珍しく明かりが点いていた。
「?黎翔さん、いるんですか?」
靴を脱ごうとした夕鈴は、女物の靴が玄関にある事に気付いた。
「……え?誰の?」
明らかに自分のではない靴を眺めていると、奥から黎翔の声がした。
「――夕鈴!?ちょっと待っててくれる!?」
いつもと違う慌てた声に、夕鈴は靴を脱ぎ捨てると一気に寝室まで駆け付けた。
「黎翔さん!開けますよ!」
声を掛けると同時にドアを開けると、そこには髪の長い女性が乱れた服装でベッドに腰掛けていた。
「――え!?れ、黎翔さ、ん?」
驚き目を丸くする夕鈴に向かって、女性は溜息を吐くと一言
「そう、僕だよ」
と言った。

リビングのソファーに座る、女性姿の黎翔にお茶を淹れた夕鈴は、その隣に座ると興味津々といった表情で黎翔の顔を見つめた。
「――あまり見ないでくれる?もう着替えて良いかな?」
困った顔でそう言う黎翔に、夕鈴は首を振って力説した。
「こんなに綺麗なのに勿体ないです!もうちょっとそのままでいてください!」
「んー……」
複雑な表情の黎翔がお茶を飲む様を、夕鈴はきらきらした目で見ていた。
黎翔が説明した所によると、今日は新年度を祝う親睦会が、協力会社と合同で行われたらしい。
「その会社は特殊メイクも扱っている所でね」
仮装してくる事、という条件を忘れていた黎翔は、まんまと実験材料にされてしまった。
相手側からしたら、自分達の技術力をプレゼンする為の格好の良い素材、といった所だったろう。
「しかもそのまま帰るように言われてね、服を返してもらえなかったんだ」
黎翔が夕鈴と目線を合わせると、途端に夕鈴の頬が赤く染まった。
黎翔はその頬を指先で撫で、静かに呼び掛けた。
「――夕鈴?」
「は、はいっ!」
一層赤くなった頬を隠すように両手で覆った夕鈴は、視線を泳がせ言った。
「な、何だか黎翔さんじゃないみたいで……ドキドキします」
黎翔はそんな夕鈴の顎に指をかけると、その顔を自分へ向けさせる。
「夕鈴は、女性の僕の方がドキドキするの?――実は僕が本当に女性だと言ったら……どうする?」
「え?」
キョトンとした夕鈴の唇に、黎翔は自分の唇を重ねた。
軽く啄むだけのキスの後、夕鈴の手を取り自分の胸に当てさせた黎翔は、もう一度尋ねる。
「僕は本当は女性なんだよ……それでも夕鈴は、僕が好き?」
夕鈴は手の中の柔らかい感触と黎翔の台詞に、頭の中が混乱してくる。
「え?だ、だって……えぇ!?」
「女同士は、イヤ?」
首を傾げた黎翔の髪が、さらりと夕鈴の手にかかる。
「だって、この前、黎翔さん胸なかったような……」
先日、風呂上がりにタオル一枚の姿の黎翔を見てしまった夕鈴は、しどろもどろになりながら記憶を必死に手繰り寄せていた。
「ちゃんと見たの?」
くすりと笑いながら黎翔が尋ねる。
「一瞬だったから……でも、こんなに大きな胸じゃなかった気が……」
言いながら無意識に黎翔の胸を揉んだ夕鈴は、その大きさに感心してしまった。
「私より大きいですね」
「そう?」
黎翔は夕鈴の頬にチュッと口付けすると、耳元で囁いた。
「直に見たい?」
「だっ駄目ですよ!たとえ女同士でも恥ずかしいでしょう!?」
「夕鈴、さっきの答えは……?」
耳たぶを喰みながら、黎翔が問う。
「きゃっ!!」
「女同士でも、僕の事が好き?」
首筋に口付けされ、夕鈴は肩をすくめた。
「す、好きですよ?たとえ女性でも、黎翔さんは黎翔さんですから」
潤んだ瞳、上気した頬で真っ直ぐに自分を見つめる夕鈴を、黎翔はたまらず抱き締めた。
「ありがとう。愛しているよ、夕鈴」
「わ、私も、です」
消え入りそうなほどに小さな声で答えた夕鈴の唇を、今度はじっくりと黎翔は味わった。


「黎翔さんが女性って言うのは、やっぱりエイプリルフールの冗談だったんですね?」
テーブルの上に置かれた、シリコン製の偽乳を突きながら夕鈴が言った。
「まぁね。嘘だってバレバレだったでしょ?帰りの電車では痴漢されるし、酷い目にあったよ」
「え!?痴漢されたんですか!?」
バスルームから聞こえる黎翔の声に、夕鈴は顔を上げた。
「駅員に突き出してやったけど、知らない人間に尻を撫でられるのは気持ち悪いね――夕鈴、忘れさせてくれる?」
「ど、どうやってですか?私も黎翔さんのお尻を撫でるんですか?」
噴き出した笑い声が聞こえ、夕鈴は何か変な事を言っただろうかと顔を赤らめた。
「やっとさっぱりしたよ」
メイクを落とし着替えを済ませた黎翔を、夕鈴は両手で頬杖をつきながら見た。
「髪もカツラだったんですか……もうすっかり、いつもの黎翔さんですね」
「何だか残念そうだね?」
「っ!そ、そんな事ないですよ!?」
一気に紅潮した夕鈴の顔を見ながら、まさか自分に焼きもちを焼く日がくるとはな、と黎翔は苦笑した。



SNS初出2015年4月1日
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『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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