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中秋の名月

9月8日は中秋の名月でしたね。
生憎、曇っていたためお月様が見られなくて残念でした。
久々の原作沿いをどうぞ。



「陛下、お帰りなさいませ!」
もう夜遅い後宮で、夕鈴に笑顔で迎えられた黎翔は内心驚いていた。
「――我が妃はもう夢の中かと思っていたが」
軽く微笑む黎翔に、夕鈴は楽しげに答える。
「だって、今日は中秋節ですよ?ちゃんと月餅も作ったんです」
黎翔はそう言われて初めて気付いたように、ふと視線を窓の外に向けた。
「生憎の曇り空だが――せっかくの妃の好意だ。今から庭園に出るか」
「はいっ」
黎翔に手を取られ、夕鈴は嬉しそうに頷いた。


庭園に置かれた椅子に腰を下ろし、黎翔と夕鈴はどちらからともなく夜空を見上げた。
「――やはり見えぬな」
「残念ですね……」
辺りは夜露のせいか、どこかしっとりとした空気で満たされている。
無言の二人の代わりとでも言うように鳴く、様々な虫の音が耳に心地好い。
「あ、お茶をお淹れしますね」
夕鈴の立ち上がった音に、一瞬ぴたりと止んだ虫達の鳴き声が、また遠慮がちに再開する。
侍女が用意したお茶の道具と菓子入れが、すぐそばの卓の上に置かれていた。
その道具を使い、夕鈴は慣れた手付きで淹れたお茶を黎翔に手渡した。
「どうぞ。少し熱めにお淹れしましたから、お気を付けて」
「――あぁ、この茶の温もりも、私を思う妃の心の暖かさには敵うまいな」
「へっ、陛下ったら……!」
いきなり何を言ってんの!?と赤くなった顔を黎翔から逸らした夕鈴の目の端に、微笑む侍女達の姿が映る。
「そ、それでは、こちらもどうぞ」
プロ妃として負けてなるものかと、出来るだけ優雅に微笑みつつ、夕鈴は月餅の入った菓子入れを黎翔に差し出した。
「――違うな」
「……はい?」
手にしていた茶杯を卓に置いた黎翔は、夕鈴の腰をさらうと自分の膝の上に座らせた。
「なっいきなり何ですか陛下!?降ります!!」
「君が食べさせてくれ」
「はぁっ!?」
ニヤリと笑う黎翔は、夕鈴に回した腕を緩める気など毛頭無い様だ。
「今日は遅くまで宰相の顔を見ていて疲れた。愛しい妃に癒してもらいたいのだが――」
目を細め、妖艶に笑みながら黎翔は夕鈴の顔を覗き込んだ。
「駄目、か?」
「いっいいえっ…でも、そんな事で癒されるんですか?」
「無論、妃自身を味わいたい所だが、ここではな」
「なっ!?」
ボフッと一気に耳まで赤く染まった夕鈴の頬を指先で撫で、黎翔はくすりと笑った。
その笑いが何故かカチンと気に障った夕鈴は、菓子入れから月餅を取り出すと、黎翔の口元にそっと差し出した。
「どうぞ陛下、召し上がってくださいませ」
にっこりと微笑む夕鈴の顔と、その手の月餅を交互に見た黎翔は、フッと笑むと月餅に齧り付いた。
「――甘いな。やはり妃の手から食べると味が違う」
「え?あ、甘すぎました?」
黎翔の言葉を、そのままの意味で捉えた夕鈴が心配そうに尋ねる。
黎翔は軽く苦笑しながら、月餅を持つ夕鈴の手を捕えると夕鈴の顔に近付けた。
「君も味わうと良い」
「……え?あ、あの、食べ辛いですから、手を放してくださいますか?」
「――そうか」
言いながら手を放した黎翔に、分かってくれたのかしらと夕鈴が安堵した時、その手の月餅を黎翔に取られ夕鈴は目を丸くした。
「陛下?召し上がるのでしたらまだこちらに……」
菓子入れを取ろうとした夕鈴の目の前で、黎翔は月餅をいくつかに割ると、そのうちの一つを夕鈴の口元に差し出した。
「これなら食べ易かろう」
「は?……自分で食べられますよ?」
「――今宵は私の我が儘だと思って付き合ってくれぬか?」
「我が儘、ですか?」
穏やかに頼む様な黎翔の物言いに、いつもよりお疲れなのかしらと夕鈴は思った。
陛下の頼みに応えるのも妃の役目かしらと、仕方なく口を開いた夕鈴に黎翔は月餅を食べさせ、満足気に微笑んだ。
「たまには兎の餌付けも楽しいものだな」
「なっ!?」
怒って反論しようとした夕鈴だったが、上手く月餅が飲み込めずにむせてしまった。
ごほごほと咳き込む夕鈴の背を軽く叩き、黎翔は茶杯を夕鈴に差し出す。
そのお茶を一気に飲み干した夕鈴は、真っ赤な顔で黎翔に向かって声を荒げた。
「餌付けって何ですか!?まるで飼育されてるみたいじゃないですか!」
「飼育というよりは愛玩か?あぁ、時には食べてしまいたくなるが――」
咳き込んだせいで涙が浮かんだ夕鈴の目尻に、黎翔はチュッと音を立てて唇をつける。
自分が受けた思わぬ行動に、動けず固まった夕鈴の髪を黎翔は優しく撫でた。
そしてその手で夕鈴の顎に指をかけ上向かせた黎翔は、自分を見つめる夕鈴の唇のすぐ横を舐めた。
「――旨い餡だな」
「それは、蓮の実の餡ですから……って陛下!?な、な、何を!?」
「味見だが?」
「味見って、陛下先ほど月餅は召し上がりましたよね!?」
兎の味見だと言ったら余計に怒るだろうなと笑いながら、黎翔は自分の膝の上で怒り続ける元気な兎の鼻先に口付けた。

そんな二人の仲睦まじいお姿に、月も恥ずかしがって隠れていたのでしょうと、後の日に侍女達は楽しそうに語った。



SNS初出2014年9月11日
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『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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