ルームメイト・4

「黎翔さん、これとかどうですか?」
夕鈴はデパートの食器売り場で、縁に金と紺で模様の入った皿を手にして黎翔を振り返った。
「うーん……そういう感じのは見飽きたかな」
「……どこでそんなに見たんですか?」
黎翔のマンションにあった食器といえば、大きさも色も模様もまちまちな皿が数枚あっただけだ。
率直な疑問をぶつけた夕鈴に、黎翔は苦笑した。
「実家でね、こんな感じのを時々使っていたから」
「そうなんですか……」
もしかして黎翔さん家ってお金持ちなのかしら、と皿の値札を見ながら夕鈴は思った。
「――こっちが良いかな」
黎翔が手にしたのは、白地に小花や葉の模様があしらわれた、どちらかと言うとシンプルな皿だった。
「……ちょっと意外です。可愛い柄がお好きなんですか?」
「ん?いや……」
黎翔が何かを言い掛けた時、店員が明るい声で話し掛けてきた。
「いらっしゃいませ。どういった物をお探しですか?」
「このシリーズを一揃い欲しいんだけど、送ってもらえるかな」
店員は一瞬目を丸くしたものの、すぐに笑顔で答えた。
「はい、こちらのペアセットですね」
「ペア!?」
夕鈴が慌てて値札を見ると、確かにペアセットと書いてある。
「あの、一人分だけ買えないですか?」
店員は夕鈴の申し出に、意外そうな顔をした。
「申し訳ありませんが、こちらはセット販売ですので……それに、お二人でお使いになられるのでは?」
「いえ、」
「ペアで。カードで良いかな?」
夕鈴の言葉を遮り、黎翔は店員に笑いかけた。
「はい、ではこちらへお願いします」
行く手を促す店員の後に従って歩き出した時、黎翔は夕鈴に袖を軽く引かれた。
「れ、黎翔さん、ペアって……どうするんですか?」
「んー、夕鈴も使ってくれる?ペアしか無いなら仕方ないよね」
黎翔に苦笑しながらそう言われ、夕鈴は値札を振り返り、良いのかしらと思い悩んだ。

歩き回って疲れた二人は、デパートの中の喫茶店に入り休憩する事にした。
「黎翔さん、さっきの食器ですけど」
注文を済ませた後で、夕鈴は話を切り出した。
「ペアじゃない物を選べば良かったんじゃないですか?すぐに決めちゃいましたけど、もっと色々見たら他に気に入る物があったかも……」
「うん、でもあれで良いんだ」
店員がテーブルの上に珈琲と、紅茶のセットを置いて行き黎翔は珈琲を一口飲んだ。
夕鈴はティーポットからカップに紅茶を注ぎながら、眉間にシワを寄せた。
「そんなに気に入ったのなら仕方ないですけど、ペアだと倍のお値段ですよ?やっぱり勿体ない気がします」
「その値段の分だけ使えば良いよ」
そう言って珈琲を飲む黎翔は、やはり値段の事など気にしていないようだ。
「夕鈴は、あのマンションで困った事はない?他にも必要な物があれば、ついでに買って行こうか」
笑みながら言う黎翔に、夕鈴は少し考えてから答えた。
「……特に無いと思いますけど」
カップにミルクを注ぐ夕鈴の指先を見ながら、黎翔が尋ねた。
「そう言えば、夕鈴は洗濯機使ってる?」
「え?」
「いや、使った形跡が無いから――もしかして他人が使ったのは嫌?」
その言葉に、夕鈴は慌てて首を振った。
「そんな事ないです!使えるなら使わせていただきたいですけど、その……あれ、何語ですか?」
頬を染めながら尋ね返す夕鈴に、黎翔は目を丸くして、あ……と呟いた。
「ドイツ語だよ。そうか、気にしてなかったな」
考え込む素振りを見せる黎翔に、夕鈴はさらに尋ねた。
「ドイツ語?ドイツ製なんですか?」
「あぁ、うん。あのマンションを買う時にモデルルームを見に行ってね。その部屋にあった家電もついでに同じ物を買ったんだ。確か日本向けに作られた物は納期がすごく先になると聞いて、ドイツ国内向けの製品をそのまま入れてもらったんだよ」
黎翔の話を聞いていた夕鈴に、いくつかの疑問が湧いてきた。
「……ドイツ国内向けって、電圧?とか、そういうの大丈夫なんですか?」
「勿論合わないから、そこは直してもらったよ。周波数も違うからね」
「……はぁ。あの、日本製を買った方が早いし安かったのでは?」
首を傾げる夕鈴に、黎翔は手にしていたカップを置いてから、ただ一言
「選ぶのが面倒だったからね」
と答えた。
夕鈴は軽くめまいを覚えつつも、さらに尋ねる。
「それに、あのマンションって買ったんですか?てっきり賃貸かと」
「賃貸だと更新手続きとか色々面倒だから」
――何なのこの人!?
夕鈴は半ば呆れつつも、もう一つ疑問を口にした。
「黎翔さんのお家って、お金持ちなんですか?」
「――何故?あ、マンションを買ったのは自分の金だよ」
「自分って……黎翔さん、まだ学生ですよね?」
不思議そうな顔の夕鈴に、黎翔はクスリと笑った。
「まぁ、稼ぐ方法は色々とあるからね……もし僕の実家が金持ちだったら、夕鈴お嫁に来たい?」
「はぁ?」
からかう様な口調の黎翔に、夕鈴は顔を真っ赤にして声を荒げた。
「なに馬鹿な事を言ってるんですか!?結婚て、お金持ちかどうかで決める事じゃないでしょう!?それに、私はただの同居人です!」
つんっとそっぽを向いた夕鈴の横顔を、黎翔は呆気にとられた様に眺めていたが、やがて微笑むと小さく呟いた。
「夕鈴って……真っ直ぐだね」
「――は?」
「ううん、同居人として、信用できる人間だなと思って」
クスクス笑う黎翔を見ながら、夕鈴は自分が誉められているのか、からかわれているのか分からずに複雑な顔をした。
「それで、夕鈴は今まで洗濯どうしてたの?」
「近くのコインランドリーに行ってました」
紅茶を飲む夕鈴を見ながら、黎翔が軽く眉根を寄せた。
「コインランドリーか……帰ったら使い方を教えるから、良かったら家のを使ってよ」
「助かりますけど、良いんですか?」
遠慮がちに尋ねる夕鈴に、黎翔は悠然と笑った。
「勿論。あまり使わないと機械にも良くないからね。洗濯乾燥機だから、夜に入れておけば朝には乾いているよ」
「乾燥機……干した方が好きなんですけど、お洗濯だけって出来ます?」
恥ずかしそうに尋ねる夕鈴に、黎翔は目を細め答える。
「出来るよ。でも使いにくい様なら、新しい洗濯機を買っても良いけど?」
「だ、駄目ですよ!あれまだ新しいですよね!?」
「うーん……二年くらい?」
考えながら答える黎翔に、夕鈴は確信した。
――この人、金銭感覚がおかしい……!!
一体今までどうやって生きてきたのかと、夕鈴は呆れ顔で黎翔をまじまじと見つめた。
「――何?」
「いえ、黎翔さんって、ちょっと……その、変わってるなって」
「そう?」
夕鈴の台詞を軽く受け流し、黎翔はカップを傾けた。
「さて、食器は買ったし――この後どうしようか?」
「食器と言ってもお皿だけですから……お茶碗やお椀、お箸もありませんよね?」
「――そうか」
虚を衝かれたように一瞬動きを止めた黎翔は、溜息を吐いて天井を見上げた。
「今まで弁当とか外食ばかりだったからなぁ」
そして夕鈴と視線を合わせると、にっこりと笑った。
「何だか新生活を始める新婚さんみたいだね」
「っ!またそうやってすぐに、からかわないでください!」
頬を染め抗議する夕鈴を、黎翔は楽しそうに眺めていた。



SNS初出2015年3月30日
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【掲示板】春コミ

2015年3月15日のHARUコミに参加致します。
スペースは東2・ネ26b『趣味屋+福屋書店』です。
名前の通り、福屋さんとの合同スペースです。

このイベに合わせて、新刊を二種出します。

『ことのはつなぎ』
文庫版・62頁・300円
フルカラー表紙(表紙絵はmayさん)
しりとりシリーズです。
Web再録に加筆・修正した物+書下ろし1本です。

『ホワイト・ホワイトデー』※R18※
文庫版・38頁・300円
フルカラー表紙(表紙絵はmayさん)
現代版・夫婦設定の二人がいちゃついているお話で、一冊まるごと書下ろしです。
性描写が多目ですので、苦手な方はご遠慮ください。
18歳未満の方は閲覧も禁止です。
年齢確認をさせて頂く場合がございますので、年齢の分かる物をご持参ください。

既刊三種も持ち込みますが、どれも残部は少ないです。
特に『異世界紀行』は二冊しかありませんので、完売の際はご容赦ください。

そして、今回は福屋さんとある企画を立てました。
童話をモチーフに、七人で七冊の本を出します。
執筆者とモチーフはこちら(五十音順)
・あささん『かぐや姫』
・高月慧ネンさん『人魚姫』
・twomoonさん『眠れる森の美女』
・とんとんさん『一寸法師』
・ぴいこさん『狼と七匹の子ヤギ』
・へもへも『美女と野獣』
・ゆいままさん『白雪姫』
15cm×15cmの変型コピー本・16頁・100円
フルカラー表紙(表紙絵は全て福屋花さん)
全七種をお求め頂きますと、オマケとして福屋花さんの『赤ずきん』の漫画本が付きます。

それでは、皆様とお会いできることを願って。


追記
とらのあなさんで『ことのはつなぎ』と『ホワイト・ホワイトデー』の予約が始まりました。
ご興味がおありでしたら、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
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『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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