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北の地で⑥

今回はSNSでのお友達、あさ様からのリクエストが盛り込まれています。



李順が住み込みを始めて一週間ほどがたった。
黎翔も、李順に少しずつではあるが笑顔を見せるようになり、離宮の女官達も安堵している様子が見てとれた。
「黎翔様、そう言えば黎翔様の乳母はどちらに?」
李順がお茶の時間に毒見を済ませてから尋ねると、黎翔は目を伏せた。
「――今はいない…僕の代わりに毒に倒れた」
「…それは、後宮で、ですか?」
黎翔は目線を落としたまま、こくんと頷いた。
「食事に入れられていたんだ……毒見して…」
「――亡くなられたのですか?」
李順の問いに一瞬びくりとした黎翔が、再び頷いた。
「それがきっかけになって、父上が北に行く様にと」
「――今、この離宮にいる女官達は後宮から?」
「そう。信用できる者達だけ」
李順は離宮に来た当初から感じていた、閑散とした雰囲気の原因はこれかと気付いた。
女官の数が少なすぎる。
妃と王子が滞在しているにも関わらず、李順が目にした女官はほんの数人だ。
乳母がいないと言う事は、黎翔の身の回りの世話を専門に行う者がおらず、女官達が他の仕事と兼ねて動いているのか、と李順は推測した。
「乳母がいないと不自由ではありませんか?」
「…少し。でも仕方ない」
乳母は王子の一番近くにいる存在だ。
よほど信用できる人間でないと、任せる事は出来ない。
李順は少し考えてから、黎翔に提案した。
「私の叔母を、黎翔様の乳母に雇って頂けませんか?」
「李順の叔母?」
「はい、私の亡くなった母の妹です。貴族の出ですから、行儀作法に問題はないかと」
黎翔はしばらく李順の瞳を見つめていたが、少し眉根を寄せ尋ねた。
「信用できる者か?何かあれば、進言したお前の身にまで咎が及ぶ」
「はい、信用できる人間です…私をご心配くださったのですね?」
クスリと笑む李順を見て、黎翔は頬を染め目線を逸らした。
「李順からはまだ、この地の事を聞いている途中だ。いなくなると困る」
そっぽを向いたままで答える黎翔の横顔に、李順は一層笑みを深めた。

次の日、女官長に連れられた一人の女性が黎翔の部屋を訪れ、黎翔の前に進み出ると深く礼を執った。
「拝謁叶いまして恐悦至極にございます」
「お前が、李順の叔母か?」
「はい、あさと申します。不肖の甥がお世話になっております」
「――やはり李順と似ているな…髪が」
黎翔の脇に控えていた李順は首を傾げた。
「髪、ですか?」
「僕とは違う」
確かに黎翔は黒く真っ直ぐな髪だが、李順は幾分淡い色で波うっている。
李順の叔母と紹介されたあさも、また李順と同じような髪をしていた。
「この地の者は皆そうなのか?」
黎翔からの率直な問いに、あさは笑みを溢した。
「いいえ、様々な方がいらっしゃいます。黎翔様は離宮からお出になられた事はございませんか?」
「ない。後宮からここへ移った時…馬車から降りた時だけ外に出た」
まぁ、とあさは目を丸くすると穏やかに微笑んだ。
「これからの時期、この地は長く厳しい冬を迎えます。外に出る事もほとんど出来ませんが、春になりましたら町へ行かれませんか?」
「町…」
黎翔はふと顔を上げ李順を見た。
「李順と一緒なら行く」
二人の様子を眺めていたあさは、にこやかに李順へ目を向け
「仲良くして頂いているのですね」
と穏やかに告げると、黎翔に改めて礼を執った。
「李順共々、誠意を込めてお仕えさせて頂きます。これから宜しくお願い致します」
「こちらこそ頼む――危険は承知か?」
暗い瞳で尋ねる黎翔に、あさは艶全と微笑むと
「はい、この身に代えましても、黎翔様をお守り致します」
とキッパリ言い切った。
その意志の強さを表すかのような強い瞳に、黎翔は口角を上げ
「李順、お前の叔母は強い女性だな」
とどこか嬉しそうな口調で李順に言った。
その言葉に李順は肯定も否定もせず、ただ微笑み眼鏡を指で押し上げた。



※リクエスト内容は
『登場権』

SNS初出2013年7月26日
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北の地で⑤

次の日、李順は少しの手荷物を持ち、住み込みを始める為に離宮を訪れた。
李順に割り振られた部屋は黎翔の隣。
その有り得ない配置に李順は驚いた。
「黎翔様の隣室ですか!?」
案内した女官は、そのように承っております、と静かに告げた。
「――僕が決めた。不満か?」
振り返ると黎翔が李順を見上げて立っていた。
「いいえ、不満など…ただ王子の隣室とは恐れ多い事だと」
礼を執る李順に、黎翔は事も無げに言った。
「部屋が遠いと、面倒だろう?荷物はそれだけか?」
「はい、私物と呼べる物はこれだけです」
訳を話し邸を出ると告げた時、どこか寂しそうな表情を見せた伯父の顔を思い出し、李順は目を伏せた。
「――本当に、良かったのか?」
黎翔の言葉に李順はハッと顔を上げた。
――この方は人の機微に聡い…仕える者が心配されてどうしますか。
「黎翔様、私は自分の意志で貴方にお仕えすると決めたのです」
黎翔は何も言わず、ただじっと李順の瞳を見つめていた。

そして李順はある事に違和感を抱いた。
それは二人で巻物を読んでいる時の事、熱心に読み耽っている黎翔が、何かをぶつぶつと呟いている。
「黎翔様?如何されました?」
「――あぁ、議論していただけだ」
「議論?どなたとですか?」
黎翔は李順の顔を見ると
「『僕』が『私』と」
と言った。言われた李順は訳が分からず、眼鏡を指で押し上げると黎翔に問い掛ける様な眼差しを向けた。
「僕は、理解できない点は私と話し合うんだ――どちらも自分だけど」
「それは…」
「――気味が悪い?」
驚いている李順を見て、黎翔は言葉を続ける。
「後宮の女官達には気味が悪いと言われた」
「あ、いえ…少し驚いただけです」
李順は出来るだけ冷静な声で、微笑みながら言った。
そしてふと疑問に思った事を尋ねた。
「黎翔様の今までの話相手はどんな方でした?」
「――いない。李順が初めて」
「そう、でしたか…」
それでは先程の事は、一人でいる事が多い為に、身に付いたものだろうかと李順は考えた。
「――どの様に議論されるのですか?」
「…例えば、この巻物にある害獣駆除についてなら、『私』は駆除をする班を編成して定期的に見回るべきだと思う。『僕』は害獣について調べ、生態に合った罠を仕掛けるべきだと思う…って議論してた」
李順は黎翔の答えに、知らず息を飲んだ。
黎翔がただ巻物を読み丸暗記している訳ではなく、理解しさらに議論という形を通して発展させている事に李順は驚いた。
その様子を見て、黎翔は言葉を続ける。
「――北の地には王都にはいなかった獣が沢山いるな。知らない種類ばかりだ」
じっと自分の顔を見上げる黎翔に、李順はフッと微笑むと穏やかに言った。
「黎翔様、先程初めて私の名をお呼び下さいましたね」
その言葉に黎翔は虚を突かれた様に目を丸くし、頬を赤らめた。
「そうだったかな」
目線を逸らし落ち着かない様子の黎翔を見て、李順はクスリと笑みを溢す。
今まで名前を呼ぶ相手もいなかったのだろうかと、切ない思いが込み上げるものの、少しずつではあるが自分に様々な表情を見せてくれる様になった黎翔に李順は目を細めた。
「どうぞ名をお呼び下さい。そして、私相手には我が儘を仰っても宜しいのですよ?」
「我が儘?…李順は変わった事を言う」
キョトンとした表情の黎翔の顔は年相応に見えて、李順は一層笑みを深めた。
「お妃様や他の大人の前で『良い子』でいるのは大変素晴らしい事ですが、私といる時にはそんな必要はありません」
「――そういう物なのか?」
「はい、何でも仰って下さい」
黎翔は少し考える様に、握った手を口元に当て俯いた。
そしてゆっくり顔を上げると、小さな声ながらもハッキリした口調で言った。
「この地にいる獣について、教えて欲しい」
「……それが黎翔様の『我が儘』ですか?」
「――やはり駄目か?…面倒か?」
自分を見上げるその幼い顔に心配気な表情が浮かんだのを見て、この方は今まで我が儘も言った事が無いのかと李順は苦笑した。
「勿論宜しいですよ。私が知っている、この地の事を全てお教え致しましょう」
黎翔の表情が明るくなったのを見て、李順は話を始めた。
「獣、と一口に言いましても、この地にいる獣は狼のような強いものから、兎のように弱いものまで、様々な生き物がおります」
目を輝かせ李順の話を聞く黎翔の顔は、今まで見た事も無い程とても嬉しそうなものだった。



SNS初出2013年7月17日

北の地で④

それから二人は巻物を広げ、薬草の薬効や毒草の解毒方法について話し合った。
一口に毒草と言ってもその『毒』は多種多様で、腹を下す様な軽い物から意識障害を起こす物、果ては呼吸困難を起こさせ死へいざなう物まで様々だった。
そして李順が目を留めたのは、巻物の最後に記されていた毒草。
「黎翔様、こちらは解毒方法が書かれていませんね」
「…無いから」
李順は驚き、横に書かれた説明を読む。
生えている場所、葉や花の特徴に続き記されていた一文には『摂取後、二呼吸ほどで絶命』とあった。
「これは…」
こんな強力な毒草が、自分の良く知るこの地にあるのか、と李順は背筋が寒くなった。
「新芽が食用の野草と似ているのですね」
説明を読み、李順は納得した様に呟く。
「――誤食を装える」
小さく頷く黎翔に、李順は努めて明るい声で言った。
「新芽は春にならないと出ません。今は冬、しかもこの地の冬は長いですから」
「でも春には芽が出る――覚えておかないと」
ポツリと言った幼い黎翔の言葉に重い物を感じた李順は、もう一度その毒草の特徴を読み直した。

――今が冬で良かった、と李順は思った。
もしも季節が春なら毒草の新芽が、夏なら食中毒を思わせる食材が、秋なら一見しただけでは分からない毒キノコが食事に紛れ込むかもしれない。
「――黎翔様、昼餉は私が毒見を勤めさせて頂いておりますが、朝餉と夕餉はどなたが?」
「僕付きの侍女」
李順はしばらく何かを考えるように目線を落としたが、思い切った様に顔を上げ黎翔に提案した。
「黎翔様、私をここに住み込みとして置いて頂けませんか?」
黎翔は目を瞠り李順の顔を見た。
「――何故?僕に取り入っても何も無いよ」
その暗い瞳は、李順が毒見役を申し出た時と同じ物だった。
「…世の中、損得だけで動く人間ばかりではありませんよ?」
「もし、命を落としたら?」
李順は目を細め、薄く笑った。
「そうならない様に、これから学びます」
「――母上が悲しむぞ?」
「私は父母共に、もうこの世にはおりません」
李順が静かに告げた言葉に、黎翔は目線を泳がせた。
「家の為ではないのか?何の為に命を懸ける?」
「――貴方の為、ですよ」
黎翔はぐっと唇を噛み締め俯いた。
「僕は、何も与えられない」
「――はい」
「褒美を与えてくれと父上に進言も出来ない」
「はい」
黎翔はゆっくり顔を上げ、真っ直ぐに李順の瞳を見た。
「それでも、か?」
「はい、黎翔様」
途端に黎翔の瞳から涙が零れた。
自分を見つめたままで、ボロボロと涙を流す黎翔に苦笑した李順は、黎翔をそっと抱き締め頭を撫でた。
「貴方という方は、泣き方もご存知ないのですか?」
「な…き方?」
李順は軽く黎翔の背を叩きながら話す。
「――王子とは言え、貴方はまだ子供です。声を上げて泣いたとしても、誰にも咎められませんよ?」
黎翔は李順の胸元をぎゅっと握ったかと思うと、しゃくり上げながら、わあっと泣き出した。
「はっ、母上を、父上に代わって、守るって…!!」
「…国王と約束されたのですか?」
黎翔は李順の胸に顔を付けたまま頷いた。
「誰も、味方はいない…周りは敵だってっ」
――貴方は感情を殺してまで、お妃様を守る『大人』になろうとしていたのですか。
李順は自分に縋り付き、声を上げて泣き続ける小さな黎翔の背を、優しく撫でさすった。
――まるで、私が伯父の家で出来るだけ『大人』でいようとした様に。
初めて会った時から、感情を表さない王子だと思っていた。
もしかしたら自分は気に入られていないのでは、と不安にもなった。
だがそれは、常に周りを警戒していたから。
油断をすると命を落とす、そんな世界にいたのかと李順は黎翔のこれまでを思い、眉根を寄せた。

どれくらいそうしていただろうか、気付くと黎翔は李順に凭れかかり寝息を立てていた。
――泣き疲れてしまわれましたか。
李順は黎翔を寝台へと運ぶ為に、その体を抱き上げた。
――軽い…
この小さな体で、懸命に一人で立ってお妃様を守ろうとしていたのかと、李順は胸が苦しくなった。
寝台に黎翔を寝かせ上掛けをそっとかけると、李順は寝ている黎翔に深く礼を執り、起こさないように小さく囁いた。
「この李順、貴方の右腕として恥ずかしくないように精進して参ります」
そして顔を上げた李順の表情は、これまでに無いほど晴れ晴れとした物だった。



SNS初出2013年7月12日

北の地で③

翌日、いつものように黎翔の部屋を訪れた李順が見たのは、何かを熱心に読んでいる黎翔の姿だった。
「黎翔様、本日は何をお読みに?」
「――この付近で採れる薬草と毒草」
李順が眉間にシワを寄せ巻物を覗き込むと、そこには様々な草の絵が描かれ、詳細な説明が記されていた。
「これは…どちらから入手されたのですか?」
「オレだよ~」
軽い調子の台詞と共に窓から入って来たのは、李順とさほど変わらない年齢に見える少年だった。
「誰ですか!?」
李順は黎翔を背後にかばいながら問い掛ける。
「…浩大。僕の隠密」
背後から聞こえた黎翔の言葉に、李順はその少年をまじまじと眺めた。
「黎翔様の?」
「そーそー、王子様の警護を任されてるんだヨ」
にぱっと笑った浩大に、李順は訝しげな視線を送り尋ねた。
「王子をお守りする隠密が何故こんな物を?」
「こんな物ってヒドイなぁ~俺、一生懸命この辺を調べたんだぜ?」
ニヤニヤ笑いながら言う隠密に、李順は探るような目を向ける。
「僕が、命令した」
黎翔の呟く声に、李順は振り返る。
「黎翔様…薬草はともかく毒草など、一体どうするおつもりですか?」
黎翔は李順に目を向けると、不思議そうに言った。
「事故に見せかけるなら、付近で採れる物を使うだろう?」
「――え?」
二人のやり取りを見ていた浩大が口を挟む。
「アンタさぁ、お妃様と王子様が何でこんな所に来たか分かってる?」
「……アンタではありません。李順です」
浩大はケラケラ笑い、話を続けた。
「別に邪魔だから飛ばされた訳じゃないぜ?命を狙われて危ないから、守るために送られたんだぜ」
浩大の目だけが笑っていない事を見てとった李順は、自分が考えていた厄介払いなどではなく、父親である国王が二人を守りたいと思っての行動だという事に気付いた。
――つまり、お妃様はそれほど深い寵愛を受けているのか…
こんな北の辺境までは、王宮や後宮内の事情は噂でも届かない。
「…数多の妃がひしめく後宮で、国王の深い寵愛を受ける妃、しかも王子を産んでいる……」
李順の考え込む様な呟きに、浩大はにっこりと笑った。
「アンタ…李順?馬鹿じゃないんだな」
「なっ、貴方は失礼な方ですね!私は黎翔様の話相手ですよ?それなりの知識があって当然でしょう」
「話相手、ね」
浩大は口角を上げたまま、黎翔が読んでいる巻物を指差し李順に言った。
「一緒に読んでおいた方が良いぜ。毒草の横には解毒の仕方も書いておいたから」
じゃあな~と来た時と同じ様に、窓から出ていった隠密に呆気に取られながらも、李順は眼鏡を指で押し上げると黎翔に向き直った。
「黎翔様、先日仰っていた『守るため』とは、お妃様の事ですか?」
黎翔は巻物に目を落としたまま、こくんと頷いた。
「何も知らないままじゃ、守れない」
巻物を繰る小さな手を見て、李順は軽く眉根を寄せた。
――この方はこの小さな手に、何て重い物を担ってらっしゃるのか。
「…黎翔様、私にも教えて頂けませんか?」
目線を上げ李順に頷く黎翔の顔が、かすかに微笑んだように見えた。
――その重荷を、少しでも軽くして差し上げる事が、私に出来るでしょうか…
李順はいつしか、この小さな王子の力になりたい、と思い始めている自分に苦笑した。



SNS初出2013年7月8日

北の地で②

その日から李順は、黎翔の話相手として毎日離宮を訪れた。
碁を打ったり共に書物を読んだり、またある時は他愛もない話をしたり。
だが黎翔は普通の幼子が好むような、簡単な読み物には興味を示さなかった。
大人が読む、しかも専門的な内容が書かれた物に興味を示し積極的にそれらを読んだ。
李順は目の前の小さな黎翔が文字を読めただけでも驚いたが、さらに専門的な書物を読み、その内容を理解している事にさらに驚いた。
幼児の『勉強』にしては質が違うと、李順は疑問をそのまま黎翔にぶつけた。
「黎翔様、将来何かなりたいものでも?そのために学んでおられるのですか?」
今の国王が崩御しても皇太子がいる以上、黎翔が玉座に着く可能性は低いだろう。
――皇太子に何も無ければ。
だったら他の道を歩むのも悪くはないと李順は思ったが、黎翔の答えは李順の予想とは違うものだった。
「いや…守るため」

そして幾日か過ぎた頃、黎翔がポツリと李順に言った。
「今日から外に出ても良いと言われた」
「――それは、以前仰っていた隠密からの報告ですか?」
黎翔はしばらく李順の顔を眺めた後、こくんと頷いた。
「では、今日は離宮の庭を散策でも如何ですか?」

手を繋ぎ並んで歩くと、やはり黎翔はまだ小さな子供だと実感させられる。
自分より頭二つ分は低い黎翔を気遣い、李順はゆっくりと歩く。
「黎翔様、あそこの四阿で休みましょうか」
黎翔は李順を見上げ、繋いでいる手をキュッと握ると小さく頷いた。
四阿の椅子に座ると、黎翔付きの侍女がお茶を用意してくれた。礼を執り下がろうとする侍女に、黎翔が声をかける。
「――待て。これを飲んでから行け」
黎翔は自分の前に置かれた茶杯を侍女に差し出す。
侍女は恭しく礼を執りつつ両手でそれを受け取り、お茶を飲んだ。
「…黎翔様?」
李順が不思議に思い声をかけると、黎翔は
「毒見だ」
と素っ気なく言った。
「――本当は子供が良い」
ポツリと言った黎翔の言葉に、体格の差があると毒の効き目が違うからかと李順も理解した。
「でしたら、私が毒見役を勤めましょう」
静かな声で言う李順の顔を、黎翔はじっと見つめた。
「『話相手』のお前が命を懸けるのか?」
「黎翔様がそれをお望みでしたら」
黎翔は李順の真意を測るかのように、瞳を覗き込んでから視線を落とした。
「分かった……離宮にいる間、毒見役を勤めよ」
「御意」
礼を執る李順に、黎翔が視線を向ける事は無かった。



SNS初出2013年7月7日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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