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喫茶『ねこっくー』

SNSでの足跡34000hitのキリリクです。
黎翔さんはきっと、夕鈴の前でだけ残念なんだと思います。



ドアを開けると、俺は途端にお嬢さん達に取り囲まれる。
待っていたと言わんばかりに体を擦り付け、尻尾を絡めてくる。
「よしよし、お嬢さん達は出勤前にご飯だな」
それぞれの年齢、体調に合わせたご飯を用意して食べさせ、食べ具合もチェックする。
「体温も平熱。今日もみんな健康だな」
それぞれお気に入りの場所でくつろぐお嬢さん達を後にして、次は店の中の掃除。
お嬢さん達が気持ち良くいられる様に、念入りに掃除をする。
「克右さん、お疲れ様っす。早いですね」
後ろから声をかけられ振り向くと、喫茶担当の糸目くんが笑っている。
「お嬢さん達がご機嫌良く働けるようにね」
そう言うと糸目くんは
「本当に猫が好きなんですねー」
と呆れた様な感心した様な口調で言った後、厨房へ入って行った。

「開店しまーす」
静かなBGMを流し入口の鍵を開ける。
さて今日はどんな客が来るだろう?


「いらっしゃいませー」
ドアを開けて入って来たのは若いカップル。
ずいぶんと雰囲気の違う二人だな、と思いつつ料金やシステムの説明をする。
「黎翔さん、猫ちゃんがいっぱいですよ」
「猫喫茶だから当たり前だろう?」
中に入り目を輝かせる彼女と、それをからかう様な彼氏。
膝の上に猫が来たと嬉しそうに微笑む彼女の笑顔につい見惚れてしまい、彼氏に睨まれてしまった。
失敗失敗。しかし気配に聡い彼氏だな。
「かわいいですねー」
優しく猫を撫でる彼女に微笑みながら、彼氏が
「夕鈴の方が可愛いよ」
と言っている。
良く恥ずかしくもなく言えるもんだな、と思っていると
「もうっ黎翔さん!!そういうのは良いですから、ちゃんと猫ちゃんを見て下さいっ」
と彼女に怒られていて、つい吹き出しそうになってしまった。
可愛いのに気が強い彼女だな。まるで猫みたいだ。
そう思いながらオーダーされたパンケーキをテーブルに運ぶ。
「わ、かわいいっ肉球の形ですよっ」
喜びが素直に表れる子だな、と自然と頬が緩みミルクティーと珈琲を置いて戻ろうとすると
「――この子は兎だから」
と彼氏の低い声が聞こえた。
え?と振り向くと
「近付いたら力強いキックをされるよ……まぁ僕も近寄らせないけどね」
と冷たい微笑みを向けられた。
――目が笑ってない…
俺は背筋に寒いものを感じながら、曖昧な笑みを浮かべそそくさとその場を離れた。
「あの彼氏こわいなー」
厨房に戻ってボソッと言った台詞に、糸目くんが
「どの人っすか?」
と首を出して客席を見た。
「あ…れ?夕鈴?」
「え?知り合い?」
「幼なじみってやつっすよ。家が近所で…へーまだ付き合ってたんだ」
中へ戻る糸目くんに
「彼氏…普通の人?」
と恐る恐る聞くと
「へ?会社員って聞きましたけど?」
とポカンとしている。
あれで会社員ねぇ…
確かに彼女に向ける顔は穏やかな笑顔だけど、さっきの目…
思い出すと背筋がぞくりとする。
整ってる顔立ちだから余計に凄味が増すんだろうなぁ。
二人を見ながらぼんやりとそんな事を考えていたら、彼女がこちらを見て手を挙げた。
「すいません、猫ちゃんのオヤツってまだあります?」
「ありますよ」
良かったと笑いながら注文する彼女にオヤツを持って行くと、二人の会話が聞こえた。
「ゆーりん猫ばっかり構ってる…」
「猫喫茶で猫を構うのは当たり前です!!かわいいし」
さっきの彼氏とはまるで別人な話し方に、俺は思わず二度見してしまった。
彼女にすねた様な顔を向けた彼氏は、面白くなさそうに珈琲を飲んでいる。
――猫にヤキモチ?
面白いカップルだな、と厨房でクスクス笑っていると糸目くんが不思議そうな顔をした。
「糸目くんの幼なじみ、気が強そうだね」
「まぁ、そうっすね。他の幼なじみとも顔を合わせると喧嘩してたり…あの二人、雰囲気どうっすか?」
「良さそうだけど。上手くいってるか心配?」
笑いながら尋ねると、糸目くんは両手を振って答えた。
「いや、自分じゃなくその喧嘩相手が心配性なもんで、報告だけでもと思って」
「へぇ、いい友達だな」
感心した様にそう言うと、糸目くんは軽く苦笑した。


「ありがとうございましたー」
最後の客を送り出し、店内の照明を落とす。
お嬢さん達にお疲れ様、と声をかけ世話をする。
今日も一日良く働いたなとお嬢さん達を撫でてから、自分も帰りの支度をする。
「お先に失礼しまーす」
「お疲れ様。明日もよろしくな」
糸目くんが帰ってから、自分も外へ出てドアに鍵をかけた。
空を見上げると満天の星。
明日はどんなお客さんが来るかな、と思った俺の脳裏に、あの印象的なカップルの姿が浮かんだ。



※リクエスト内容は
『現パロ・猫カフェで働いてるこっくー』

SNS初出2013年11月12日
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晩秋の甘味

SNSでの足跡33333hitのキリリクです。



「――我が妃はこちらか?」
「こ、これは陛下、お妃様でしたら庭園を散策中でございます」
夕鈴の自室を訪ねた黎翔に、掃除中の女官は慌てて礼を執りそう答える。
黎翔は表情を変える事もなく、その言葉が終わらぬうちにくるりと背を向け庭園へと向かった。
「――本当に陛下はご政務以外の時は、いつもお妃様とご一緒に過ごされて」
「とても仲睦まじいお二人でございますね」
笑顔になった女官達はまた忙しそうに掃除を再開させた。

「――妃は?」
「お妃様はただいま池のほとりの四阿で休まれておいでです」
夕鈴付きの侍女を見つけ尋ねた黎翔は、足早に四阿へと向かった。
礼を執ったままその後ろ姿を見送った侍女は、お茶のご用意はお二人分に変更ですわねと微笑みながら後宮へと急いだ。

池のほとりの四阿に着いた黎翔は静かな事を疑問に思い中を覗き込むが、やはりそこには誰もいなかった。
辺りを見回しても人の気配はない。
何かあったならすぐに浩大が報せに来るはずだと考えた黎翔は、危険な状況ではないと判断して夕鈴の行きそうな場所の見当を付け始めた。
――そう言えば最近は花の見える四阿が気に入っていたようだな…
そこへ行っても駄目なら浩大を呼ぶか、と黎翔はもう一つの四阿へ向かった。

「――陛下!?お仕事中では?」
「思わぬ休憩時間が出来たからな。妃と共に過ごそうかと来てみた――やはりこちらだったか」
秋の花々が咲き乱れる中に建つ四阿の中、夕鈴の姿を見付けた黎翔はどこか安堵した様に微笑みを向けた。
「池の側の四阿で休憩したのですが、風が思ったより冷たかったのでこちらへ…陛下もお寒くありませんか?」
心配そうに尋ねる夕鈴に、黎翔は四阿に入ると
「そうだな。我が妃が温めてくれるか?」
と夕鈴を抱き上げ椅子に座り、自分の膝の上に夕鈴を降ろした。
「あ、あのっすぐに温かいお茶をお淹れしますから、降ろして下さいっ」
「茶は侍女でも淹れられる。だが私を温められるのは妃だけだ」
ぎゅっと抱き締められた夕鈴は、黎翔の衣が冷たい事に気付いた。
「――陛下、もしかして長く外にいらしたんですか?」
「さほどでもないが…元気に跳ね回る妃を追ってな」
にやりと笑う黎翔の言葉に、夕鈴は顔を赤らめぷいっと横を向いた。
「そ…そんな跳ね回ってなどおりませんっ」
黎翔はすっと手を伸ばすと夕鈴の頬を両手で挟み、自分へと向けさせる。
「全く元気な兎だ――たまには私の腕の中でゆっくりと休んでくれぬか?」
「なっ…だ、だって陛下お忙しいのでは!?」
「まだ大丈夫だ」
くすりと笑いながら、黎翔は夕鈴の両手をとると先ほど自分がしたのと同じ様に、自分の頬に手を当てさせた。
「――妃の手は温かいな」
「あっあの、寒いのでしたら上に羽織る物を」
「我が妃以上に私を温める物がこの世にあるとでも?」
――何言ってんのこの人ー!!
ぼふっと一気に赤面した夕鈴に、黎翔はからかう様な口調で続ける。
「――ほら、また一層温かくなった」
「へ、陛下っ手をお放し下さいっ」
「我が妃は恥ずかしがり屋だな」
黎翔は押さえていた夕鈴の両手から手を放すと、夕鈴の体を自分の袖で包むように抱き締めた。
「陛下!?」
「手は放したが?」
「な、な、何で抱き締めるんですか!?」
抱き締められると、ちょうど夕鈴の耳元に黎翔の唇が近付き、囁かれるだけで夕鈴の心臓は落ち着かなくなる。
「妃が寒いだろうと思ってな」
「私は大丈夫ですっ」
両手を黎翔の胸に当て押そうとする夕鈴の耳に、黎翔は笑みを含んだ声を落とす。
「侍女達が心配そうに見ているよ」
「~~~っ!!へ、陛下のそのお気持ちだけで私には充分ですわっ」
「成程、心は温まったか」
黎翔はそっと体を離すと、まだ自分の胸に当てられている夕鈴の手に、自分の手を重ねた。
「そのように確かめなくとも、私の心も妃に温められたが…」
そして黎翔は夕鈴の髪を撫でた後、その頭を自分の胸へポスンと寄りかからせた。
「な!?」
「この方が良く分かるか?」
「へ、陛下…っ」
黎翔は夕鈴の髪を梳くように撫でつつ
「我が妃はいつまでも初々しいな」
と満足気な笑みを見せた。

黎翔が侍女に目で合図をすると、侍女の一人が進み出て卓上の道具でお茶を淹れ始める。
「あ…私が」
「妃は私を温めるという大切な役目があるだろう?」
黎翔は自分の前に置かれた湯気の立つ茶杯を手にすると、中身を一口飲んでから夕鈴の口元へ差し出した。
「君も温まると良い」
「私の分もありますよ?」
卓上のもう一つの茶杯を見ながら夕鈴が言うが、黎翔は薄く笑んだまま茶杯をひこうとしない。
「――冷めてしまうぞ?」
はっ恥ずかしいんですけどっ!!と叫びたい気持ちを抑えつつ、飲まないと解放してもらえない雰囲気を感じとった夕鈴は、意を決して茶杯に口を付けた。
温かいお茶が喉を通り、お腹の中まで温まって行く。
「――菓子も食べるか?」
茶杯を卓上に置いた黎翔は小さな菓子を一つ食べると、もう一つ指でつまみ再び夕鈴の口元に差し出した。
「じ、自分で」
「ほら、早く」
「でもっ」
夕鈴が反論しようと口を開けた所へ、黎翔は菓子を放り込んだ。
「君の様に甘い菓子だろう?」
にっこり笑う黎翔を夕鈴が真っ赤な顔で睨み付けるものの、黎翔は益々嬉しそうに笑みを深める。
「もう一つ食べるか?」
「けっ結構ですっ!!」
すっかり寒さなど感じなくなった二人に、秋の花々が笑いかけるように風に揺れた。



※リクエスト内容は
『原作寄りで黎翔×夕鈴の甘い話』

SNS初出2013年11月11日

のたりのたりかな

SNSでの足跡31000hitのキリリクです。



池の縁に植えられた木々が美しく紅葉し、その姿を水面に映す中を妙なる音色が流れて行く。
音の源は二面の古琴。
二人の男女が向かい合わせに座り、互いの音を楽しみながら己の古琴を爪弾く様は優雅であり、見慣れた筈の侍女達でさえその光景と音色にうっとりとしている。
「…あ」
ふ、と音が途切れ辺りには静寂が戻る。
「やはりこの部分が上手く弾けませんわ」
「うん、そこはもう少しゆっくりでも良いんじゃないかな」
穏やかな口調で言った後、おさらいをする様に水月は古琴を爪弾いた。
「こう…でしょうか?」
続いて紅珠も水月の音をなぞる様にその部分を奏でる。
「ああ、その方が良いね。先程よりも音に深みが出たよ」
にこりと微笑んだ水月は再び紅珠と音を重ねる。
秋の澄んだ高い空に消えてゆく音色に応える様に小鳥のさえずりが聴こえ、二人は目を合わせ微笑んだ。


心行くまで二人で合奏を楽しんだ後、侍女が頃合いを見計らって運んできたお茶の道具を受け取った水月は、慣れた手付きで二人分のお茶を淹れ始めた。
「――水月兄様、そのうち私にもお茶の淹れ方を教えて下さいませ」
「お茶を?」
「はい、お妃様はいつもご自分で、陛下の為にお茶をお淹れになるのですって」
うっとりと話す紅珠に、水月は軽く苦笑しながら尋ねた。
「それで紅珠も陛下にお茶をお淹れしたいのかい?」
「まぁっ!!いいえ、私はお妃様にお茶をお淹れして差し上げたいのですわ」
「お妃様に?」
水月は紅珠の答えに意外そうに目を瞠り聞き返した。
「そうですわ。陛下にはお妃様がお淹れになられるでしょう?でもお妃様は侍女が淹れたお茶をお飲みになっていらっしゃるのよ?」
「…それが普通じゃないのかい?」
不思議そうに言う水月に、紅珠はキラキラした笑顔を見せた。
「ですから、たまには誰かがお妃様のためにお茶をお淹れしてもよろしいとは思いませんこと?」
「紅珠がそんな事を言うとはね」
穏やかな笑顔を浮かべる水月に、紅珠は楽しそうに話を続ける。
「お妃様のお好みに合いそうな茶葉も取り寄せたいですわ…ああ、ついでに美味しいお菓子もお持ちしたいですわね」
「紅珠は本当にお妃様をお慕いしているんだね」
くすくす笑う水月から茶杯を手渡された紅珠は、お茶の香りを楽しんでから
「当然ですわ」
とお茶を一口飲んで続けた。
「お妃様はとても素敵な方ですもの。水月兄様もそう思われませんこと?」
「私は――不思議な方だとは思うけどね」
水月は薄く笑みながらお茶を飲むと、ほっと溜息を吐いた。
「良い天気だね。こんな日は楽器の音も澄んで気持ちが良いよ」
「ええ…ところで水月兄様、今日は出仕しなくても良い日ですの?」
水月は紅珠の問いにピシリと笑顔のまま動きを止めると、ふっと目線を庭へと移した。
「――本当に良い天気だね」
「水月兄様…」
困った方ね、と紅珠は気の毒そうに水月を見ながらも、あの陛下に睨まれたら仕方がないのかもしれませんわねと、諦めたようにお茶を飲んだ。



※リクエスト内容は
『終日のたりのたりかな的な二人の一日』
どの二人かはお任せとの事で、氾兄妹にしてみました♪

SNS初出2013年11月7日

ルームメイト・3

「あ、おはようございます」
「おはよう。早起きだね」
リビングへ入った夕鈴は、いつもは目にする事のないソファーに座る黎翔の姿に驚いてしまった。
と同時に、まだ洗ってもいない顔を見られた事に動揺し、パタパタと洗面所へ急いだ。
――びっくりしたぁ…そう言えば昨日は帰って来てたのよね…
ドキドキと高鳴る胸を押さえた夕鈴は、赤く火照った頬を冷ますように冷たい水で顔を洗った。

「夕鈴の今日の予定は?」
リビングに戻った夕鈴に、黎翔は待っていたように声をかけた。
「え、今日は…別に…」
今日が土曜日だった事を思い出しながら、夕鈴は答えた。
「じゃあせっかくの休みに悪いんだけど、僕の買い物に付き合ってもらえるかな?」
「食器とかですよね?良いですよ――あ、朝食召し上がります?」
「――いや…」
いつも食べないから、と言いかけた黎翔は、首を傾げる夕鈴に笑みを向けた。
「外に食べに行こうか。今日は一日振り回す事になると思うから、そのお詫びにおごるよ」
「え!?そんな、いいですよっ」
「年長者の言う事は聞くものだよ。さ、準備して」
微笑みながらもどこか有無を言わせぬ口調で促す黎翔に
「自分の分は自分で払いますからねっ」
と言いながら夕鈴は、背中に黎翔のクスクス笑う声を受けつつ自分の部屋へと入っていった。


黎翔が、ここで良い?と夕鈴に聞いたのは、マンションからさほど離れていないコーヒーショップだった。
「――もしかして朝はご飯派?」
入口でためらいを見せた夕鈴に、黎翔は尋ねた。
「あ、いいえ。ご飯でもパンでも大丈夫ですけど、珈琲以外の飲み物ってあります?」
「ある――と思ったけど…珈琲嫌い?」
「嫌いと言うか…苦手なだけです」
苦笑する夕鈴の背中に手を添えた黎翔は、自動ドアを開けながら、どうぞと中へ促した。

「結局おごって頂いてすみません」
トレーを運んで来た黎翔に、夕鈴は申し訳なさそうに言った。
黎翔は笑みを浮かべながら
「僕の都合に付き合わせてるんだから当たり前だよ。気にしないで」
とテーブルにトレーを置き、自分も夕鈴と向かい合わせに椅子に座った。
「ありがとうございます。頂きますね」
夕鈴はそう言うと、小さめのバケットに野菜やハムやチーズがはさんであるサンドイッチを、にこにこしながら食べ始めた。
「美味しそうに食べるね」
黎翔の言葉に、夕鈴の頬がかあっと赤く染まった。
「こ、子供っぽいってよく言われます」
「僕は可愛いと思うけど…誰に言われるの?家族?」
黎翔が珈琲を飲みながら尋ねると、急に夕鈴の眉間にシワが寄った。
「いえ…幼なじみです。いつも『ガキ』って言われるんです」
「幼なじみ、か……ねぇ夕鈴、これ一つ交換しない?」
黎翔は自分の皿に乗っている、スモークサーモンとクリームチーズ入りのサンドイッチを指差した。
「あ、はいどうぞ」
夕鈴は切り分けられている自分のサンドイッチの、真ん中の部分を黎翔の皿に乗せた。
自然とこういう事が出来る子なんだな、と笑みながら黎翔も真ん中を夕鈴の皿に乗せ、言った。
「くれるのは端でも良かったのに」
「だって、真ん中が一番美味しいじゃないですか?」
そう言ってココアを飲む夕鈴を、黎翔は目を細め眺めていた。


「――それで、食器ってどこに売ってるのかな?」
店を出て、歩きながら黎翔が尋ねた。
「え…と、種類にもよりますけど……安いのなら100均とかスーパーでも売ってますし、良い物ならデパートとか…?」
「そうだなぁ…ついでに色々見たいし、デパートが良いかな。タクシー拾う?」
「…バスで行けますよ?」
もしかして黎翔さんって、ちょっと世間知らずなのかしらと思いながら、夕鈴は近くのバス停の路線図を見た。
「これ駅まで行くバスですから、駅前のデパートに行けますよ。すぐ来ますし」
「へぇ、じゃバスで行こうか。よく知ってるね」
「…バスに乗った事、まさかありますよね?」
感心した様に言う黎翔の口調が気になった夕鈴は、おそるおそる尋ねてみた。
「ん?何回かあるよ」
――この人一体今までどんな生活してきたのかしら…
考えてみると、一緒に暮らしている相手について何も知らない事実に気付いた夕鈴は、相手を理解する為には情報も必要よね、と思い付いた。
そう考えると今日は色々と聞くチャンスかもしれないと、夕鈴は隣に立つ黎翔の顔を見上げた。
「――何?」
「えっと、黎翔さんの好きな食べ物とか教えてほしいなって」
夕鈴が本当に聞きたかったのは黎翔の家族や実家についてだったが、まだ数度しか会っていないのに流石にそれは不躾かと当たり障りのない質問に変えた。
「んー…好き嫌いは特にないかな」
「じゃあ、好きな芸能人とかは?」
「最近テレビもあまり見てなくてね。詳しくないんだ」
苦笑しながら言う黎翔に夕鈴は、そうですか、と呟いた。
「今日は色々聞いてくるね。何かあった?」
黎翔からまっすぐな視線を向けられた夕鈴は、心の中を見透かされたような気分になり、心臓がドキンと跳ねるのを感じた。
「いえ、その、何となく」
「――僕の事を知りたいの?」
「そ、それはやっぱり同居人としては、どんな人か気になりますから」
そっか、と呟いた黎翔は夕鈴の髪を一房、指先でくるりと巻いて耳元で囁いた。
「僕がどんな人間か、徐々に知ってくれれば良いよ……先は長いからね」
「――え?それってどういう…」
夕鈴が聞き返そうとした時、バス停に一台のバスが滑り込んで来た。
ブザー音と共にドアが開き、黎翔は夕鈴の手をとり先に乗るように促す。
するりと黎翔の指先から解けた髪を眺めながら、夕鈴はバスに乗り込んだ。
続いて黎翔も乗り込み夕鈴の隣に立つと、物言いたげに自分を見上げる夕鈴ににっこりと笑顔を向けた。
――何だか今日一日ものすごく疲れそう…
そんな嫌な予感を振り払うように、夕鈴は目をつむり頭を軽く振った。



SNS初出2013年11月3日

Happy Halloween

今日は10月31日、世間はいわゆるハロウィンだそうだ。
去年までは自分には関係ないと、オレンジ色の装飾品や顔のついたカボチャを大した興味もなく眺めていたが、今年はどうやら自分も無関係ではいられないらしい。
「黎翔さん、明日は帰り遅くなります?」
夕鈴から電話でそう聞かれたのは昨夜の事。
「明日?平日だよね…何かあった?」
「あっ、あの、忙しいならいいんですけど、明日ハロウィンなのでカボチャのお菓子を持って行こうかなって…」
語尾がだんだん小さくなって行くのは、普段忙しい僕に遠慮しているからなんだろうな、と思うと自然と頬が緩む。
「大丈夫だよ。明日は定時で上がれそうだから」
「本当ですか!?じゃ、学校からまっすぐ行きます!!」
夕鈴の嬉しそうな声を聞きながら、明日残業して提出予定の仕事を今夜中に終わらせよう、と僕は考えた。
――徹夜かな…まぁいいや。
「僕より先に着いたら中で待ってて」
「はいっ」
お休みの挨拶をして電話を切った後、僕は今夜のために珈琲を淹れようと立ち上がった。


会社への行き帰り、電車の中で眠って少し頭がスッキリした僕は、マンションに帰る前に夕鈴の好きな紅茶を買った。
昨夜珈琲を淹れる際に、紅茶がもう無くなっているのに気付いたから。
お土産が紅茶だけでは寂しい気がした僕は、夕鈴がお菓子を持って来てくれるならケーキの類はいらないだろうと、花屋に寄って飾り用に顔が描いてあるミニカボチャを買った。

「ただいまー」
玄関を開けた僕は、灯りがついているのに気付き声をかけた。
いつもならすぐに夕鈴が出迎えに来てくれるのに、今日は来ない。
不思議に思いながらリビングに入ると、夕鈴が
「Happy Halloween!!」
と飛び出して来た。
「――夕鈴?その格好…」
「え?…へ、変ですか?」
「いや…」
変どころか可愛すぎるから!!僕は自分の中の狼を抑えつつ、なるべく冷静に言った。
「すごく可愛いよ。魔女?」
「はい、せっかくなので、仮装してみました」
頭には三角帽子、黒いミニのワンピースに黒い模様入りのストッキング…でもこのストッキング、さっき飛び出して来た時にちらりと太ももまでだったのが見えた。
太もも部分にレースとか凶悪だろう。
もう一度見たいけどスカートを捲ったら怒るだろうな、そんな事を考えながら夕鈴をまじまじと見ていたら、夕鈴は顔を赤らめて恥ずかしそうに
「Trick or Treat」
と小さな声で言った。
「――僕、お菓子持ってないけど、どんなイタズラしてくれるの?」
「え!?してくれるって…あれ?」
「夕鈴にならどんなイタズラされても大歓迎だけど?」
にっこり笑う僕を見て顔を一層赤らめた夕鈴は、わたわたしながら
「えーと、か、顔、そう!!顔にマジックで落書きしますよっ」
と言ってきた。その一生懸命な言い方が可愛くて、僕はミニカボチャを渡しながらクスクス笑った。
「落書きは嫌だな。お菓子は無いけど、これで許してくれる?可愛い魔女さん」
「わ、可愛い!!貰って良いんですか?」
「勿論どうぞ。あと紅茶もね」
夕鈴は僕が差し出した紅茶を受け取ると、嬉しそうに笑いながら
「ありがとうございます!!早速淹れますね」
とキッチンへ向かった。夕鈴が歩く度にちらりちらりと見えるレースが気になりながらも、僕は着替える為に寝室へ向かった。

「お待たせ」
僕がリビングに戻ると、テーブルの上には僕用の珈琲と夕鈴の紅茶、そして夕鈴手作りのお菓子が並んでいた。
「すごいね、全部作ったの?」
「作り始めたら楽しくなっちゃって」
ソファーに座る僕に照れ笑いをしながら、夕鈴がお菓子の説明をしてくれた。
「この切り分けたのがパンプキンパイで、こっちはカボチャ入りクッキー、それとカボチャのプリンです」
「プリンって…学校に持って行ったの?」
「帰りに親戚の家に寄るって言って、家庭科室の冷蔵庫を借りました」
他はロッカーに入れてたんですと説明する夕鈴に、僕は手招きをした。
「…?何ですか?」
僕が夕鈴に耳打ちするような素振りを見せると、夕鈴は耳を寄せるように身を屈めた。
「あのね…」
言いながら僕は夕鈴の腰をさらい自分の膝の上に座らせた。
「きゃっ!!あ、あの、降ります!!」
「ダメ」
座ると一層スカートが短くなって、夕鈴は真っ赤な顔でスカートの裾を引っ張っている。
そんな事をしても丈は変わらないだろうに、と僕がくすりと笑うと、夕鈴が涙を浮かべた瞳で睨み付けてきた。
「本当は、すっごく恥ずかしいんですよっ」
「――うん」
「でも、明玉に見立ててもらって…黎翔さん喜ぶかなって」
「――――うん」
今にも零れ落ちそうな涙が光るのを見て、僕はたまらず夕鈴の頬に手を添え、そっと唇を重ねた。
もう片手を夕鈴の背中に回すと、夕鈴の体がビクッと小さく跳ねた。
そんな反応をされると、余計に色々な所へ手を這わせたくなる。
でもあまり深追いすると辛くなるのは自分だと頭の隅では思いながらも、僕の手は勝手に夕鈴の背から腰、そして太ももへと伸びて行く。
「れ…しょう、さん…?」
唇を離すと、夕鈴が戸惑うような声で僕に問いかけてきた。
目を潤ませて、頬を紅潮させ、僕を見つめる夕鈴。
こんな顔されたら手を出さない訳ないよね、と僕はもう一度夕鈴に口付けた。
太ももを撫で上げレースの内側に指を入れたら、途端に夕鈴が僕の胸を叩き出した。
「――なに?」
「なっ!!何って、黎翔さんどこに指入れて…!!」
夕鈴は慌てながら、今度は僕の手をぺちぺちと叩いている。
可愛いなぁと思っていると、指にピッと違和感を感じた。
「あー!!黎翔さんっ!!」
「え?」
見ると、ストッキングに線が走っている。
「伝線…」
「でんせん?」
聞き返した僕に、夕鈴は本気で怒った顔を向けた。
「黎翔さんっ!!」
「はいっ」
「このストッキング高かったんですよ!?勇気を出して買ったのにっ!!何で指入れるんですか!?」
本気で怒る夕鈴にはかなわない事を知っている僕は、なるべく落ち着かせようと
「じゃあ僕が新しいのを買ってあげるよ」
と言ってみたが、逆に余計怒らせてしまったようだ。
「黎翔さん!!私が言いたいのは、何ですぐ触ってくるのかって事です!!見るだけにして下さい!!」
「――無理」
僕はストッキングにかけていた指を下へと動かした。
「ななな何する気ですか!?」
「え?これもう履けないんでしょ?脱がせてあげようかと思って」
「きゃー!!止めて下さいっ」
夕鈴はバタバタと暴れると、僕の膝から飛び降りて
「黎翔さんのスケベ!!セクハラ!!」
と叫び寝室へ入ってしまった。
スケベかぁ…まぁ男だし?でもちょっとグサッときたな…
少し落ち込みながら冷めてしまった珈琲を飲んでいると、夕鈴が寝室から顔を出した。
「黎翔さん、もうセクハラしないで下さいよ?」
「――恋人なのに?」
「うっ…だ、だって、恥ずかしいからイヤなんですっ」
おずおずと寝室から出て来た夕鈴は、ちょこんと僕の隣に座った。
寝室で着替えたようで、今は制服姿だ。
ブラウスの上には少し大きめのセーター、スカートはミニで膝上までの靴下…
――これ何て拷問?
こんなに可愛い恋人が制服姿で隣に座ってて手を出すなって?でも嫌われたくないしな…
そんな自分の意志とは裏腹に、無意識に夕鈴へと伸びた手を見た夕鈴は
「あ、コレですか?」
と掌にクッキーを乗せてくれた。
「――あ、あぁ…ありがとう」
「どういたしまして」
にっこり笑う夕鈴の、花のほころぶような笑顔を見ながら僕は、複雑な気持ちでクッキーをかじった。
「お菓子を貰っちゃったから、イタズラも出来ないなぁ」
「し、しなくていいですっ」
かあっと赤くなった夕鈴の頬に、僕はチュッと軽いキスをした。



SNS初出2013年10月31日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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