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異国の装い

SNS内でネタ募集したお話の三作目です。



夜、夕鈴の自室を訪れた黎翔は手に何かを抱えていた。
「我が妃よ、倭の国からの献上品だ」
言いながらそれを手渡された夕鈴は目を丸くした。
大きな紙に包まれた四角く薄い物が二つ。
「開けてみてもよろしいでしょうか?」
「無論」
長椅子に座り、口角を上げる黎翔の前の卓にそれを乗せた夕鈴は、まず一つ目の紐を解き紙を開いた。
その途端に、夕鈴の目に鮮やかに染められた花々が飛び込んでくる。
「これは…布地ですか?」
「いや『浴衣』という衣らしい」
夕鈴はそれを手にとり持ち上げてみた。
「わぁ…とても綺麗な染め物ですね。どうやって着るのかしら」
首を傾げる夕鈴に、黎翔はにっこり微笑み言った。
「着方を説明する図解書も共に届いている。侍女に渡しておこう」
「ありがとうございます…こちらは何かしら」
夕鈴がもう一つの包みの紐を解き開くと、そちらには同じ形の白く薄い衣。
「え、と…中に着る物でしょうか?」
「ああ、おそらくそうだろうな」
やっぱり一枚だけでは心許無いものね、と夕鈴は納得し、二つの包みを侍女に渡した。
「早速、明日着る手筈を」
「御意」
黎翔の言葉に礼を執った侍女達は、音もなく部屋を出て行く。
「…お茶をお淹れしますね」
二人の夜は今日も穏やかに更けて行く。


翌朝、いつもより気合いの入った侍女達に着替えさせられ、髪を結われ化粧を施された夕鈴は、自分がまとう異国の衣装をしげしげと眺めた。
いつもの自分の衣装と似ているけれど、袖や帯や下半身の部分が違う。
特に足回りがいつもよりぴったりしていて、何だか恥ずかしい。
「お妃様、とても良くお似合いでございます」
にこやかに侍女に言われ、夕鈴は
「そ、そうですか?」
と顔を赤らめた。
「陛下から、そのご衣装のままで四阿へ来られるように、と承っております」
侍女の言葉に一瞬驚いた夕鈴だったが、やっぱり異国の衣装を陛下も御覧になりたいわよね、と笑顔で承諾した。

「陛下、お待たせ致しました」
夕鈴の言葉に、四阿の椅子から立ち上がった黎翔は浴衣姿の夕鈴を見ると、軽く目を瞠った。
「ほう…異国の衣装も似合うものだな」
「あ、ありがとうございます」
手にした扇で顔を隠すものの、袖もいつもより短く何となく気恥ずかしい。
もじもじと恥ずかしげな様子の夕鈴の手を引き、自分に倒れ込んだ所を膝の上に座らせる。
「きゃっ」
裾が乱れ、足首があらわになった夕鈴は慌てて裾を押さえ乱れを直した。
「み…見ました?」
「―――いや?」
横を向く黎翔の頬がほんのり赤くなっているのを夕鈴は訝しげに見ていたが、侍女達の視線を感じお妃スマイルを浮かべた。
「我が妃よ、その衣に染められているのと同じ花が丁度見頃だ」
黎翔の言葉に夕鈴が顔を上げると、池のほとりには菖蒲が咲き誇っていた。
「本当……綺麗ですね」
白や紫の花々が、細く尖った緑の葉に護られるように咲いている。
その薄い花弁は風にそよぎ、儚げな姿と相まって涼しげな風情を醸し出していた。

揺れる花に見惚れる夕鈴の横顔を、黎翔は頬を緩ませ黙って見つめていた。
菖蒲の花弁をそよがせた風は四阿へと渡り、夕鈴の細い髪を泳がせる。
黎翔はその髪を指に絡めると、目を細め愛しげに夕鈴を見つめ髪にそっと口付けた。

その様子を、たまたま回廊を歩いていた官吏が足を止め驚いた表情で見ていた。
あれが、先程まで政務室で冷たい怒声を放っていた陛下かと、官吏は呆気にとられていた。
「陛下でも、あんなお顔をなさるのだなぁ…」
ポツリと漏らされた官吏の本音は、誰にも届く事なく初夏の風に攫われて行った。



※リクエスト内容は
『献上品として贈られた浴衣を着た夕鈴にデレる陛下と、それに驚く官吏』

SNS初出2013年5月28日
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お妃様の葛藤

SNS内でネタ募集したお話の二作目です。



爽やかな風に新緑が揺れる。
大きな池に程近い後宮の一角で、楽師達の奏でる雅な音に合わせ舞姫達が優雅に舞う。
観客は白陽国の国王夫妻。
中睦まじく長椅子の上で寄り添い杯を傾けている。
「―――どのように舞姫達が美しく舞おうとも、我が妃の愛らしさにはかなわぬな」
「あ…ありがとうございます」
夕鈴は恥ずかしそうに扇で顔を隠すが、黎翔は指先でそれを押し退け夕鈴の赤く染まった頬を撫でる。
「その花のような愛らしい顔を私から隠すとは意地の悪い事だ」
すぐ隣の近い距離で婉然と微笑まれ、夕鈴は心臓が跳ねるのを感じた。
その間も楽は続き舞は佳境を迎える。
「―――こちらへ」
夕鈴の腰をさらい自分の膝の上に乗せた黎翔は、その長い腕を絡め夕鈴を囲う。
「へ、陛下!?」
「仲の良い夫婦とはこういうものだろう?」
ニヤリと笑う黎翔に、そうなのかしらと疑問に思いつつも、夕鈴はそれを口に出せなかった。
(な、仲の良い夫婦って言われても…下町ではこんな事してる夫婦見た事ないけど、貴族の間では普通の事なのかしら?)
横に控える李順の眼鏡が冷たく光るのを見た夕鈴は、目を回しそうになる自分を叱責しながら何とか言葉を紡ぐ。
「あ、あの陛下?恥ずかしいので、出来れば降ろして頂きたいのですが…」
「嫌だ、と言ったら?」
からかうような口調で笑みを深めながら言う黎翔に、夕鈴は一段と頬を赤く染めながら
「皆が見ておりますし…」
と言ったものの、黎翔は平然とした態度で
「私の、妃に対する寵愛の深さを分からせる良い機会だ」
と一向に夕鈴を離そうとしない。
「楽師や舞姫達は王宮のお抱えとは言っても、こんな機会でもないと私達を目にする事もないからな」
へーそういうものなのね、と夕鈴が納得すると李順が静かに歩み寄り、嫌そうな口振りで言った。
「お妃様、以前もお伝えしましたが――」
李順の声音に夕鈴が無意識に背筋を正した。その様子を見て李順は溜息混じりに言葉を続ける。
「陛下に丸め込まれないで下さい」
「――え?」
夕鈴が呆気にとられた顔で黎翔を見ると、目を細め楽しそうに自分を見る狼がいる。
李順は眼鏡を指で押し上げながら
「国王夫妻の仲の良さは、楽師にも舞姫にも充分に伝わっておりますよ」
と説明した。
夕鈴は扇で口元を隠し、黎翔に囁くふりをして尋ねる。
「陛下、こんなに過剰な演技をする必要はないのでは?」
黎翔は薄く口角を上げると、夕鈴の髪を一房さらい口付け言った。
「いや、私に必要なのだ」
「…はい?」
黎翔は夕鈴の髪を指先に絡めてからスルリと解くと
「毎日忙しくしている王に、これくらいの癒しは必要であろう?」
と微笑んだ。
「そ、そうなの、でしょうか?」
間近で見つめられた夕鈴がしどろもどろになりながら答えると、李順が眉間にシワを寄せた。
「――お妃様?」
「はいぃっ」

美しい楽の音を聴き艶やかな舞を見ながら、お妃様は王と側近二人の言葉に今日も翻弄されるのであった。



※リクエスト内容は
『陛下に簡単に言い含められる夕鈴と、それを見てイライラする李順さん』

SNS初出2013年5月26日

獏の仕事

SNS内でネタ募集したお話の一作目です。



「――っ!!」
夕鈴は激しい動悸と共に目を開けた。
周りを見渡すと窓の外はまだ暗く、部屋の隅々まで闇が支配している。
寝台に横たわる自分の体がひどく重く感じ、治まらない動悸に息が切れる。
「また…夢?」
ふーっと深い溜息を吐いた夕鈴は、すっかり冷たくなっている手足を温めるように、掛け布を引き上げた。
朝まで眠れそうにないわね、と眠る事を諦めた夕鈴は窓を眺め、空が白々と明けてくるのを待った。

お妃様の異変に逸早く気付いた侍女は、夕鈴の髪を結いながら尋ねた。
「お妃様、昨夜は眠りが浅かったのでございましょうか?」
その心配そうな声音に顔を上げた夕鈴は、鏡の中の自分の目の下に、はっきりと隈が出来ている事に気付いた。
「あ…ええ、少し浅かったかしら?」
なるべく心配をかけないように明るく言う夕鈴だったが、侍女はそれでも心配そうな顔をしていた。

夕鈴が悪夢を見たのは昨夜だけではなかった。
ここ数日間というもの、毎夜悪夢にうなされ夜中に目が覚めてしまう。
まるでその夢の続きを見たくないと言うように、頭がはっきりと覚醒してしまうのだ。
そうなると再び眠る事も困難で、結局朝まで起きている事になる。
そんな日が続き、寝不足気味になっている夕鈴は政務室の椅子に座ったまま、うつらうつらとしてしまった。
「―――夕鈴」
低い声に名を呼ばれ、夕鈴がハッと顔を上げると目の前に黎翔の顔があった。
夕鈴は叫びそうになるのを何とかこらえ、冷や汗をかきつつ作り笑いを浮かべる。
「我が妃は寝不足のようだな」
黎翔がニヤリと笑い夕鈴を抱え上げた。
「毎夜、無理をさせてすまないな」
黎翔から周りに聞こえる程度の声で言われた夕鈴は、キョトンとした顔で
「いえ、あの寝不足なのは…」
と言い掛けたが、黎翔はそれを遮り
「そうか、私だけの所為ではないか―――君があまりにも魅力的なのが悪いのだな」
と微笑んだ。
周りの官吏達からは声にならないどよめきが起こるが、黎翔は李順に
「すぐに戻る」
とだけ言って夕鈴を抱えたまま政務室を後にした。

回廊を歩きながら黎翔は夕鈴に問う。
「最近いつも眠そうな顔をしているが、夜寝ていないのか?」
「あの、悪い夢を見るんです…それで起きてしまって」
そうか、と黎翔が呟いた頃夕鈴の自室に着いた二人はすぐに人払いをし、そのまま寝室へと入って行った。
寝台の上にそっと降ろされた夕鈴は、首を傾げ黎翔を見た。
「陛下?」
「少し休んだ方が良いよ。今日は顔色も悪い」
言いながら夕鈴の頬を撫でた黎翔は、指先をすっと目の下に走らせた。
「隈も日に日に酷くなってる」
心配そうな黎翔の様子に、夕鈴は
「日に日にって…陛下、気付いていたのですか?」
と少し驚いたように言った。
「うん…気付いてはいたんだけど、何もしてあげなくてごめんね」
ショボンとしてしまった小犬に、夕鈴は慌てて言った。
「そんなっ陛下が謝る事じゃ…仕事しない獏が悪いんですよ!?」
「獏?悪夢を食べるという?」
黎翔は夕鈴の思わぬ言葉に目を丸くした。
「そうです!!ですから陛下はお気になさらずに…」
夕鈴の言葉が言い終わらないうちに、黎翔は夕鈴の前髪を上げると額にチュッと口付けした。
「仕事しない獏の代わりに、僕が悪夢を食べてあげるよ」
「―――え?今、なに…」
夕鈴は黎翔に口付けされた額に手を当てると、自分が何をされたのかを理解してボンッと顔を赤らめた。
「へっ陛下!そういう事は」
「ん?足りなかった?」
楽しげにもう一度、夕鈴の額に唇を寄せた黎翔は、先程よりも長い口付けを落とす。
キャーと悲鳴を上げそうな夕鈴の口元を黎翔が掌で覆うと、夕鈴はそのまま目を回しバッタリと寝台に倒れ込んだ。
黎翔はクスリと笑うと
「お休み、僕のお嫁さん。良い夢を」
と夕鈴の指先に軽く触れるだけの口付けをしてから寝室を出た。
夕鈴の自室を出る時、黎翔は控えている侍女達に
「妃は今休んでいる。気温が下がるようなら寝具の追加を」
と指示を出し軽い足取りで政務室へと戻って行った。

妃付きの侍女が上掛けを手にそっと寝室へ入ると、寝台の上に横たわる妃の寝顔には微笑みが浮かび、安らかな寝息をたてていた。
起こさないように注意しながら侍女が上掛けをかけると、妃は小さな小さな声で陛下、と呟いた。



※リクエスト内容は
『毎晩悪い夢を見て寝不足なお妃様が「獏が仕事しないんですよ…」って言って陛下が「じゃあ僕が食べてあげるよ」ってデコにチュッ!とする話』

実はお話に出てくる『獏』は中国では悪夢を食べる伝承は無く、日本独自の考えだそうです(笑)

SNS初出2013年5月25日

SNSでの足跡20000hitのキリリクです。



ある日、黎翔は夕鈴付きの侍女から回廊で呼び止められた。
侍女が王に声をかけるなど珍しい事もあるものだと、黎翔は侍女に尋ねた。
「―――どうした。我が妃に何かあったか?」
「おそれながら、お妃様の事で心配な事がございまして…」
礼を執りながらも、言いにくそうに口ごもる侍女に黎翔は話をするよう促した。


その夜遅く、おやすみの挨拶をした黎翔は夕鈴の自室を出て回廊を歩き始めたが、やがて歩みを止め庭園へと降りた。
そっと夕鈴の自室の側へと戻り木の陰に隠れていると、夕鈴が一人で庭園へ降りて来た。
夕鈴は夜空を見上げ、じっと何かを見てから、やがてふぅと溜息を吐いた。
「―――夕鈴」
「!!…え、陛下?」
静かに声をかけながら木の陰から現れた黎翔に、夕鈴は心底驚いたように目を丸くした。
「お戻りになられたとばかり…」
「あぁ、昼間妃付きの侍女から気になる話を聞いてな」
黎翔はすっと夕鈴に近付くと
「侍女達がこちらを窺っているよ」
と耳打ちした。夕鈴はその距離の近さに思わず赤面したが、見ている者達がいるなら演技も必要ねと気合いをいれた。
「…侍女が何を?お忙しい陛下のお手を煩わせて申し訳ありません」
「夫が妻の心配をするのは当然だ。何も煩わしい事などない」
薄く笑み夕鈴の頬に手を当てた黎翔は、その頬の熱を楽しむように撫でる。
夕鈴はますます熱を持つ自分の頬を持て余すように、そっと黎翔から視線を逸らした。
「そ、それで侍女は何を言ったのですか?」
夕鈴は袖で口元を隠すように覆うものの、赤く染まった頬を隠しきれる筈もなく、黎翔の眼差しに心臓の鼓動が速まる。
黎翔は真っ直ぐに夕鈴の瞳を見つめたまま、静かに口を開いた。
「――毎夜のように、君が空を見て溜息を吐いている、と」
「…気付かれてたんですか」
いくら下っ端妃の侍女とはいえ、国王陛下唯一の妃に仕える一流の侍女達だ。
自分達の主の異変にはいち早く気付く事だろう。ましてや隠し事の出来ない夕鈴の性格では、侍女達を上手く誤魔化す事も難しい。
そんな事を知ってか知らずか、夕鈴はどう説明したものかというようにワタワタし始めた。
「あ、あのですね?以前行った星祭り覚えてらっしゃいます?」
「覚えているが…」
黎翔はそこでふと気付いた。
「―――星を見ていたのか」
「そうです…帰りの時、女官さんからテキストを頂いたので、時々開いて忘れないように復習を…」
そうか、と黎翔は呟き微笑んだ。
「妃が何か思い悩んでいるのではないかと、侍女も心配していた」
「そんなに心配させていたなんて…私、後で謝っておきます」
頬を染めたままで、上目遣いに自分を見る夕鈴にクスリと笑みを溢した黎翔は
「あの者達はそれが仕事だ。我が妃が気にする事はない」
と、夕鈴の髪をさらりと指先で撫でた。
「でも、私のした事で勘違いさせてしまって…」
「君に、悩みがないならそれで良い」
黎翔は夕鈴をひょいと横抱きにすると、近くの大きな岩の上に自分の腰を降ろした。
黎翔の膝の上に横抱きのまま降ろされた夕鈴は、侍女達がいると聞いた手前、小さな声で
「降ろしてくださいませ」
と抗議するが、黎翔は嬉しそうに夕鈴の腰に手を回したまま、その手を緩める気配もない。
「――それで、星を読む事は出来たのか?」
「えっ?えっとですね…」
夕鈴が夜空を見上げると、そっと黎翔の腕が夕鈴の背に回され、夕鈴は赤面しつつもその腕に体を預ける。
「あ、あそこにある星達、あれが確か水を司る星達で…」
夕鈴が思い出しながら説明する様子を、黎翔は微笑みながら聞いている。
「…陛下、私じゃなく星を見て下さい」
頬を膨らましながら言う夕鈴の耳元で、黎翔は
「ああ、すまぬ。あまりに我が妃が可愛らしくてな」
と低く囁いた。ボンッと一気に顔を赤らめた夕鈴は、涙目になりながらも逃げ出す事も出来ずに、黎翔を睨み付けた。
「もぅっ!全然説明聞いてないじゃないですか!!」
クスクス笑いながら黎翔は、怒ったように上を向く夕鈴と共に夜空を見上げた。
その時、二人の頭上をスッと光が尾を引いて走った。
黎翔は手を伸ばし、まるでその流れ星を掴むかのように拳を握った。
そしてその手を夕鈴の前で開くと、掌の中には夕鈴が見た事もないほど細かい細工に、輝く宝玉の付いた首飾りがあった。
「綺麗…」
「星空の煌めきを、我が妃に」
「…え?私にですか?」
妃の演技も忘れ、素の状態で尋ねる夕鈴に黎翔は苦笑した。
「私が妃以外に贈り物をするとでも?」
黎翔はその華奢な造りの首飾りを夕鈴の細い首へ巻くと、満足気な笑みを見せた。
「――異国からの献上品だがな」
「え!?や、やっぱり高価な物なんですね?李順さんに叱られませんか?」
慌てる夕鈴の唇に、黎翔は指を乗せ
「こんな時くらい、妃のつぼみの様に愛らしい唇から他の男の名は聞きたくないものだな」
と妖艶に微笑んだ。
「だ、だって…」
「――飾りの裏を見るが良い」
夕鈴は促されるまま、宝玉が花の様に並んでいる飾りの部分を裏返した。するとそこには、何か模様の様なものが刻まれていた。
「これは?」
「それは献上した国の文字で、夕鈴と書かれているらしい」
「えっ!?」
驚いて顔を見上げる夕鈴を見つめながら、黎翔は続けた。
「だから、手放したらすぐに足が付き王宮の醜聞になると李順が悔しがっていたな」
どこか楽しそうに言う黎翔に、夕鈴は首飾りをじっと見つめ
「本当に、私が頂いてよろしいのでしょうか…」
と小さな声で尋ねた。
その声に黎翔はニヤリと笑い
「勿論だ。私が捕まえた流れ星だからな」
と夕鈴の髪を一房さらい口付けた。

中睦まじい国王夫妻の様子に、初めは心配そうだった侍女達もいつしか安堵の微笑みを浮かべ、お二人の邪魔をしない様にと部屋の中へ下がっていった。
満天の星達だけが二人の囁きを聞いていた、爽やかな風の薫る初夏の出来事であった。



※リクエスト内容は
『某車のCMのパロディ』

SNS初出2013年5月23日

芍薬-しゃくやく-

回廊を歩く夕鈴の元に、ふわりと風と共に何かの花の香りが届いた。
夕鈴がその香りを追うように庭園に目をやると、華やかに咲き誇る大輪の花が映った。
「牡丹…ではないわね」
思わず口から零れた言葉に、後ろに控える侍女が答える。
「あれは芍薬でございます」
あぁそうか、牡丹の時期は過ぎたわねと夕鈴は思い
「少し見て参ります」
と庭園へ降りた。侍女達もその後に従い歩を進める。
花の前まで来た夕鈴は深呼吸するように、その花の香りを嗅いだ。
爽やかでいて、どこか甘いような切ない香りがする。
「良い香りね」
穏やかに笑む妃の姿に、侍女達は
「お気に召されたのでしたら、お部屋に活けましょうか?」
と申し出る。夕鈴は少し考えるように花々を眺め
「そうですね、少しだけ活けましょうか…陛下は芍薬はお好きかしら」
と首を傾げ、そんな夕鈴の様子を侍女達は微笑みながら見ていた。


「―――良い香りがするな」
夜半、夕鈴の元を訪れた黎翔は部屋へ入るなりそう言った。
「お気付きになられました?芍薬を活けてみました」
微笑みながら言う夕鈴の頬を撫で、黎翔は
「君の香りかと思ったが芍薬だったか」
と口角を上げ、赤く染まった夕鈴の表情を堪能してから、いつものように侍女達を下がらせた。

「お茶をお淹れしますね」
パタパタと準備を始めた夕鈴を眺めながら黎翔は長椅子に腰を下ろし、腕を組むと目線を芍薬に移した。
白、桃色、赤…華やかな色合いの芍薬が活けられた花瓶は、一級の調度品が並ぶ部屋の中でもその存在感を誇示していた。
「どうぞ」
夕鈴が差し出した茶杯を受け取った黎翔は笑顔で応える。
「ありがとう…夕鈴、芍薬好き?」
「え?そうですね…好きですよ」
お茶を飲みながらニコリと夕鈴が笑う。
「牡丹ほど華やかではないですけど、綺麗ですし」
「牡丹は横を向いて咲くから、華やかに見えるんだよ」
言いながら茶杯を傾ける黎翔に、夕鈴は
「あ、確かに芍薬は上を向いて咲きますよね」
と納得した顔を見せ、言葉を続ける。
「だから、芍薬の方がしゃんと立ってるように見えるんですね」
「うん、背筋を伸ばして立っている夕鈴に似てるよ」
にこっと微笑む黎翔に、夕鈴の頬が火照った。
「こ、こんなに綺麗じゃありませんよ?」
「そうかなぁ、良く似てると思うけど」
夕鈴は黎翔の茶杯にお茶を注ぎながら、恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「それに、良い香りがするし」
「…香りの良い花なら他にもありますよ?」
黎翔はその夕鈴の言葉に薄く笑むと
「芍薬は甘いだけでなく、爽やかな香りがする…夕鈴にぴったりだよね」
と夕鈴を見つめた。夕鈴は自分の顔が一段と熱を持つのを感じ、自分自身を落ち着かせるようにお茶を一口飲んでから、話を逸らすように言った。
「そ、そう言えば芍薬って、名前に『薬』が入ってますよね」
「ああ、鎮痛剤になるからね」
さらりと言う黎翔に、やはり後宮の花も無駄に植えられている訳ではないのねと夕鈴は感心した。
「鎮痛剤…痛み止めですか」
「うん、優れた薬になるよ」
黎翔はにっこり笑いながら、そんな所も夕鈴に似ているなと思った。

心の傷を、痛みを、癒してくれる君という存在。
昼間政務でどんなに疲れ切っても、夜に君と会えばそんな事を忘れられるくらい穏やかになる僕の心。
―――君という薬は麻薬性でもあるのかな?

クスッと笑った黎翔に、夕鈴は不思議そうな瞳を向けた。
美しい女性のような、優美な花達だけが眺める二人の時間は、今宵も穏やかに過ぎて行く。



SNS初出2013年5月19日

ことばの日

僕は適切な言葉を使っているだろうか、とふと考える。

一国の王としての自分の言葉。
臣下へ指示を出す言葉、高官と議論を交わすための言葉。
外交のための表向きの言葉―――。

今まで自分が使ってきた言葉には、間違いはなかったと自負している。
相手の腹の中に隠された本音を、言葉の端から見付けだしそこを突く。

言葉は時には刃のように相手に刺さる。
かと思うと相手を癒し、包み込む事も出来る言葉。

こんなに厄介な物を使わないと、僕達は意思の疎通すら出来ない。
その厄介な言葉を上手く使ってきたはず、なのに。

夕鈴、君に対しては何故かそれが上手く使えない。
言い過ぎたり足りなかったり。

まるで言葉を覚えたての幼子のように、僕は君へ送るための言葉を選ぶ。

―――君はいつでも、僕に優しい言葉を贈ってくれるのに。
僕は君が望む言葉を、少しでも送れているのだろうか?

僕の言葉で赤くなったり視線を泳がせたりする君。
でもそれは、僕が君を翻弄させる言葉を送ってしまったから。

君が本当に望む言葉は、何?
僕が与えられる言葉だろうか?

―――僕が君に、贈れる言葉は?





私はふと、自分の使った言葉を思い返す。

侍女や官吏に使ったねぎらいの言葉、老師や浩大への軽い言葉、李順さんへの改まった言葉。

そして、狼陛下へのお妃演技の言葉、小犬のような陛下への飾らない言葉。

陛下を気遣い、安らいで頂くための言葉を私は使えた?
その中に見え隠れする気持ちに気付かれずに、陛下を思う言葉を使えたかしら?

敵が多く気が抜けない王のために、私はどんな言葉でお慰めする事が出来るのかしら。

―――陛下が望む言葉は何?

私はそれを陛下に差し上げる事が出来る?



言葉、ことのは、どうか心に届くように―――。

そして今日も、二人は相手のために言葉を選ぶ。



SNS初出2013年5月18日

ホストクラブ白陽②

ホストクラブでの一件があった翌日、出社した夕鈴はニヤニヤ笑う明玉に給湯室に連れ込まれた。
「で、どうするの?夕鈴」
「何が?」
少し怒ったような顔をする夕鈴に、明玉は笑いながら続ける。
「黎翔さんとお付き合いするの?」
「ふざけないで!あれは単なる冗談でしょ!?どうせ誰にでも言ってるんでしょうし」
明玉は軽く溜息を吐き苦笑すると
「黎翔さんがあんな事言ってるの、初めて聞いたけどね」
と夕鈴に言った。
「たまたまアンタがいる時に言わなかっただけよ」
素っ気なくそう言う夕鈴に、明玉は話題を変え
「そうだ!土曜日、一緒に買い物行かない?」
と誘ってきた。
「別にいいけど…」
「じゃ、駅前に10時ね!」
明るく言う明玉に、夕鈴も分かったと笑顔を返し給湯室を出て行った。
そして後に残された明玉は、何かを企むようにニヤッと笑った。


土曜日の10時。
駅前の時計台の前に立つ夕鈴は、明玉が来るのを人込みを眺めながら待っていた。
(遅いなぁ…いつもここで待ち合わせしてるんだから、場所を間違うはずないし…)
その時、人込みの中から見覚えのある人物が笑顔を向けた。
「――夕鈴?お待たせ」
「え?…確か、ホストの…」
「黎翔だよ。名前忘れちゃった?」
にこっと笑う黎翔に、夕鈴は呆気にとられつつも
「あの、私は友達を待ってますので」
と離れようとしたが、黎翔は夕鈴の手首を掴み自分へと引き寄せた。
「明玉さんなら来ないよ」
「はい?」
びっくりして聞き返す夕鈴に、黎翔はニヤリと笑う。
「あの後、明玉さんがまた店に来てくれてね、君とデートさせてくれるって」
「はい~!?」
夕鈴は驚きのあまり口をパクパクさせ、目を丸くしている。
「な、な、何で」
「あの日言ったでしょ?僕の恋人になってって」
黎翔は掴んでいる夕鈴の手を持ち上げると、その甲に口付けした。
うきゃー!!と悲鳴を上げる夕鈴に、黎翔は苦笑しながら
「こういうのは嫌い?」
と聞いてきた。夕鈴は頬を真っ赤に染めながら
「や、止めてくださいっ」
と手を振りほどいた。
「あの、明玉が何を言ったか知りませんけど、私帰りますからっ」
背中を向けた夕鈴の腰に手を回した黎翔は、くるりと夕鈴を自分に向けた。
「それは困る。今日は一日付き合ってもらうよ?」
楽しそうに細められた目が、まるで獲物を狙う獣のようだと夕鈴は思った。
「こ、困るって言われても、私も困ります!」
「―――何故?」
黎翔は笑みを崩さずに夕鈴に問いかける。
「何故って…」
目線を泳がせ口ごもる夕鈴に、黎翔は明るい口調で言った。
「買い物に付き合ってもらうだけ、それなら良いでしょ?」
「え?え…と」
良いのかしら、と考えている夕鈴の腰に手をかけたまま、黎翔は嬉しそうに寄り添い二人で歩き出した。



SNS初出2013年5月14日

ホストクラブ白陽①

※現代設定
※年齢操作有
黎翔24歳・夕鈴20歳設定
※黎翔さんがホストです



「夕鈴、たまには良いでしょ?」
夕鈴は同僚の明玉との昼食中に、帰りに呑みに行こうと誘われた。
「え~別に私、興味ないし…」
「この前行ったお店、本当に雰囲気が良かったのよ」
キラキラした顔で言う明玉をチラリと見た夕鈴は
「でもホストクラブでしょ?」
と素っ気なく言った。それでも結局は、頼まれると嫌とは言えない性格が災いし、今日だけという約束をしてしまった。


「いらっしゃいませ」
ドアを開けると、眼鏡をかけた男性が出迎えてくれた。
「白陽へようこそ。ご指名はございますか?」
明玉はウキウキした様子で
「黎翔さんを」
と言ったが、男性は眉根を寄せ困った口調で言った。
「黎翔はただ今、他のお客様からもご指名を頂いておりまして」
「あ、待ちますから」
諦めない明玉の態度に、半ば感心しながら夕鈴も案内されたテーブルに付いた。
飲み物を注文すると、明るい笑顔の男性がそれを運んで来た。
「いらっしゃいませ~黎翔はすぐ来るから、それまでオレで我慢してね?」
飲み物を2人の前に置き、自分もソファーに座った男性は浩大と名乗った。
「…黎翔さんって、人気あるんですか?」
夕鈴はピンク色をしたカクテルに口を付けながら、浩大に聞いた。
「うん、ウチで一番人気だよ。雑誌にも載った事あるし」
へー、と呟きながら夕鈴は、自分とは無縁な世界ねと思った。
「すごく格好良いんだからっ」
明玉は嬉しそうにしているけれど、正直自分はもう帰りたいと夕鈴は溜息を吐いた。
「こっちのお嬢さんは、こういう店はキライ?」
顔を覗き込むようにして聞いてくる浩大に、夕鈴は苦笑する。
「初めて来たから、良く分からなくて」
「そっかー」
浩大はニカッと笑うと、今日は楽しんで行ってよと軽い調子で言った。

「――お待たせいたしました」
不意に、さらりとした黒髪の男性がテーブルの横についた。
「黎翔さんっ待ってたのよ」
明玉が明るい声で言い、この人が『黎翔さん』なのかと夕鈴は顔を眺めた。
確かに整った顔立ちだわと夕鈴が見ていると、黎翔と目が合った。
「初めまして、かな?」
「あ、はい」
黎翔は薄く微笑むと夕鈴に向かって
「可愛いお嬢さん、僕を恋人だと思って気楽にね?」
と目を細めた。明玉はきゃーきゃー言っているが、夕鈴は目の前の黎翔をじとっとした目で見た。
「―――何?」
「いえ、やっぱりホストの方って口が上手いんだなと思って」
その夕鈴の言葉に黎翔は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑むと夕鈴の手を握った。
「可愛いと言ったのは本心からだよ?君の愛らしさに夢中になりそうだ」
そして夕鈴の指先に口付けを落とす。夕鈴は慌てて手を引き抜くと、真っ赤な顔で黎翔に言った。
「本心とか言われても嘘っぽいですっ」
「――参ったな…どうしたら僕の言葉を信じてくれる?」
からかうような黎翔の口調に、夕鈴は訳も分からず腹が立った。
「初めて会った人を信じるなんて無理ですっ」
「ちょっと、夕鈴」
見かねた明玉が口を挟むが、黎翔は面白そうに口角を上げ夕鈴を見ている。
「僕に反論する女性なんて初めて見たよ」
「は?」
黎翔は夕鈴の顎に指をかけ、近い距離から夕鈴を見つめた。
「――君の事、もっと知りたいな」
カアッと一層顔を赤らめた夕鈴は、自分の顎に添えられた黎翔の手を叩くと
「からかわないで下さい!!」
と語気を強めた。
「夕鈴、ここはそういう場所なんだから」
となだめる明玉の言葉も、このコ面白れーと笑う浩大の声も、夕鈴の耳には届かなかった。
「私、不誠実な人って嫌いなんですっ」
プイッと黎翔から顔を背ける夕鈴の髪を一房とらえ、妖艶に黎翔は微笑む。
「――本気なら、良いの?」
「―――え?」
思わず振り返った夕鈴の目前で、黎翔はその髪に口付ける。
「僕の、恋人になって?」
えー!?と叫んだ声は明玉の物か自分の物かも分からず、夕鈴はただめまいに襲われていた。



SNS初出2013年5月13日

ことほぐ

祝いの宴が始まる―――

白陽国の若き国王が正妃を迎えられると、国中が明るい話題に浮かれている頃。
王宮の主は一人、浮かない顔で窓の外を見ていた。

その身にまとっているのは緋色の婚礼衣装。
国中が祝う婚礼の、その張本人の顔だけに笑顔が無い。
理由を知る側近、李順は軽く溜息を吐くと婚礼を執り行う為の広間へと、黎翔を促した。

回廊を歩きながら、黎翔はふと後宮へ通った日々を思い出した。
下っ端妃として雇われた、夕鈴の部屋へ通ったあの頃。
ただ楽しくて、彼女の笑顔が嬉しくて。
その部屋は今、住む主もなく綺麗に片付けられ、静寂だけがその影を落としていた。
もう二度と渡る事の無くなった、長い回廊を黎翔は思い返す。
これからは王の部屋に近い、正妃の部屋へ通う事になる。
―――あの日々は、もう来ない。
後ろ髪ひかれる思いで夕鈴の部屋から戻るのも、今思えば楽しい事だった。
半歩後ろを歩く李順が、黎翔の頬が緩んだのに気付き、何か言いたげな瞳を向けた。


黎翔は広間に入り、花婿のための場所へ向かう。
少し遅れ、扉から花嫁が姿を現した。
黎翔と同じ緋色の衣をまとい、頭にはすっぽりと、やはり緋色の被り物を被っている。
黎翔のもとへ向かう静かな足運びと優雅な歩き方は、その教育の高さを物語っている。
黎翔の側へ来た花嫁は、その白く華奢な手を差し出し、黎翔の大きな手に重ねた。
―――いつも荒れ気味だった、働き者のあの手とは違うな…
黎翔が軽く口角を上げると、花嫁が穏やかな口調で尋ねた。
「…どうかなさいまして?」
その小さく消え入りそうな声に、黎翔は薄く笑むと
「いや――何でもない」
と花嫁の手を引き、用意された壇上へと上がった。
―――下町での夕鈴は元気な声で、生き生きとしていたな…
何故今日はこんなにも、今はいないバイト妃の事を思い出すのかと黎翔は自問した。
―――忘れられるはずもない、か。
忘れる必要もないと、黎翔は一人笑みをこぼした。


式の間、花嫁は被り物をとる事はない。
次々と贈られる高官からの祝福の言葉や祝いの品々。
黎翔はそれらを、まるで他人事のような気持ちで眺めていた。
隣の花嫁は、時折侍女の介添えで被り物の中で杯を受ける。
「―――正妃よ、部屋へ向かうか?」
黎翔からの静かな問いかけに花嫁の被り物が少し揺れ、中から簪の音がシャランと響いた。
「我が王のお望みのままに――」
囁くような細い声を聞いた黎翔は、眉根を寄せ立ち上がると花嫁を抱き上げる。
「李順、後は任せた」
低い声で側に控える側近にそう告げると、黎翔は広間を出て自室へ向かった。

花嫁は黎翔の胸にもたれかかり、大人しくされるがままになっている。
黎翔は自室へ入ると、そのまま寝室へと向かい寝台に花嫁を降ろした。

花嫁の緋色の被り物をそっと外すと、綺麗に結い上げられた髪とそこに差された豪華な簪、そして美しく化粧を施された花嫁の顔があった。
潤んだ瞳で自分を見上げる花嫁に、黎翔は尋ねる。
「狼陛下の花嫁になる事に、ためらいはないのか?」
「…はい」
恥じらうような花嫁の返事に、黎翔は苦笑した。
「死ぬまでここから出られぬぞ」
「はい…一生をかけてお仕え致します」
黎翔は花嫁の頬に手を当てた。
「子を産み育て、国母となる覚悟はあるのか?」
「…陛下がお望みでしたら」
そうか、と小さく呟いた黎翔は花嫁を抱き締める。
「――これから、二人で歩んで行こう?夕鈴―――」



SNS初出2013年5月15日

側近の腕前

SNSでの足跡18000hitのキリリクです。



私は後宮からほど近い四阿で、陛下と李順さんと共に卓に付いていた。
「―――という事です。よろしいですか、夕鈴殿」
李順さんが近いうちに催される宴についての説明をしてくれる。
私が真剣な顔で説明を聞いていると、陛下は私の隣でその様子を目を細めながら見ていた。
「何かご質問は?」
「いえ、大体…分かりました」
私が力なく言うと、李順さんの眼鏡がキラリと光る。
「大体、ですか?」
「いえ!きちんとしっかり分かりました!!」
ビシッと背筋を伸ばして答えると、陛下が何故か微笑んだ。
「夕鈴はいつも通り、私の隣で微笑んでいれば良い」
「陛下、夕鈴殿にも段取りくらいは覚えて頂かないと」
李順さんが小さく溜息を吐いた時、どこからか飛んで来た一本の小刀が卓に突き刺さった。
「賊か!?」
陛下はすぐに腰の剣を抜くと、私を背中にかばい李順さんに指示を出す。
「妃を安全な場所へ!」
「はっ」
李順さんと私は目線を合わせると互いに頷き、私は李順さんの背中に隠れるように後宮の建物内に入った。
外からは剣を打ち合う金属音や何かが倒れるような音、陛下が短く指示する声とそれに答える浩大の声が聞こえる。
私は心配になり、李順さんに尋ねた。
「だ、大丈夫でしょうか…」
「陛下はお強いですからね」
刺客も可哀想に、と李順さんは小さく呟いた。
思ったより外の騒ぎは長く続き、敵が数にまかせて襲って来た事が分かった。

そして、ギィッと扉がきしみ私達がそちらに目をやると、一人の黒ずくめの男が立っていた。
「―――お妃様、なるべく奥へ」
李順さんは扉を後ろ手で閉めた相手から目を離す事なく、落ち着いた声で私に言った。
「り、李順さん?」
「――お早く」
私は李順さんの指示通り部屋の奥へと駆けて行き、衝立ての陰からそっと様子を窺った。
「荒事は得意ではないのですが…お相手致しましょう」
李順さんは眼鏡を指で押し上げると、口角を上げ相手を見据えた。
男は手に短刀を構え、李順さんに向かって駆け出した。
短刀が届く直前に李順さんは体をかわし、男の手首を手刀で勢い良く叩く。
短刀を取り落とした男の背後をとると、両手を組み男の背中に肘をめり込ませる。
うめき声と共に倒れた男の両腕を背後に捻り上げた李順さんは、相手が身動き出来ないように膝を乗せ押さえ込む。
男が抵抗する様子を見せると、李順さんは暗く笑い
「無駄な抵抗は痛い目を見るだけですよ?」
と男の肩の関節を外した。私は血の気が引いていく感覚を味わいながらも、目を逸らす事も出来ずにその様子を眺めていた。
「まだ抵抗する元気がおありでしたら、足も外してさしあげましょうか?」
苦痛のうめき声を上げる男を、李順さんは薄く笑みながら見下ろす。
「ああ、そのような声はこの場に相応しくありませんね」
李順さんは男の首に手刀を落とし意識を失わせると立ち上がり、服をパタパタと叩いた。
「服装の乱れは心の乱れ、ですからね」
そしてやや緩んだ髪をキュッと結び直すと
「外が静かになりましたね」
と私に目線を移した。

私達二人が部屋の外へ出ると、浩大が忙しそうに気絶している敵を縛り上げている所だった。
私達に気付いた陛下が駆け寄り、優しい瞳を向けてくれる。
「――夕鈴、無事か?」
「は、はい。隠れていましたから」
私は周りを見回し、その敵の多さに唖然とした。
「陛下はご無事ですか?どこか怪我などは?」
私が尋ねると、陛下は悠然と微笑んだ。
「ああ、無傷だ。ただ多少汚れたからな、君に触れる事が出来ないが」
「――陛下…」
陛下のいつも通りの態度に私は安堵して、ほっと溜息を吐いた。
「ですから、陛下はお強いと申しましたでしょう」
呆れた口調で私の背後から言う李順さんに、私は疑問を投げ掛けた。
「李順さんもお強いんですね。文官なのに何故ですか?」
李順さんは一瞬目を丸くして、それから冷たい笑みを浮かべた。
「狼陛下の側近ともなれば、これくらいの腕前は当然でしょう?」



※リクエスト内容は
『実は戦闘能力も高かった李順さん、夕鈴目線で』

SNS初出2013年5月13日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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