FC2ブログ

スパーク


嬉しかったので、ちょっとご報告(*´ω`*)

10月27日、スパークに行って来ました。
私は本を買う側なのですが、南なみさんのご厚意により売り子のお手伝いをさせて頂く事に♪
売り子は楽しいから好きです(´艸`)うふふ

他の狼陛下サークルさんにもご挨拶したり、ちょっと抜け出して本を買わせて頂いたり。
その際にお知り合いの方にはささやかなお菓子をお渡ししたのですが、皆様律儀にお返しを下さって…
しかもささやかすぎる私のお菓子と違って、皆様素敵なお菓子を下さったのです…

皆様何故そんなに女子力高いの(;_;)
何だか申し訳ない気持ちになりながらも、しっかり頂いてきてしまいました←

UPした写真がそのお菓子たちです。
そしてこの中の約半分は、北の大地からいらっしゃった一人の方から頂いた物なのです(笑)
もらいすぎorz
本当はこれ以外にもいくつか頂いたのですが、帰りの電車の中でお腹が空いて食べてしまいました(*´∇`)てへ
かまどの形とか抹茶味とかハートの形のお菓子を美味しく頂きましたよv

当日お会い出来た方も多く、とても楽しいイベントでした。

私は地方在住ですが、東京までそんなに遠くないので、イベントにはちょこちょこと出没しております。
西日本に現れる時もまたあるかも…?
もし見かけたら声をかけてみて下さい(分からないって)

スパークに参加された皆様、本当にお疲れ様でした。
お話出来た方やプレゼントを下さった方、そしてイベントに一緒に行って下さった方、皆様に感謝を込めて。

ありがとうございましたm(__)m
スポンサーサイト

続・ルームメイト

同居が始まって一週間ほどが過ぎ、夕鈴もようやくこのマンションでの生活に慣れてきた。
黎翔自身が言っていた通り、この一週間で黎翔が帰って来たのは一回だけ。
しかも夜、夕鈴が寝てから戻って来て朝は夕鈴が起きる前に出て行ってしまう。
同居とは言っても一人暮らしのようなものね、と夕鈴は安心した様などこか寂しい様な複雑な気持ちだった。
ところが次の日、夕鈴がバイトを終えマンションに戻ると、リビングに黎翔の姿があった。
テレビを観ていた黎翔は夕鈴に気付くと振り返り
「お帰り」
と微笑んだ。
「あ…ただいま帰りました。黎翔さん何だか久しぶりですね」
「うん、やっと一区切りついたからね」
「え…と、珈琲でも淹れましょうか?」
パタパタとキッチンへ向かう夕鈴に、黎翔は少し驚いた顔をした。
「同居してるとはいえ、僕の世話を焼く必要はないよ」
「あ、ついでですから」
やがて夕鈴は黎翔の珈琲と、自分用のミルクティーを運んで来た。
「――同じ物で良かったのに…手間でしょ?」
「そんな事ないですよ」
にっこり笑う夕鈴に、黎翔は薄く笑みを返し珈琲を飲み始めた。

夕鈴が家事を得意としているのは、黎翔も気付いていた。
久しぶりに帰った自分の家に入った黎翔は、その変化に目を瞠った。
夕鈴が来る前よりもはるかに綺麗になった室内、ソファーに置かれたクッションはふかふかになり日向の匂いがする。
テーブルの上に飾られた控えめな花や、キッチンに置かれた様々な調理器具は夕鈴が来る前には無かった物だ。
――ルームメイトを募集して良かったな
勿論それは申し込んできたのが夕鈴で良かった、という意味なのは黎翔自身にも分かっていた。

「あ、そうだ。黎翔さんお夕飯はもう食べました?」
「いや――実は帰って来てから今まで、ソファーでうたたねをしていたから」
苦笑する黎翔に、夕鈴は明るい声で言った。
「私もまだなんです。簡単な物で良ければ、二人分作りますよ」
「さっきも言ったけど、僕の世話を焼く必要はないからね?」
夕鈴はクスッと笑うと
「一人分も二人分も変わりませんから。あ、でも本当に簡単な物ですからね?」
と念を押してキッチンへと入って行った。
その後ろ姿を見ながら黎翔は、いい子なんだなぁと口角を上げ軽く溜息を吐いた。

「お待たせしました」
夕鈴が目の前に置いてくれた皿を見て、黎翔は意外そうな声を出した。
「…オムライス?」
「あ…もしかして苦手でした?」
「いや、好き嫌いはないから」
良かった、と言いながらスープとサラダを並べる夕鈴の手際の良さに、驚かされてばかりだな、と黎翔から苦笑がもれた。
「召し上がって下さい」
「…いただきます」
そんな挨拶もいつぶりだろうかと、ふと黎翔は思った。
「――美味しいな」
意識せずに口をついて出た黎翔の素直な感想に、夕鈴は嬉しそうに微笑んだ。
「お口に合って良かったです」
全てを綺麗に食べ終えてから、黎翔は夕鈴に相談を持ちかけた。
「ねぇ、夕鈴。相談があるんだけど」
「何ですか?」
夕鈴はお茶を淹れると黎翔の前に置いた。
「一人分も二人分も変わらないと言っていたけど、だったら僕が帰る日には僕の分も夕食を作ってもらえないかな?」
「え?」
「食費はもちろん払うよ。帰る日は夕方までに連絡を入れる――ダメかな?」
夕鈴は引っ越して来た日の事を思い出していた。
冷蔵庫の中にあったのは調味料とミネラルウォーターだけ。
キッチンの隅に置かれたゴミ袋の中にはコンビニ弁当の空き容器。
「…いいですよ。簡単な物しか作れませんけど」
コンビニ弁当よりは手作りの食事の方が体に良いだろうと、夕鈴は快く承諾した。
「ありがとう。僕の分はキッチンのテーブルの上に置いてくれれば良いから」
「あ、でも一つ問題が…黎翔さんって食器ほとんど持ってないですよね」
言われて初めて気付いたように、黎翔は夕鈴の顔を見た。
「そうか――次の休みに買ってくるから。どんな物が必要か、紙に書いてもらえるかな」
「あの、だったら一緒に行きます。書き出すよりその方が早いです」
黎翔は一瞬目を瞠ったものの、すぐに笑みを浮かべ言った。
「どうせなら、二人でお揃いの食器を揃えようか?」
「なっ!!そんな恥ずかしい事、嫌ですっ」
ぷいっと横を向いた夕鈴の赤く染まった頬を見て、黎翔はクスクス笑った。
「新婚さんみたいだね」
「違いますっ同居人です!!」
これからは家に帰るのが楽しみになったな、と黎翔は一層笑みを深めた。



SNS初出2013年10月19日

ルームメイト

診断メーカーというもので遊んでみた結果がこちら↓
『あなたは1時間以内に5RTされたら、大学生で一緒に暮らしてる設定で付き合っていないけど甘々な雰囲気の黎翔と夕鈴の、漫画または小説を書きます。』

という訳で←
※年齢操作有
黎翔22歳・夕鈴18歳設定



「なかなか希望通りってのは難しいわね」
夕鈴は大学構内の掲示板の前で溜息を吐いた。
この春から新一年生として大学に入学した夕鈴は、ほぼ今の生活に満足していた。
不満があるとしたら、通学時間だ。
元来、早起きが苦手ではない彼女に遅刻の心配などないが、時間が勿体ないと夕鈴は常日頃から思っていた。
近くに住む場所を借りようかと思ったものの、大学に近い場所は家賃も高くとても手が出せない。
出来るなら定期代よりも安く近場に住みたい、そんな夕鈴と同じ境遇の者達が掲示板に貼りだした『ルームメイト求む』のチラシを、夕鈴は毎日のように見ていた。
「あ…これいいかも」
夕鈴の目に留まったのは、大学へ歩ける距離にあるマンションの住人が書いたチラシだった。
――この物件でこの値段は相場より大分安いわよね…珀さん?下の名前が書いてないけど…
今時にしては珍しく手書きで書かれたチラシ。
優美な書体から、女性だろうと思った夕鈴はその場で携帯を取り出し、チラシを見ながら電話をかけた。
『――はい』
不機嫌そうな男性の声に夕鈴は一瞬戸惑ったが、気を取り直し話しだした。
「あ、あの、私大学の掲示板の」
『あぁ、ルームメイト希望?じゃその紙を掲示板から外して、そこの地図を見ながら来てくれるかな』
「は、はいっ」
男性が出るとは思ってもみなかった夕鈴は通話を切った後で、もしかして募集は男性のみかしらと思ったが、行くだけ行ってみようとチラシを手に歩き出した。


「ここ…よね?」
閑静な住宅街の高台に建つ大きなマンション。
見た目もまだ新しく、チラシに書かれた金額は間違いではないかと思いながら、夕鈴はエントランスに入り書かれている部屋番号を入力した。
『はい――あ、着いたの?じゃあ部屋まで来てくれる?』
インターホンから聞こえた声は、先ほど電話で聞いたのと同じ声だ。
開いたドアを通り抜けエレベーターへ向かう。
階数を押しドキドキと高鳴る胸を押さえながら、夕鈴はもう一度チラシを見た。
やがてエレベーターが止まり、廊下へ出た夕鈴は部屋番号を口の中で繰り返しながら目当てのドアの前で立ち止まった。
チャイムを押すと少しの間の後、ガチャリとドアが開き若い男性が現れた。
「どうぞ、中へ入って」
「あ、お邪魔します」
男性の後に続いて中へ入った夕鈴は、リビングのソファーに座るように促された。
「――それで、シェア希望は君自身?何年生かな?」
「い、一年生です。私本人ですけど…女性はダメですか?」
男性は夕鈴を見つめ考えるように腕を組んだが
「いや…特に問題はないな」
と静かに言った。
「僕はこの春から院に進んでね、研究の都合で家に戻るのが週一ほどになりそうなんだ。そこで、留守になると無用心だから誰か居てくれた方が安心かと思ってね」
「つまり留守番ですね」
ルームメイトが男性という事に多少の抵抗はあったものの、ほとんど顔を合わせない事、そして何より安い事に魅力を感じていた夕鈴は、ぺこりと頭を下げた。
「ぜひ、よろしくお願いします」
「じゃあ、この紙に実家の住所と電話番号、それから名前を書いてもらえるかな?」
え?と目を丸くする夕鈴に、男性は口角を上げ静かに言った。
「部屋は二部屋あるからそれぞれの個室で良いとして、リビング等の共有部分にある物に何かあった時の為に、ね」
あぁ、持ち逃げとか?と思い付いた夕鈴は、初対面の相手だから無理もないわよね、とペンを走らせた。
夕鈴が書いている最中に、男性は思い付いたように条件を提示した。
「――この家に、恋人を連れ込むのは禁止ね」
「こっ…!!いないから大丈夫です」
ふうん、と呟いた男性は、夕鈴から紙を受け取るとざっと目を通した。
「汀…夕鈴?自己紹介が遅くなったけど、僕は珀黎翔。これからよろしくね」
にっこり笑った黎翔の笑顔に、夕鈴は自分の胸がドキンと跳ねるのを感じた。
かあっと頬が染まった夕鈴を見て、感情が直ぐに顔に出る素直な子だな、と黎翔は目を細めた。
「申し込んできたのが、君のような信用できそうな相手で良かったよ」
「え…」
「どんな人間が来るかと思って緊張してたんだ」
全く緊張した様子も感じさせずに、黎翔はそう言って微笑んだ。
「わ、私もシェアとか初めてで…珀さんのような紳士的で大人な方で良かったです」
頬を染めたままで、にこりと微笑んだ夕鈴をじっと見ていた黎翔は
「――黎翔、で良いよ。それに、君が思っているほど紳士でも大人でもないかもね」
と意味ありげにニヤリと笑った。
「え?それって」
どういう意味かと夕鈴が尋ねる前に、黎翔が口を開いた。
「いつ越してくるの?」
「あ、え…と、今度の週末でも良いですか?」
「――うん」
答えながら黎翔は夕鈴に向かって手を差し出した。
握手かと思ってその手を握った夕鈴は、手の甲に唇をつけられ思わず叫んでしまった。
そんな夕鈴の様子に黎翔は
「楽しい同居生活になりそうだね」
とクスクス笑った。



SNS初出2013年10月18日

キノコの日

10月15日はキノコの日だそうです。



二、三日ほど秋の雨が降り続いた翌日、ようやく晴れた空を見上げ夕鈴は庭園を散策していた。
池のほとりを歩き、ふと回廊を見ると遠くに黎翔の姿があった。
政務室へ戻られる所かしら、と夕鈴が眺めていると黎翔は夕鈴に気付き手を上げた。
後ろに控える侍官に何か告げた後、黎翔は向きを変え夕鈴の方へ歩き出した。
「――夕鈴、散策か?」
「はい、陛下はご政務中では?」
「ちょうど先ほど懸案が一つまとまった所だ。私も妃の散策に付き合おう」
回廊から庭園へと降り立った黎翔は、夕鈴に笑顔を見せると手をとり歩き始めた。
前日まで雨が降っていた為に木陰や茂みの周りなどはまだ湿った土の色を見せており、衣の裾を気にする夕鈴に気付いた黎翔は、夕鈴が道の真ん中を歩ける様にその手を軽く引いた。

「あっ陛下、あんな所にキノコが生えてますよ」
無邪気なはしゃいだ声で夕鈴が指差した方を見ると、確かに奥まった木の根元に白いキノコが数本生えているのが見えた。
黎翔は夕鈴に気付かれない程わずかに眉を寄せると、今にも木立の中に入りそうになっている夕鈴の腰へ腕を回し抱き上げた。
「我が妃はいつも元気が良いな。着物が汚れてしまうぞ」
かぁっと頬を赤く染めた夕鈴は
「す…すみません、はしゃいでしまって」
と恥ずかしそうに俯いた。
「いや、妃の元気な姿を見て私もやる気が出た。私は政務に戻るから君も後宮へ戻っていてくれ」
言い終わらないうちに後宮へと足を向ける黎翔に、夕鈴は抱き上げられたまま、なぜ自分も戻るのだろうかと疑問に思っていた。

夕鈴の部屋へ入った黎翔は椅子の上に夕鈴を降ろし
「では行ってくる」
と夕鈴の髪に口付けた。
「い、行ってらっしゃいませ」
真っ赤な顔の夕鈴に微笑み踵を返した黎翔は、部屋を出る際に夕鈴付きの侍女達に小声で指示を出した。
「――分かったか?」
「「御意」」
深く礼を執る侍女達の姿に違和感を覚えた夕鈴は、黎翔が出て行った後に侍女達に尋ねた。
「陛下は何を?」
「お妃様を頼む、と仰いました」
にこっと微笑みながら言う侍女に、そんな態度ではなかったと夕鈴は思ったが、それ以上は何も言えず椅子に戻った。
そしてふと思い出したように
「――そう言えば散策も途中だったわ…今から行っても良いでしょうか?」
と尋ねたが、互いの顔を見合わせた侍女達は
「もうじき風も冷たくなります」
「どうかお部屋の中でおくつろぎ下さいませ」
と夕鈴の前の卓上にお茶や菓子を並べ、夕鈴の好みそうな読み物を持って来た。
夕鈴は何だかやんわりと断られたような気がして、珍しい事もあるものだとお茶を一口飲んだ。
そして窓から外を見た夕鈴は、木立の中に数人の人影を見付け呟いた。
「あら?後宮内では見た事のない人達ね」
その言葉を聞いた侍女達は窓布を降ろすと
「申し訳ありません、お妃様。ただいま庭園の手入れを行なっております」
「お妃様はお姿を見られないよう、こちらに」
と部屋の奥へ行くように促された。
――手にキノコを持っていたような気がしたんだけど…こんな時間に庭園の手入れ?
腑に落ちない物を感じながらも、夕鈴は侍女に従い部屋の奥へ向かった。


その夜、黎翔と夕餉を共にした夕鈴は、卓上に並べられた料理に目を瞠った。
「うわぁ…キノコが沢山ですね。あ、もしかして」
「庭園に生えていた物だが」
やっぱり、と笑いながら料理に箸をつける夕鈴を、黎翔は目を細め眺めていた。

本当は毒を持つキノコを一掃するために黎翔が指示した『手入れ』だった。
夕鈴が触れる事のないように、部屋から出さないようにと侍女達にも言い含めた。
だが、夕鈴に見られてしまった事を報告によって知った黎翔は、食べる為に採ったと思わせた方が良いだろう、と判断し厨房に様々なキノコ料理を手配させた。
実際には、庭園に生えていたのはほとんどが毒キノコだった。
中には猛毒を持つキノコも少なからずあり、それらは厳重に処分された。
庭園という、夕鈴のいる後宮から身近な場所に生えたそれらの毒キノコが、悪意を持つ誰かの手に渡ったら夕鈴の口に入らないとも限らない。
そんな事を思い付きもしないだろう夕鈴の顔を見て、黎翔は笑みを浮かべた。
「?陛下、キノコはお嫌いですか?」
箸が進んでいない黎翔を見て、夕鈴が心配そうに尋ねる。
「いや、嫌いではない」
料理を食べ始めた黎翔に、夕鈴は
「美味しいですよね」
と笑顔を向けた。

どうか、いつまでも笑顔でと黎翔は思った。
自分の側にいる事で忍び寄ってくる闇は、君が気付く前に取り除くから。
だから変わらない笑顔を自分に見せ続けて欲しい、と黎翔は心の内で願い夕鈴へ微笑んだ。



SNS初出2013年10月15日

サイレント

無声映画のようなお話が書けないものかと、台詞が無いお話に挑戦してみました。
若干、読み辛いと思います(笑)



秋の気配も濃くなり木々も紅葉し始めた庭園を、白陽国の国王とその妃が連れ添いながら散策を楽しんでいた。
何かを話し合い、時折お互いを見つめ微笑み合う。
そんな仲睦まじい二人の姿を、少し離れた場所から侍女達も微笑みながら見守っている。

やがて二人は四阿に入り、椅子に腰を降ろした黎翔は慣れた動作で夕鈴を抱き上げると自分の膝の上に座らせた。
途端に顔を赤く染め、恥ずかしそうに降りようとする夕鈴を抱き締めた黎翔は、夕鈴の腹の前で手を組みその肩に顎を乗せた。
夕鈴の耳元で黎翔が囁くと、夕鈴は一層顔を赤らめ口元を袖で覆った。
そんな夕鈴の様子に黎翔は笑みを深め、組んでいた手を離すと片方の手で夕鈴の手をすくい上げた。
夕鈴の細い指を自分の指と絡め、きゅっと握った黎翔は目を細め夕鈴の顔を覗き込む。
夕鈴は慌てた様子で目を逸らすが、黎翔の静かな言葉にゆっくりと振り向き、おずおずと目線を合わせた。
上目遣いに自分を見上げる夕鈴の頬に軽く口付けした黎翔は、固まる夕鈴にクスクス笑いながら卓上に手を伸ばした。

そこには侍女が用意した茶器が並び、菓子箱も置かれていた。
菓子箱から一つ菓子をつまんだ黎翔を見て、夕鈴は黎翔の膝から降り立つと茶器に手を伸ばし茶杯にお茶を注ぐ。
夕鈴が差し出した茶杯を受け取った黎翔は、一口そのお茶を飲み、菓子を頬張ると夕鈴に笑顔を見せた。
夕鈴もにっこりと微笑み、黎翔の茶杯に再びお茶を注ぐと、もう一つの茶杯に自分のお茶を注いだ。
黎翔に菓子を勧められた夕鈴は、椅子に座り菓子を一つつまみ上げた。
秋の花をかたどった小さな菓子は可愛らしい形と色をしており、夕鈴は掌に菓子を乗せしばらく眺めていた。
黎翔はそんな夕鈴の横顔を口角を上げ眺めていたが、すっと夕鈴の髪を一筋さらうと指に絡め唇を付けた。
慌てて体を離そうとする夕鈴に、黎翔は庭園の奥の方を指差し見るように促した。
その視線の先には、夕鈴が掌に乗せている菓子と同じ花々が咲き乱れ、夕鈴は目を輝かせ黎翔に礼を言うと菓子と花を見比べて嬉しそうに笑った。
夕鈴が菓子を口に入れたのを見計らい、黎翔は夕鈴の手をとり立ち上がった。
手を軽く引かれ、夕鈴は四阿の外へといざなわれる。
どこへ行くのだろうかと、不思議そうに夕鈴は隣を歩く黎翔の顔を見上げた。

やがて、先ほど黎翔が指差した花々が咲き誇る場所に着くと、黎翔はその花を一輪手折り夕鈴の髪にさした。
丁度その時、どこか清々しい秋の風が吹き、夕鈴の髪に飾られた花が揺れる。
夕鈴はなびく髪を手で押さえ、思わず目をつぶった。
ふわりと何かに包まれた気がして夕鈴が目を開けるとごく近い距離に黎翔の顔があり、黎翔の腕の中にいると理解した夕鈴は叫びそうになる自分をなんとか抑えつけた。
黎翔はじっと夕鈴の髪にさした花を見た後、今度は色の違う花を手折り夕鈴の髪にさした。
そして満足気な笑みを浮かべた黎翔は、夕鈴を抱き上げ足を進める。

少し困ったような表情で頬を赤らめる妃と、その妃を愛おしそうに抱きかかえる国王の姿に、侍女達は益々羨望の溜息を吐き二人を温かく見守る。

そんな二人にとっての何気ない日常は、秋晴れの空の下、今日も穏やかに過ぎて行く。



SNS初出2013年10月14日

なみだ

SNSのお友達から頂いたリクエストです。



日中は暖かいものの、朝夕は肌寒さを感じる様になってきたある日の夜、いつも通りに実家に仕送りを送った夕鈴は青慎から届いた手紙の返事に、小さな包みが添えられている事に気付いた。
珍しいと思いつつ開けてみると、中には干しナツメが詰められた箱が入っていた。
『庭のナツメが今年も沢山実をつけました。姉さんの様に上手には出来なかったけど送ります。皆さんで食べて下さい』
青慎ったら相変わらず良い子ねと感動しながら、干しナツメを一つ口にする。
懐かしい味に頬が自然と緩み、陛下にも食べていただこうかしらと包みを手に夕鈴は部屋を後にした。

後宮の黎翔の自室を訪ねたものの、まだ戻ってはいない事を黎翔付きの侍女に告げられた夕鈴は、政務室へと足を向けた。
「陛下なら、書庫へ向かわれました」
もう遅い時間にも関わらず政務室には数名の官吏がおり、その中の一人が礼を執りながら夕鈴に教えてくれた。
「分かりました。行ってみます」
にこりと微笑み、夕鈴は回廊へ出ると侍女達に先に戻る様にと指示を出し、自分は書庫へと向かった。
「――陛下?」
調べ物をしているなら邪魔をしては悪いかもと、夕鈴は書庫の扉を開けながらそっと声をかけた。
だが返事は無く、夕鈴は暗い書庫の中へ入ると扉を閉め、あかりの灯る奥へと進んだ。
奥には長椅子が置かれ、仄かなあかりの中、その上に横たわる黎翔の姿が見えた。
――え?寝てらっしゃるのかしら?
そう言えば最近は毎日お戻りも遅い時間だったと思い出した夕鈴は、疲れているのだろうと黎翔をそのまま寝かせておく事にして、自分は部屋へ戻ろうと入口に顔を向けた。
その時、黎翔が身じろぎした様な音が聞こえ、起きたのだろうかと夕鈴が振り返ると、黎翔は横向きに寝たままだったが目尻から一筋つうっと光る物が流れた。
――え?
夕鈴は見てはいけない物を見てしまった様な、けれどこの場をそのまま離れてはいけない様な、複雑な胸中で黎翔を見つめ続けた。
どれ程そうしていたのだろうか、規則正しい寝息を立てていた黎翔がふっと目を開け、夕鈴へ目を向けた。
「――あれ?夕鈴?」
「はっ、はいっ」
まるで金縛りが解けたように返事をした夕鈴は、伸びをして長椅子から立ち上がった黎翔の顔をじっと見ていた。
「どうしたの?こんな時間に」
「あ、あの…陛下がまだお戻りでないと聞いて…」
黎翔は夕鈴の側まで来ると、夕鈴を抱き上げ長椅子へと戻る。
「え?な、なんで!?」
「暗くて夕鈴の顔が良く見えないからね」
確かに書庫の中には、長椅子の近くにある卓上に置かれた、小さなあかりがあるだけだ。
長椅子の上で、自分の膝の上に夕鈴を横抱きにした黎翔は、夕鈴が持っている箱に目を向けた。
「夕鈴、それ何?」
「あ、そうでした!!青慎が送ってくれたんです」
夕鈴が開けた箱の中身を覗き込んだ黎翔は
「干しナツメ?弟くんが作ったの?」
と手を伸ばし、それを一つつまんだ。
「そうなんです。干したり蒸したり、意外と手間がかかるんですけどね」
どこか誇らしげに語る夕鈴の言葉を聞きながら、黎翔は干しナツメを口に入れた。
「――優しい味がするね。夕鈴はもう食べたの?」
「あ、すいません。先に頂いてしまいました」
苦笑する夕鈴の口元に、黎翔はもう一つ干しナツメをつまんで差し出した。
「どうぞ」
「え!?」
夕鈴が驚いた顔で黎翔を見上げると、黎翔はにこにこと笑っている。
「食べて?」
「じっ、自分で食べられますからっ」
言いながら夕鈴は箱から一つ干しナツメをつまみ上げたが、その手首を黎翔に捕らえられ、指先の干しナツメは黎翔の口に消えた。
夕鈴の指先をぺろりと舐め
「ご馳走様」
と目を細めた黎翔は、抗議しようと開いた夕鈴の口に自分が持っていた干しナツメを押し込んだ。
「美味しいね」
にこっと微笑む黎翔に、夕鈴は真っ赤な顔で睨み付けるが、黎翔は全く気にもせずに嬉しそうにしている。
「……陛下、ちょっと気を抜いてませんか?」
「ん?」
「『狼陛下』の演技してませんけど、急に誰か来たりしたら…」
黎翔はにやりと笑うと夕鈴の腰に腕を回し、一層自分へと引き寄せた。
「――我が妃はこちらの私の方が好みか?」
「こっ好みとかじゃなくて!!」
夕鈴は黎翔の膝から降りようともがくが、腰に腕を回されているため逃げ出せない。
「書庫なんて、いつ誰が来るか分からないじゃないですかっ」
「王と妃が籠もっている場所に近付く、無粋な者がいるとでも?」
黎翔は夕鈴の髪に唇を付けると、ぎゅっと夕鈴を抱き締める。
「――だが気を抜いている、か」
「陛下?」
火照った頬を袖で隠しつつ、夕鈴は黎翔を見上げた。
「だから久しぶりに母の夢を見たのか――」
「お母さんの?」
夕鈴の言葉に心配そうな響きを感じた黎翔は、穏やかな笑みを夕鈴に向けた。
「昔の夢だ――どうせなら妃の夢を見たかったが」
「まっ、またそういう事を!!」
耳まで赤らめた夕鈴の頭を自分の胸に引き寄せた黎翔は、書庫の暗闇に目を向け呟くように言った。
「――私に必要なのは過去ではない」
「…でも、思い出は大切な物です」
自分の胸元で優しい反論をする夕鈴の髪を撫で、黎翔はくすりと笑った。
「私には、君がいれば良い」
夕鈴は強ばっている体の力を抜き、黎翔の胸に頭をもたれかからせる。
「お側に、いますよ?」
「――うん」
互いの体温だけが頼りだとでも言うように、寄り添いあいながら王と妃の秋の夜は静かに更けていく。



※リクエスト内容は
『泣いてしまう(泣いているように見える)陛下を見てしまう夕鈴』

SNS初出2013年10月13日

金木犀

日本では金木犀、中国では丹桂と呼ばれるそうです。
薄黄木犀、銀木犀、金木犀の総称が桂花。
中国では薄黄木犀が多いそうです。



後宮の自分の部屋で、私はいつものように陛下と自分の為にお茶を淹れる。
「どうぞ」
陛下の前の、卓上に置いた茶杯からふわりと良い香りが立ち上った。
「今日は花茶にしてみました」
私の言葉を聞きながら、陛下は茶杯を手にすると一度香りを楽しんでからお茶を口にした。
「――うん、甘い香りがするね。桂花茶?」
「はい」
陛下が私へ顔を向けて微笑むから、私もつられて笑ってしまう。
「そう言えば回廊を渡っている時、桂花の香りがしていたな」
お茶を飲みつつ思い出した様に語る陛下に、私はお菓子の器を差し出しながら言った。
「今が盛りですからね。あちらこちらから、とても良い香りがします」
「うん――これも桂花?」
陛下はお菓子を一つつまみ、上に飾られた橙色の花を見ていた。
「はい、桂花糖です。桂花の花の砂糖漬けですね」
「今日は桂花尽くしだね」
くすりと笑った陛下は、どことなく悪戯っぽい目を私に向けると
「一番大きな桂花を見に行こうか?」
と尋ねた。その目が少し気にはなったものの、一番大きいという桂花に興味が湧いた私は素直に頷いた。

「え?あの、陛下…?」
抱き上げられ、連れて来られたのは何故か池のほとりの四阿だった。
陛下は当然のように私を自分の膝の上に座らせ、緩く私の腰に腕を回した。
「この辺りには桂花は無いですよね?」
どこからか桂花の香りは漂ってくるけれど、周りを見回しても橙色の花を沢山つけた桂花は見当たらない。
「ほら、あそこだよ」
くすくす笑いながら陛下が指差した先には、明るく輝く月があった。
「月、ですか?」
「月には桂花の大木が茂っているって伝説、知ってる?」
「あ…昔聞いたような…」
そう言えばそんなお話を、小さい頃に誰かから聞いたような気がする。
陛下は私の髪を一房すくうと、指先に絡めて遊び始めた。
「それで、桂花は月から地上に伝わった仙木という言い伝えもあるね」
絡めた髪に口付けを落とした陛下の顔が近くて、私は頬がかあっと熱くなった。
「た、確かに、この世の物とは思えないほど良い香りがしますよねっ」
自分でも声が上ずってしまった事を感じながら、陛下から顔を離そうと月を見上げると、不意に陛下の大きな掌が私の頬を包んだ。
「――あまり月を見ないで」
「…え?」
呟くような陛下の声に、私は振り返った。
「月には、桂男がいるから」
「桂男って、月の宮殿に住んでいるというお話のですか?」
陛下は一体何を言い出したのだろうかと、私は首を傾げた。
「たとえ作り話でも、夕鈴が他の男を見つめるのはイヤだな」
少しすねた様な物言いに、私は思わず吹き出してしまった。
「陛下が、大きな桂花を見に行こうって誘ったんですよ?」
「そうだけど…」
陛下は私の頬を包んでいた手に力を入れると、私の顔を自分の顔に向き合わせた。
「僕の瞳に映る月を見れば良いよ」
「え!?」
先程よりも近い距離にある陛下の顔にドキドキしてしまう。
桂男は絶世の美青年だそうだけれど、きっと陛下の方が美しいと思う。
「わ、分かりましたから、手をお放し下さいっ」
「――うん」
そっと手が離れ、ほっとした途端に今度は陛下に抱き締められてしまった。
ぎゅっと抱き締められていると、自分の心臓の鼓動が伝わってしまいそうで、私はじたばたと陛下の腕の中で抵抗した。
「陛下!?放してって!!」
「――香りが」
「…え?」
陛下は私の髪に顔を埋もれさせながら、耳元で静かに囁く。
「桂花の甘い香りが強くて、夕鈴の香りが分からなくなる」
「な、なっ何言ってるんですか!?」
犬ですかと言いたくなる気持ちを抑え、私は陛下の体をぐいっと手で押した。
「私のじゃなく、桂花の香りをお楽しみ下さいっ」
「僕には夕鈴の香りの方が良い香りだよ」
にやりと笑った陛下の顔は意地悪そうなのに、月の光に照らされとても魅力的に見えた。
「桂花には『陶酔』という花言葉もあるけど、僕は夕鈴に酔いたいな」
「――は?」
陛下は時々、こういう意味の分からない事を言って私を翻弄する。
「酔うって…私はお酒じゃありませんよ?」
陛下は私の手を取り、指を絡めながらくすくす笑っている。
「どんな美酒もかなわないと思うけどな」
そのまま絡めた指先に口付けされ、私の頭は沸騰しそうになる。
きっと顔も赤くなっているのが、月明かりの下でも陛下には分かっているのだろうと思うと、余計に頬が熱を持つ。
「――素直に酔わせてはくれないんだろうなぁ」
どこか楽しげな様子で微笑みながら、陛下は次に私のこめかみに唇を付けた。
「…っ!!陛下!!イチャイチャしすぎですっ!!」
陛下を睨むように見上げたけれど、陛下は目を細めて微笑みを浮かべたまま私を見ている。
「それに、桂花には『気高さ』という花言葉もあると侍女さんから聞きました。陛下にはそちらの方が合っていると思いますっ」
思わず拳に力が入り、力説してしまった私の頬を撫でた陛下は
「他にも花言葉があるのは聞いた?」
と口角を上げ尋ねた。
侍女さん達との会話を思い出しながら、いいえと答えると陛下は
「『真実の愛』だよ」
と静かな口調で言ったけれど、丁度その時月が雲に隠れ、私には陛下がどんな表情でその言葉を口にしたのか分からなかった。
ただ、私の体に回された陛下の腕は、優しく、とても温かだった。



SNS初出2013年10月9日

夜香樹

SNSのお友達の誕生日にリクエスト権をプレゼントしまして、頂いたリクエストです。
夜香樹は中国名。日本では夜香花や夜香木と呼ばれています。



夕鈴が政務室から後宮の自室へ向かって回廊を歩いていると、前方に何かが落ちていた。
誰かの落とし物かしらと夕鈴が近付くと、それは紙が結ばれた、小さな蕾をたくさん付けた花の枝だと分かった。
「まぁ、夜香樹ですわね」
夕鈴の後ろに控える侍女の一人が驚いたように声をかけた。
「夜香樹?」
その枝を拾いあげ掌に乗せた夕鈴は、しばられている紙が上質な物である事に気付いた。
「夜香樹は珍しい花ですから、陛下が落とされた物では?」
「そうなのかしら?……紙に何か書いてあるようだけど」
持ち主が分かるかも、と紙を解き開いた夕鈴は、文字を目で追いながら段々とその頬を赤く染めた。
妃のそんな様子を見た侍女達は、やはり陛下から妃に宛てた文だったのかと笑みをこぼした。

結局その枝と文を持ち帰った夕鈴は、寝室の卓上の一輪挿しに夜香樹を活け、その横に文を置いた。
陛下がいらっしゃったら、陛下が書いた物か聞いてみようと思いながら。
書かれていた内容は明らかに恋文だったが、宛名も差出人の名前も書かれていなかった、と夕鈴は考えた。
「もしかして、誰かが陛下に宛てた…?」
そんな考えが頭をよぎった夕鈴は、それを追い出すかのように頭を振った。

だがその夜は陛下の訪れが無く、夕鈴は夜着に着替えると早々に寝台に上がった。
活けられ数輪の蕾が花開いた夜香樹から、ふわりと香る高貴な花の香りに包まれ、こんなに香り高い花なら国王が贈るにしても贈られるにしても相応しい花ね、とかすかに悲しげな笑みを浮かべながら、夕鈴は眠りに就いた。

その夜、日付が変わってから足音を忍ばせ黎翔は夕鈴の自室を訪れた。
政務がやっと終わり、せめて愛しい妃の寝顔だけでも一目見ようと寝室へ入った黎翔は、辺りに漂う花の香りに眉をひそめた。
――茉莉花…いや夜香樹か?
夕鈴のイメージとは結び付かないその艶めかしい香りは、卓上の小さな白い花々から生じていた。
一輪挿しの横に置いてある紙に気付いた黎翔は、それを手にとり開いてみた。
――これは…恋文か?誰かが夕鈴に?
知らず手に力が入り、危うく手紙を握り潰しそうになった黎翔は、夕鈴が寝返りを打つ音に我に返り再び紙をそっと卓上に戻した。
安らかな寝息をたてる夕鈴に近付き、その髪をさらりと撫でた黎翔は小さく苦笑すると、夕鈴の寝室を後にした。


次の日、夕鈴はいつもの様に政務室の椅子に座り周りを見回した。
官吏達は一目で分かるほど疲れた様子で働いており、今日は陛下の機嫌がお悪いのかしら、と夕鈴は首を傾げた。
「――夕鈴」
「はっ、はいっ」
低い声で静かに己の名を呼ばれた夕鈴は、思わず背筋を伸ばして返事をした。
「今宵は久しぶりに妃と共に夕餉を摂りたい。今から後宮で私を迎える用意をして待っていてくれないか?」
「……?はい…」
夕鈴は不思議そうな顔で立ち上がると、侍女を従え後宮へと戻って行った。

この中に夕鈴に恋文を送った者がいるかもしれない、そう思いながら黎翔は官吏達を冷たい視線で見回す。
そんな所に夕鈴を置いておけないと考え夕鈴を後宮へ下がらせた黎翔だったが、姿が見えないと一層昨夜の恋文の事を思い出してしまう。
――渡された時、夕鈴は喜んだのだろうか…
恋文を読み頬を染める夕鈴の姿が脳裏に浮かんだ黎翔は、ますます辺りに冷気を撒き散らし官吏達の顔を青ざめさせた。

その頃、後宮の自室で侍女達の働く様を眺めていた夕鈴は、昨日拾った恋文の事を黎翔に言うべきか悩んでいた。
――誰かが陛下宛てに書いた物だとしたら、それは誰なのかしら…
女官達は皆、身元確かな良家の子女達なのだと改めて気付いた夕鈴は、陛下に恋文を送る者がいても、そんなにおかしな事ではないのだろうと床に視線を落とした。
「お妃様、お加減でも?」
そんな夕鈴の、いつもと違う様子に気付いた侍女に心配そうな声をかけられ、慌てて顔を上げた夕鈴は
「いいえ、何でもありません」
とお妃スマイルを浮かべたものの、上手く笑えた自信がなく袖でそっと口元を覆った。


「――どうした?我が妃は顔色がすぐれぬ様だが…」
まだ夕刻の早い時間に、軽やかな衣擦れの音と共に部屋に入って来た黎翔は、口角を上げ夕鈴を見つめた。
「い、いいえ…そんな事ございません。今日はお早いお戻りですね」
考えを見透かされた様で、頬を染め答える夕鈴の顎を指先で捕えた黎翔は、そのまま夕鈴の顔を上向かせ自分へと視線を向けさせた。
「今日は思いの外はかどったからな…妃から良い香りがするが――花の移り香か?」
「――え?あ、お花!昨日、回廊で恋文が結ばれたお花を拾ったんです。夜香樹、とか言うお花みたいで……陛下、心当たりございますか?」
夕鈴からの問いに、黎翔は軽く目を瞠った。
――ではあれは夕鈴が受け取った文ではないのか?
「いや……私は知らぬが」
「陛下への文かと…」
言いよどみ自分から目線を逸らした夕鈴の両頬へ手を添え、黎翔は落ち着いた声で尋ねた。
「――何故?私には君という妃がいるだろう?」
「陛下は、望めば数多の妃を娶れる立場の方です…たとえば女官から恋文を送られたとしても不思議では……」
「そのような真似をする者を、私が側に置くとでも?」
冷たい笑みを浮かべた黎翔に触れそうなほど近い距離で見つめられ、夕鈴はその瞳から目が離せなくなる。
途端に心臓が落ち着かなくなり、頬が火照りだした夕鈴はしぼりだす様に小さな声で、やっとの思いで言葉を紡いだ。
「へ…陛下、近すぎませんか?」
涙目で訴える夕鈴に構わず、黎翔は顔を寄せ夕鈴の鼻の頭に自分の鼻の頭を合わせた。
真っ赤な顔でパニックを起こし、固まっている夕鈴からゆっくりと顔を離した黎翔は、ニヤリと笑い囁いた。
「我が妃はいつまでも初々しいな」
「……っ!!な」
言いかけた夕鈴の唇に人差し指を当て黙らせた黎翔は、もう片方の手を上げ侍女達を下がらせた。
「――夕鈴、その恋文見せてくれる?」
夕鈴は何か言いたげな怒った顔をしていたが、すぐに寝室へ行くと花と恋文を持って戻って来た。
黎翔は恋文を受け取りしげしげと眺める。
――昨夜は暗くて気付かなかったが…
「これ、李順の字じゃないかな」
「へ!?」
「多分まだ執務室にいると思うから、聞いてくるよ」
「わっ、私も行きます!!」
先程の黎翔のとった行動の事も忘れ、元気に同行を申し出た夕鈴に見えない様に、黎翔は小さく苦笑をもらした。


「――おや、お二人でどうされました?」
執務室で後片付けをしていた李順に、黎翔は恋文を渡した。
「これに見覚えは?」
「…あぁ、私が書いた物ですね。夕鈴殿が貴族の恋文がどんな物か、想像がつかないと言うので見本として作ったのですよ」
李順はそこで言葉を切ると眼鏡を指で押し上げた。
「窓辺に置いたのがまずかったのか、少し目を離した隙に無くなってしまいましてね…これをどこで?」
「回廊に落ちていたそうだ」
鳥にでもさらわれましたかね、と冗談とも本気ともつかぬ口調で言った李順は夕鈴へ向くと
「それで夕鈴殿、どんな物かは理解しましたか?」
と眼鏡を光らせた。
「はいっ!!しっかり理解しましたっ!!」
ビシッと姿勢を正し答える夕鈴の手から夜香樹を抜き取った黎翔は、それを夕鈴の髪にそっとさした。
「夜香樹は今時分から咲き始める。ただ咲くよりも妃を彩る方が花も本望だろう」
「でっでも珍しい花だと聞きましたっ」
慌てて花を外そうとする夕鈴の手を掴み、黎翔は李順に尋ねた。
「これは献上品か?これで全てではないな?」
「はい、献上された物から一枝だけ切らせて頂きました」
黎翔は満足気に微笑むと、夕鈴を横抱きにし執務室から出ようとする。
「さぁ、芳しい花をまとった妃と夕餉を楽しむ事にしようか」
背後から呆れた様な李順の溜息が聞こえたが、黎翔は楽しそうな笑みを浮かべ腕の中の夕鈴に囁いた。
「いつか我が妃から恋文を送られたいものだな」
「はぁ!?」
呆気にとられる夕鈴の髪にさした夜香樹から、ふわりと二人を包むように南国の花の香りが広がった。



※リクエスト内容は
『夕鈴が夜香樹に結ばれた恋文を拾って、夕鈴は誰かが陛下宛に書いたものと思い、陛下は夕鈴が誰かから恋文をもらったと思ってすれ違うお話』

SNS初出2013年10月4日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
お客様数
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR