【掲示板】5月18日おでライ・再追記あり

皆様こんにちは(・∀・)ノ
管理人のへもへもです。
追記しましたので、この記事ちょっと上げさせて頂きます。


この度、地元のイベにサークル参加いたします。
家族に色々ありまして、当分の間遠出は出来ませんので、大きなイベにはしばらく行けないと思います。

このイベに合わせて新刊を一冊出す予定です。
ま、間に合わなかったらコピー本かな…;;


『おでかけライブin宇都宮168アフターGW2014』
日時:2014年5月18日
サークル名:趣味屋
スペース:D05

参加される方いらっしゃいましたらよろしくお願いします♪


【追記】
来年の春に行われる、狼陛下の花嫁のプチオンリーのチラシを配布させて頂きます♪
ものすごく綺麗なチラシですので、ぜひお持ち帰りくださいませ(*´∇`)つ□

新刊は、吸血鬼を出す予定でしたがまだ続きそうなので、今回はパラレル短編集を出そうと思います。
…出せる…と良いな←

【再追記】
新刊無理でしたーm(__)m
なので今回パラレル短編集に収録予定だった、海賊パロの続編をコピー本にいたします。

A5版・16頁・100円
このブログに置いてあります海賊パロに加筆、修正した物+書き下ろしの続編です。

ご興味のある方はどうぞ~
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吸血鬼9

家の前まで夕鈴を送り届けた黎翔は、玄関のドアを開けようとする夕鈴に思い出した様に言った。
「夕鈴、忘れ物だよ」
え?と振り返った夕鈴の頬に、チュッと唇をつけた黎翔が
「おやすみ。良い夢を」
と腰をかがめ礼を執ると、その姿は闇に溶ける様に同化し見えなくなった。
「な、な……このセクハラ吸血鬼っ!!」
夕鈴はわなわなと震え頬を紅潮させながら、黎翔が消えた空間に向かって叫んだ。


「お帰り姉さん」
笑顔の青慎に出迎えられ、夕鈴は先ほどの黎翔への怒りもいくぶん和らいだ。
「ただいま。父さんは?」
「さっき酔って帰って来て、お風呂にも入らないでもう寝ちゃったみたい」
「そう――じゃ私もお風呂入って早く寝ちゃおうかな。今日は何だか疲れたし」
姉さんは働きすぎだよ、と苦笑する青慎にお休みの挨拶をしてから、夕鈴は自分の部屋へ向かった。

そしてドアを開け灯りをつけて凍り付いた。

部屋の中に、李順の姿があったからだ。

叫びそうになる自分の口元を掌で覆った夕鈴は、ドアを後ろ手で閉めると抑えた声で尋ねた。
「何で……ここにいるんですか?」
「少しお話がしたかったので」
冷静な態度でそう言われ、夕鈴は溜息を吐きながら自分のベッドに腰を降ろした。
「お話って、何ですか?」
「『花嫁』の件ですが――」
「それならお断りしました」
「――黎翔様は諦めておりませんよ」
自分の部屋にいるはずなのに、妙な居心地の悪さを感じて、夕鈴はかすかに身動ぎした。
「確かに、何十年でも待つと言われました――でも、私は花嫁になる気は無いんです」
「でしたら、拒絶なさってください」
「え?」
思わぬ李順の言葉に、夕鈴は顔を上げた。
「強く、拒絶なさってください。もう二度と会いたくないと。吸血鬼など、いっそこの世から消えてしまえと」
「――な、何でそこまで」
驚きから目を見開いている夕鈴に、李順は眼鏡を指で押し上げると話を続けた。
「我々吸血鬼は、人の念が苦手です。心の底から拒絶されれば、その人間に近付く事すら出来ません」
「心の底、から……?」
「そうです。そうして黎翔様に、結婚相手は同族から選ぶ様にと仰ってください」
その一言は、夕鈴に思いもよらぬ衝撃を与えた。
「同族って、あ、そうか……女性も、いるんですね……」
「勿論です。王族の黎翔様と釣り合う身分のご令嬢との縁談も、持ち上がっておりました」
「王族!?」
「――ご存知なかったのですか?」
夕鈴は茫然自失の体で、ただ力なく頷いただけだった。
「黎翔様のあの赤い瞳は、王族だけの持ち物です。そして黎翔様の即位が目前に迫っておりますが、未だに妃の一人もおりません」
「未だに?一人もって……」
夕鈴の疑問点を理解した李順は、生徒に教える教師の様な口調で答える。
「王族はその貴重な血統を維持し遺す為、一夫多妻制です。我々、特に王族の出生率は人間のそれよりはるかに低いですから。そして即位する為には、花嫁を迎えている事が必須条件なのです」
「独身では……駄目なんですか?」
「先ほど説明した通り、王族の血統は貴重なのですよ。出来れば既に子供がいるぐらいの方が、王として即位する時に歓迎されます」
夕鈴は自分の知らない世界の話を、まるで夢物語のようだと思いながら聞いていた。
「――同族同士の結婚でしたら、蘇りという不確かなものに賭ける必要もありません。けれど黎翔様は人間である貴女を、花嫁にすると仰いました」
夕鈴の細い肩がビクッと震えた。
その小さな動きから、夕鈴の心を見透かしたかの様に、李順は軽く眉根を寄せると夕鈴に穏やかに懇願した。
「花嫁になる気が無いのでしたら、どうぞ早いうちに黎翔様を拒絶なさってください」
それが、お二人の為ですと言う声を夕鈴の耳に残し、李順の姿は消えていった。


「――拒絶する?二人の為……」
夕鈴は今まで誰かを、心の底から憎んだり嫌ったりした事などない。
どちらかと言えば生来、お人好しと呼ばれる部類だ。
そんな夕鈴にとって黎翔は困る存在ではあっても、李順の言う通りに心の底から拒絶する事など出来そうになかった。
「確かに相手はセクハラ吸血鬼だけど……」
そう呟いた時、頬に黎翔から受けた口付けの感触が蘇った夕鈴は、かあっと自分の頬が火照るのを感じた。
「と、取り敢えずお風呂入ろっと」
その後で、今夜起きた出来事についてゆっくり考えようと夕鈴は思った。



SNS初出2014年5月10日

吸血鬼8

夕鈴が目覚めた時、最初に目に入ったのは見慣れた天井だった。
「――あれ?私いつの間に?」
目覚まし時計を見ると、いつも起きている時間までまだ間がある。
何となく違和感を感じた夕鈴が自分の体を見ると、パジャマではなく制服を着たままだった。
「え?何で!?」
頭を抱えた夕鈴の脳裏に浮かんだのは、昨夜の出来事。
「あの後……私寝ちゃったの?」
ふらりとベッドから起き上がった夕鈴は、取り敢えず頭をはっきりさせようとシャワーを浴びる事にした。

髪を洗いながら、昨夜の李順の言葉が不意に浮かぶ。
――蘇るのは半数ほど……
そもそも自分は吸血鬼の花嫁になりたいなんて望んでいない。
望んでもいない事に命を賭けるなんて、まっぴらだと夕鈴は思った。

部屋へ戻った夕鈴は、シワになってしまった制服にアイロンをかけつつ、自分は一体どうやって帰って来たのかと考えた。
だが昨夜は黎翔達と会話した後の記憶が全く無い。
操り人形、と李順が言った言葉を思い出し背筋が寒くなった夕鈴は、おもむろに鏡の前に立ち自分の首筋を見た。
「血を吸われた跡は無いわね……良かった」
夕鈴はホッとすると同時に、黎翔に会ってから振り回されている自分の今の状況に、段々と腹が立ってきた。
「今度会ったら、私は花嫁になりませんってハッキリ言わなくちゃ……だからと言って他に犠牲者が出るのも嫌だけど……」
相反する二つの考えに夕鈴は頭を悩ませながら、朝食の支度をする為に部屋を出た。

「姉さん、昨夜は遅かったみたいだね。姉さんが帰って来たの僕全然気付かなかったよ」
「夕鈴、あまり大変な様ならバイトを変えたらどうだ?」
朝食を三人で摂りながら、父親と弟から心配そうに言われ夕鈴は苦笑した。
「昨日はたまたまで……これからはそんなに遅くならない様にするから」
「本当に帰り道、気を付けてね」
なおも心配そうに言う青慎を安心させる様に、夕鈴は頷き微笑んだ。
「うん、分かった。ありがとう」



今日黎翔達に会ったらどう言って断わろうか、と夕鈴が頭の中で色々シミュレーションしているうちに、瞬く間に時は過ぎ放課後になった。
「夕鈴、たまには付き合いなよ」
「ごめん、また今度バイトが休みの日にね」
遊びに誘う明玉に謝りながら、夕鈴はバイトへと急いだ。


「いらっしゃいま……せ」
バイト終了時間も近くなった頃、店内の掃除をしていた夕鈴は来店した客を見て絶句した。
「こんばんは。あと少しで終わり?」
「なっ、何で吸血鬼がコンビニに来てるんですか!?」
「おかしいかな?服装も人間らしく合わせたつもりだけど」
確かにいつものマント姿ではなく、黒いコートを羽織った黎翔は夕鈴に穏やかな笑みを向けた。
「今夜も送るよ」
「遠慮いたしますっ」
小声でやりとりしている二人を見て、レジにいる店長が夕鈴に呼び掛けた。
「夕鈴ちゃん、彼氏がわざわざ迎えに来てくれたなら、もう上がってもいいよ」
「彼氏じゃないです!!」
頬を真っ赤に染め反論する夕鈴に、店長は笑って言った。
「今日は忙しくないし、あと数分だから。タイムカードは後で僕が押しておくからね」
そう言われた夕鈴は今朝の父親と弟の心配そうな様子を思い出し、店長の申し出を有り難く受け入れる事にした。
「すいません、それじゃ上がらせてもらいます……でも本当に彼氏じゃないですからね?」
念を押す夕鈴に、店長は分かった分かったと言いながら、相変わらずニコニコしていた。


夜道を歩きながら、夕鈴は黎翔に疑問を投げ掛けた。
「今まで、何人を犠牲にしたんですか?」
「犠牲?」
「『花嫁』にするって、どれだけの人に言ったんですか?」
黎翔はわずかに驚いた様に目を瞠ると、夕鈴の髪を一房すくい口付けた。
「一人だけだ。私が花嫁にしたいと望んだのは夕鈴、君しかいない」
「何故、私なんですか?」
「恋に落ちるのに、理由が必要だとでも?」
「こっ……!?」
夕鈴は真っ赤になった顔を黎翔に見られない様に、早足で歩き始める。
だが足の長さの差か、黎翔は易々と息切れ一つする事もなく夕鈴と並んで歩いている。
やがて、ぴたりと足を止めた夕鈴は息を弾ませながらも、黎翔にはっきりした口調で尋ねた。
「半数が蘇らない、つまり確率は半々なのに、どうして私なら大丈夫って言ったんですか?」
「――蘇った花嫁達には、一つ共通点があった」
教え諭す様に、静かにそう言う黎翔の顔には表情がなく、夕鈴は眉をひそめた。
「共通点?それは何ですか?」
「言えない。それを教えられた者で蘇った者はいない」
「な……何故?」
黎翔は夕鈴の頬をそっと親指の腹で撫でた。
「恐らく――これは推測だが、事前に教えられた事で心に打算が生じるから。純粋な、ある思いを抱いていた者だけが蘇り花嫁となった」
「私には……無理です」
「夕鈴?」
「第一私は!吸血鬼の花嫁になりたいなんて望んでいませんっ」
声を荒げる夕鈴を落ち着かせる様に、黎翔は夕鈴を抱き締めその肩に顔を埋めた。
「それでもいい。花嫁でなくても――今はただ、久しぶりに会えた夕鈴と共にいたいだけだ」
黎翔は夕鈴の背に回した腕に力を入れると、夕鈴の耳元で囁いた。
「それに、私は夕鈴の気が変わるまで何十年でも待てる」
「なっ!?」
夕鈴が驚き疑問の声を上げると、黎翔は夕鈴の耳たぶを軽く食んだ。
「さぁ帰ろう。あまり遅いと、また家族に心配されてしまうだろう?」
「な、何で知ってるんですか!?」
反射的に片手で耳を覆い、黎翔の腕の中から身をよじって逃れた夕鈴はそう叫んだ。
だが黎翔は穏やかに微笑み、当然といった口調で答えた。
「愛しい人の事は何でも知りたくてね」



SNS初出2014年5月8日

吸血鬼7

「――お取り込み中に申し訳ありませんが黎翔様、場所を変えましょう」
「そうだな。ここでは人の目に付く」
いくら夜中の人通りが少ない道とはいえ、人が全く通らない訳ではない。
そして人はそんな状況で出会った人間の事は、意外と覚えているものだ。
ましてやそれが黒いマントをまとった男二人なら、怪しさも手伝って余計に脳裏に残る。
「通報でもされると面倒だ」
黎翔は夕鈴を抱き上げると李順に目で合図を送り、近くのビルの屋上へと跳んだ。

「――黎翔様『花嫁』についての説明はされましたか?」
「……いや」
夕鈴を降ろしながら、どこか歯切れの悪い返事をする黎翔に李順は深い溜息を一つ吐くと、冷ややかに言った。
「命に関わる事ですよ?本人に知らせずにどうするおつもりですか?」
「……え?命って、何の話ですか?」
夕鈴がわずかに眉を寄せ黎翔を見上げる。
黎翔は夕鈴の細い首筋を指でたどりながら、淡々と話し始めた。
「我々吸血鬼に血を吸われた人間は、血を吸った吸血鬼――『マスター』の思い通りに動くようになる」
「……マスター?思い通りって……」
夕鈴が首を傾げると、李順が付け加える様に説明した。
「つまりは自我を失い、マスターの操り人形になる訳です。マスターが笑えと言えば笑い、泣けと言えば泣く。死ねと言えば――分かりますね?」
「……そんな」
青ざめた顔で自分から一歩遠ざかった夕鈴に、黎翔は静かな口調で言葉を継いだ。
「――だが、花嫁は違う」
「どう、違うんですか?」
黎翔は赤い瞳で夕鈴を見つめると、微かに微笑んだ。
「花嫁は自我を失わない。マスターと共に、不老不死の状態で永遠の時を生きる」
「な、何故?」
黎翔は一歩夕鈴に近付くと、夕鈴の長い髪をさらりと撫でた。
「血を吸われた人間は仮死に陥る。その時にマスターが己の血を飲ませた者――その者が花嫁として蘇る」
「――違います」
李順が冷静な声で、話を遮った。
「蘇った者が花嫁となるのです。黎翔様、誤魔化さないでください。実際に蘇るのは半数ほどなのはご存知でしょう?」
「半数って……蘇らなかった人達は?」
「――そのまま朽ちて行くだけです」
一層青ざめた顔で言葉を失った夕鈴を、黎翔はそっと抱き締めた。
「大丈夫。君ならきっと――」
「……や、嫌、です」
夕鈴は黎翔の胸を手で押し退けると、涙をたたえた、それでいて強い瞳で黎翔を真っ直ぐに見た。
「何故大丈夫って言えるんですか?それに、今まで何人の人を犠牲にしてきたんですか!?」
「――いや、私は」
「とにかく、私は『花嫁』になるなんて言ってませんからっ!!」
拳を握り締め、きっぱりと言い切る夕鈴に李順は溜息を吐いた。
「黎翔様、この様子では無理ではありませんか?」
「今は、な」
黎翔が夕鈴の目を覆う様に手をかざすと、夕鈴の体から力が抜け、倒れる寸前に黎翔は夕鈴を抱きかかえた。
「あまり興奮すると体に悪い」
「黎翔様、もうあまり時間も無い事を忘れていませんか?」
黎翔は李順の問いに口の端だけで笑んだ。
「永遠の時を生きる身なのに忙しない事だな」
「――何事にもけじめは必要ですから」
「そうか……今宵は一先ず花嫁を家まで送り届けるとしよう」
まだ花嫁ではありませんよ、という李順の言葉を聞き流し、黎翔は夕鈴を抱いたまま走り始めた。

二つの影が音もなく屋根の上を移動して行く。
黎翔は自分の腕の中で気絶した様に眠る夕鈴の顔を愛おしげに見つめると、腕に力を込めて夕鈴をぎゅっと抱き締め直した。
「必ず花嫁にしてみせるよ」
夕鈴の耳に、そう呟きを落としながら。



SNS初出2014年5月4日

吸血鬼6

「変な夢……ううん、夢じゃない……のかな」
寝起きのぼんやりとした頭で夢の内容を思い返した夕鈴は、小さい頃に自分を送ってくれた犬と昨夜も現れた犬が同じ犬に思え、そんなはずはないと頭を振った。
「そっくりだけど、もう何年も経ってるし……」
あの時の犬が生きているとしたら、もうかなり高齢だろうと夕鈴は思った。
「それにあのハンカチ……」
夕鈴はベッドから出ると、机の引き出しにしまっておいたハンカチを出した。
あの時、犬の前足に巻いたハンカチと、先日黎翔から渡されたこのハンカチは同じ物ではないだろうか?
「あの犬の飼い主……とか?」
まさか、と夕鈴は自分の考えに苦笑すると、服を着替えカーテンを開けた。
「今日もいい天気ね。さてお洗濯!」


「お、いい匂いだな」
「おはよう父さん。もうすぐ出来るから」
忙しく朝食を作りながら、夕鈴は父親に尋ねてみた。
「そう言えば父さん、母さんのお葬式の後に私が一緒にいた犬、覚えてる?」
「犬?」
父親は突然の話に虚を衝かれた様だったが、少し考えてから、あぁ、と言った。
「黒い大きな犬だったなぁ。当時あの辺りは野犬が多くてな。夕鈴が噛まれると思って父さん石を投げたんだ。小さかったのによく覚えてたな」
「ん……急に思い出したの」
夕鈴は父親にお茶を手渡しながら、やっぱりただの夢ではなかったのね、と確信した。



その日、バイトを終えた夕鈴が今日も犬は居るだろうかと思いながら角を曲がると、そこには静かに微笑む黎翔が立っていた。
「こんばんは。良い夜だね」
「――何でいるんですか?」
一気に怪訝そうな顔をした夕鈴は、黎翔にそう尋ねるとその横を通り過ぎようとした。
「君を家まで送ろうと思ってね」
「結構です」
「――昨夜もその前の夜も送ったのに?」
「え?」
夕鈴が思わず振り返ると、黎翔は相変わらず静かな笑みをたたえている。
そしてゆっくりと口角を上げた黎翔の姿が、一瞬で大きな黒い犬に変わった。
「――え!?」
犬は軽やかに夕鈴に近付き、ぺろりと夕鈴の手の甲を舐めた。
赤い瞳が夕鈴を見つめる。
「い、犬に……?」
ゆらり、と犬の姿が揺らいだかと思うと、それは瞬く間に黎翔の姿になっていた。
「――犬ではなく狼だよ」
くすりと笑った黎翔は夕鈴の手をとり、その甲に口付けた。
「夜に男と連れ立って歩いていた、と噂されても困るだろう?」
「あ、あの時の、父さんが怪我をさせた犬も……?」
「そう。夕鈴が小さい頃に会った狼も僕だよ。眠る君を見付けて、放っておけなかったんだ」
黎翔は呆然とする夕鈴を抱き締めると、自分のまとっているマントでふわりとその体を包んだ。
「あの時の君も寒そうで……ただ暖めてあげたいと心から思った。そんな気持ちを私に抱かせたのは、長い年月の中で君しかいない」
夕鈴は黎翔の腕の中から、自分を見つめる赤い瞳を見上げた。
「――君が欲しいんだ。私の花嫁になると言ってくれ」
「わ、私の血を吸うんですか?」
首筋に黎翔の顔が近付いたのを感じた夕鈴が、震える声で尋ねた。
「いや――今はまだ」
黎翔は夕鈴の首筋にチュッと音を立て唇をつけた。
「これで我慢する」
「が、が、我慢っていきなり何するんですかっ」
「しっ――やはり来たか」
黎翔が夕鈴の唇に人差し指を当てたと同時に振り返る。
夕鈴もつられて黎翔の背後を見ると、そこには眼鏡をかけた人物が立っていた。
「黎翔様、まだ『食事』されていないのですか?」
「――私の花嫁にそんな言い方はよせ。李順」
「花嫁になれますかね?」
李順は夕鈴に目を向けると、まるで値踏みするかのような視線で夕鈴を見た。
「――してみせる」
黎翔の冷たい笑みと低い声にハッとした李順は、無言で眉間にシワを寄せた。
「あの……」
黎翔が腕の中でポツリと言った夕鈴に視線を戻すと、夕鈴は真っ赤な顔で自分を睨んでいた。
「は、花嫁とか勝手に言ってますけど、私は認めてませんからっ」
「――嫌、か?」
「へ?」
悲しげな顔で黎翔はそう言うと、夕鈴の頬を両手で包んだ。
「私が嫌いか?」
「っき、嫌いだとか言ってません!ただ、結婚とかまだ早過ぎますっ!!」
目尻に涙を浮かべ、力説する夕鈴の額に唇をつけた黎翔は
「良かった。嫌われていなくて」
と妖艶な笑みを夕鈴に向けた。



SNS初出2014年5月3日

吸血鬼5

「ただいまー。青慎まだ起きてたの?」
帰宅した夕鈴がスイーツを冷蔵庫にしまおうとキッチンへ入ると、パジャマ姿の青慎が立っていた。
「うん、もう寝る所だよ。お帰り姉さん。遅くまでお疲れ様」
「――そう言えば、この辺で黒くて大きな犬を飼ってる家、あった?」
夕鈴の問いに、青慎は首を傾げる。
「お向かいのラブちゃん?」
「あれはラブラドールでしょ?あんな優しい顔してなくて、もっとこう……ハスキーみたいな」
「ハスキーみたいな顔で全身黒いの?」
そう、と頷く夕鈴に青慎は少し考え苦笑した。
「何だか狼みたいだね」
「……それ!まさしくそんな感じ!!」
「姉さん、この辺でそんな犬は見た事ないし、大型犬を飼える家も少ないと思うよ」
困った顔で笑いながら言う青慎に、やっぱりそうよねと夕鈴は呟いた。
夕鈴の住む下町は良くも悪くも世話好きと言うか、お節介な人が多い。
もしもあんな大型犬を連れて引っ越してきた人がいたとしたら、あっという間に夕鈴の耳にも入っていた事だろう。
それにこの辺りは住宅が密集していて、広い庭のある家などほとんど無い。
――やっぱり野良犬?
首輪もしてなかったし、と夕鈴は思い返すが、撫でた時に感じた手触りはとても滑らかで、普段から良く手入れされている様に思えた。
「本当に不思議な犬……でも、どこかで見かけた様な気もするのよね……」


その翌日も、バイト帰りに夕鈴は同じ犬に会った。
やはり昨夜と同じ様に、夕鈴を見ると尻尾を振り近付いてきた。
「また会ったわね」
夕鈴が頭を撫でると、犬は嬉しげに目を細めた。
「今日はパン持ってるけど、食べる?」
そう言いながら夕鈴はコンビニで買ってきたパンを見せるが、やはり犬は欲しがる素振りを見せなかった。
「人間のものを食べないように訓練されてるのかな?だとしたら、やっぱり飼い犬だよね?」
犬は、夕鈴の話を理解しているかの様に聞いている。
「……ねぇ、どこかで会った事、ある?」
夕鈴の問いかけに、まるで驚いたかの様に一瞬目を丸くした犬は、すぐに目を細め夕鈴の顔を見つめた。
「聞いたって言葉が分からないわよね」
犬が驚いた様に見えたのは自分の気のせいだろうと、夕鈴は苦笑した。


ぴたりと寄り添って歩き、夕鈴の家の前まで来た犬は顔を見上げた後で、また夕鈴の手を一舐めした。
「今日も送ってくれてありがとう。車に気を付けて帰ってね」
夕鈴の言葉を背に、犬は軽快に走って行ってしまった。
――あの後ろ姿、やっぱり見覚えがある気が……
誰かの飼い犬に似ているのだろうか、と考えてみたものの一向に思い当たらなかった夕鈴は、首を傾げながら家に入っていった。



その夜、夕鈴は不思議な夢を見た。
その夢の中の自分がいる所は、どうやら昔住んでいた家の近くらしい。
――あぁ、これはお母さんのお葬式の時ね……
小さい頃、夕鈴が家族と暮らしていたのは、今住んでいる所よりもはるかに田舎な町だった。
夕鈴の母親は若い頃に天涯孤独になったらしい。
そして数年後に夕鈴の父親と出会い、結婚した二人はその家で新生活を始めたと、以前に夕鈴も父親から聞いた事があった。
母親の通夜の時も、葬式の間も、夕鈴は泣かなかった。
ただ、まだ幼く母親の死を理解していない青慎を、ぎゅっと抱き締めていた。

葬式が終わり、眠ってしまった青慎を布団に寝かせた夕鈴は、父親はどこにいるのだろうかと探した。
居間にも台所にもその姿は無く、母親の祭壇が置かれていた座敷を見ると、父親は一人薄暗い部屋で俯き座っていた。
見つめる手の中には、にこやかに微笑んでいる母の遺影。
夕鈴はそっとその場を後にすると、家から出て走り出した。
家の裏手には小高い山があり林がある。
夕鈴は無我夢中で林の中を走り、やがて一本の木の根につまずき転んだ。
地面にうつ伏せになったまま、夕鈴は大声で泣き始めた。
ここなら弟の青慎や父親に泣き声を聞かれる心配もない。
自分が泣いたら弟はつられて泣いてしまうだろうし、父親はそんな二人を見てオロオロしてしまうだろう。
そんな風に母親を送るのは嫌だった。
だから悲しくても、淋しくても我慢した。
でもここなら誰もいない。
夕鈴は大粒の涙を流しながら、大声で泣き続けた。

どれくらいそうして泣いていたのだろうか、泣き疲れた夕鈴は段々と眠くなり、重ねた手の上に頭を乗せると寝息をたて始めた。
辺りは沈みゆく太陽の照らす最後の光で、何もかもが赤く染められていた。

夢の中の夕鈴は、何かにペロリと頬を舐められた気がして目を開けた。
そこに居たのはとても大きな黒い犬。
まるで夕鈴の体が冷えるのを防ぐ様に、ピッタリと夕鈴に寄り添って伏せていた。
驚いた夕鈴は叫ぼうとしたが、泣きすぎたせいか喉が痛く声が出なかった。
咳き込む夕鈴の背中をさする様に、犬は頭をこすり付けた。
夕鈴は恐る恐る振り返り犬の顔を見た。
夕陽の様な、穏やかな赤い瞳が自分を見つめている。
夕鈴が手をそっと伸ばし犬の頭を撫でてみると、嫌がりもせずにされるがまま大人しくしている。
夕鈴は思い切って犬の首に抱き付いてみた。
すると、犬は鼻先で夕鈴の体を押し上げる様な動きをした。
「乗れって言ってるみたい……」
夕鈴がそう呟くと、犬は尻尾を振った。

犬の背に揺られ、夕鈴はその温かさに安堵する。
ぺたりと犬の背に腹這いになった夕鈴は、そのふさふさした首に腕を回した。
犬はゆっくりした歩調で林を抜け、夕鈴の家の近くまで来るとピタリと足を止めた。
「送ってくれてありがとう」
夕鈴が犬の背から降り礼を告げた時、背後から父親の声がした。
「夕鈴!早くこっちへ!!」
どうしたのかと夕鈴が父親の元へ行くと、父親は犬に向かって石を投げた。
「あっちへ行け!!」
「っ!!止めて父さん!!あの犬は大人しいの!!」
父親の投げた石が犬の前足に当たったのを見た夕鈴は、そう叫ぶと犬に駆け寄った。
「ごめんね、痛かったよね」
夕鈴はポケットからハンカチを取り出すと、血がにじむ犬の前足に巻き付け縛った。
犬は礼を言う様に夕鈴の頬を舐めると、踵を返し走って行ってしまった。
その後ろ姿を見送った夕鈴は、呆然と佇む父親の側に行き手を握った。
「あの犬はね、私を家まで送ってくれたの」
「犬が?……夕鈴がいなくて、父さんすごく心配したんだ。もう、黙ってどこかへ行かないでくれ」
辛そうな顔でそう言いながらも、夕鈴の泣き腫らした目に気付いた父親は、夕鈴を力強く抱き締めた。
「――うん……ごめんなさい」
夕鈴が抱き締め返した父親の服からは、まだ線香の香りがしていた。



SNS初出2014年4月30日
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*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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