FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ホストクラブ白陽⑥

食後に黎翔はコーヒーを飲みながら尋ねた。
「夕鈴、今夜は暇なの?」
「今夜ですか?」
夕鈴は紅茶のカップに手を添えたまま考える。
予定なんて勿論無い。けれども正直に暇だと言ったら、また黎翔のペースに巻き込まれるのではないかと懸念する。
「え、と。何故ですか?」
「お店に、遊びに来ない?」
にっこり笑う黎翔に、夕鈴は溜息混じりに
「なんだ…営業ですか」
と言ったが、黎翔は意外そうな顔をした。
「営業なんかじゃないよ。夜も夕鈴と過ごしたいだけだよ」
「はい?」
「流石にお泊りデートはまだ早いでしょ?」
にこやかに爆弾発言をする黎翔に、夕鈴はカァッと顔を赤らめた。
「な、なな何で!?お泊り!?」
「好きな子と、ずっと一緒に居たいって思うのはおかしな事かな?」
不思議そうに首を傾げる黎翔を見て、夕鈴は何も言う事が出来ず口をパクパクとさせた。
「ね、遊びに来てよ」
「で、でも帰りが…遅い時間に一人で帰るのは危ないので」
やっとの思いで断る口実を見付けたと思った夕鈴だったが、黎翔はあっさりと
「じゃあ送って行くよ」
と微笑んだ。
「え?お店の終了時間まで居なきゃいけないんですか!?」
「夕鈴の好きな時間に帰って良いよ?その時間を休憩時間にしてもらうから」
どう言えば断れるのかしらと夕鈴は考え込んだが、眉根を寄せているその顔を見て、黎翔が心配そうな声で言った。
「――迷惑、だったかな?」
「…え?」
「夕鈴は、僕の事キライ?」
しゅんとしてしまった黎翔に、夕鈴は慌てて答える。
「きっキライとかじゃないですよ!?」
「じゃあ好き?」
ボフッと一気に顔を赤らめた夕鈴を見て、黎翔は夕鈴の髪を一房指に絡めると、妖艶な笑みを浮かべた。
「――良かった。嫌われてなくて…」
チュッと音を立てて髪に口付けし、スルリと髪を放すその表情や指の動きを、夕鈴は呆気に取られたまま見つめていた。

店は7時からだから好きな時間に来て、と黎翔に言われた夕鈴は、カップの中の紅茶に目線を落とした。
「夕鈴?」
「…やっぱり、行けません。一人でお店に入る勇気ないし…」
「――じゃ、一緒に行く?」
夕鈴が目を上げると、黎翔は口角を上げ静かに微笑んでいた。
「駅で待ち合わせしようよ。僕、夕鈴と一緒に行きたいな」
「一緒に、ですか?」
にこにこと笑う黎翔を見ていると、夕鈴は一回くらいなら良いかしら、と思えて来た。
「じゃあ、今夜7時に駅の北口で待ってるよ」
「――はい」
小さく頷いた夕鈴に、黎翔は本当に嬉しそうな笑顔を向けた。

店を出る時になって、夕鈴が財布を出そうとすると、黎翔がその手をやんわりと止めた。
「僕に払わせて?」
「そんな、悪いです。自分の分は払います」
黎翔は少し困ったように微笑み
「じゃあ、次は夕鈴が奢ってくれるかな?」
と夕鈴に耳打ちした。
レジの前であまりもめるのも店に迷惑だと思った夕鈴は、黎翔の提案に従う事にした。
「分かりました。あの、ご馳走様です」
にこっと笑った夕鈴の、花がほころぶような笑顔に黎翔は見惚れつつも、次のデートの約束が出来た事に薄く笑みを浮かべた。



SNS初出2013年7月16日
スポンサーサイト

ホストクラブ白陽⑤

「ちょっと早いけど、お昼にしようか?」
店を出た黎翔は、時計で時間を見てから夕鈴に尋ねた。
「夕鈴は何が食べたい?」
にこっと笑う黎翔に、夕鈴は少し意地悪をしてみたくなった。
思えばずっと黎翔に振り回され、一方的に彼女扱いされたり人前でイチャつかれたり…
ちょっと恥ずかしい思いをしてもらえば、私の気持ちも理解してくれるかしら、と夕鈴は考えた。
「あの、私が明玉とよく行くお店でも良いですか?」
「うん、もちろん」
黎翔は嬉しそうに夕鈴と手を繋ぎ
「案内よろしくね」
と目を細めた。その黎翔の笑顔に夕鈴は少し胸が痛んだが、言ってしまった以上は仕方ないと店に向かって歩き出した。

「こ、このお店なんですが…」
「へー、可愛いお店だね」
夕鈴が案内したのは、某童話がモチーフになっているレストランだった。
入口で、淡い色のワンピースにフリルの沢山付いたエプロンを身に着けたウェイトレスが挨拶をする。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
「はい」
お辞儀ではなく、膝を屈めて言うその挨拶にも黎翔はたじろぐ事なく、笑顔で返事をする。
あれ?と夕鈴は思ったが、中を見たら驚くかもと少し期待しつつ、二人は店内に入った。
先程の店でもそうだったが、黎翔はドアを開けると必ず夕鈴を先に通らせる。
さすがホストねーと夕鈴が感心していると、案内された席で黎翔が椅子を引いて、どうぞと夕鈴に微笑んだ。
ぎゃー!!恥ずかしいっ!!
夕鈴はうつむきながら椅子に座ったが、私が恥ずかしい思いをしてどうするのよっと顔を上げた。
「あ、あの…黎翔さん?このお店、どう思います?」
店内にはあちらこちらに可愛いグッズが飾られ、ケースの中にはマカロンで出来たツリーまで飾られている。
「え?可愛いお店だよね」
にこにこと話す黎翔に、普通は男の人って可愛いお店とか苦手じゃないの!?と夕鈴は肩透かしを食らった気分だった。
注文を伝え料理が運ばれてくると、黎翔はウェイトレスをしばらくじっと眺めていた。
「…黎翔さん、どうかしました?」
「いや、あの服、夕鈴に似合いそうだなと思って」
「は?」
一体この人は何を言いだすのかと夕鈴は目を瞠った。
「夕鈴は可愛いから何でも似合いそうだけど」
料理を食べながら穏やかに話す黎翔に、夕鈴は赤い顔のまま絶句した。
「そう言えば――」
黎翔は夕鈴の目を見つめ尋ねる。
「夕鈴は彼氏、いるの?」
「…え?」
「ん~、聞いてなかったなって」
笑いながら言う黎翔に、夕鈴は驚いた声を上げた。
「え!?明玉から聞いたのかと…わ、私に彼氏がいるかもしれないのに彼女になってとか言ったんですか!?」
「うん、彼氏がいても奪おうかと思って」
言われた内容に驚きつつも、口角を上げ薄く笑む魅力的な黎翔の顔に、夕鈴は息を飲んだ。
「な…何で、私、なんですか?」
夕鈴の呟く様な声に、黎翔は首を傾げた。
「黎翔さんなら、彼女になりたい人は沢山いるんじゃないですか!?」
「――でも僕が彼女にしたいのは、夕鈴だけだよ」
言い聞かせるように、黎翔はゆっくりと夕鈴に話した。しかし夕鈴は軽く眉根を寄せ黎翔を見上げた。
「私が…今まで黎翔さんの周りにいなかったタイプだから、珍しいだけじゃないんですか?」
「ゆう…」
「だったら、すぐに飽きるに決まってます。お付き合いなんて…出来ません」
テーブルに目線を落とした夕鈴の泣きそうな顔を見つめ、黎翔は困ったように微笑み手を伸ばした。
夕鈴の髪を一房、指に絡め静かな口調で黎翔は囁く。
「困ったな…どうしたら、本気だと分かってもらえる?」
その声音に、夕鈴はおずおずと黎翔を見た。
自分を切なそうな瞳で見つめるその表情に、夕鈴の胸がドキンと高鳴った。
「わ…分かりません、そんなの…」
「そう、か」
黎翔は指に絡めていた夕鈴の髪に口付けてから、するりとそれを解く。
「じゃあ、僕の気持ちが本気だと分かるまで、今日みたいにたまには会ってくれる?」
「え?」
「だってそうしないと、お互いのこと何も分からないでしょ?」
確かにそれはそうかも、と思うものの何か釈然としない物を感じ、夕鈴は口ごもる。
「取り敢えず携帯番号、交換しようか。連絡取れないと困るし」
にこやかに携帯を取り出す黎翔の態度に、夕鈴もつい自分の携帯をバッグから出してしまった。
あ、と思った時には黎翔が夕鈴の携帯から自分の携帯へとコールしていた。
「これ、僕の番号ね」
返された携帯を受け取りながら夕鈴は、しまった!!と思ったが遅かった。
何でいつもこの人のペースに巻き込まれてしまうのかしら、と夕鈴は反省しつつ黎翔をじとっとした目で見つめた。



SNS初出2013年7月6日

ホストクラブ白陽④

「それで、何を買うんですか?」
「んー…服、かな」
黎翔の答えに間があった事に夕鈴は怪訝そうな顔を向けたが、黎翔は相変わらずニコニコと笑っている。
「…何だか、お店と雰囲気違いますね」
「あっちは仕事だからね」
スッと目を細めた黎翔の表情に、夕鈴の胸がドキンと高鳴った。
「接客業だから、少しはキリッとした顔してないとね」
「…とても、綺麗な顔だと思いますけど」
口からつい本音が漏れた夕鈴は、慌てて口を覆った。
黎翔はクスッと笑うと
「ありがとう」
と夕鈴の耳の側で囁いた。
「ふ、服ってどんなのを探してるんですか?」
なるべく黎翔から離れるようにして言う夕鈴の態度に黎翔は苦笑すると
「そろそろ夏物を見たいかな」
と明るく言った。
駅前の大通りには様々な店が軒を連ねている。夕鈴は恐る恐る黎翔に尋ねた。
「あの…まさかブランドショップとか?」
「いや、普通の店だよ?」
何故?と尋ねる黎翔に、夕鈴はほっとした顔で
「ホストの人って、そういうイメージがあって…」
と笑った。
「やっと笑顔が見られた」
微笑みながら黎翔は続ける。
「初めて会った時から、今まで笑顔が見られなくて、とても残念だったんだ」
黎翔は夕鈴の顎に指をかけ自分に向かせた。
「思った通り…花のような可憐な笑顔だね」
―――やっぱりこの人、根っからのホストだー!!
夕鈴は叫びたい気持ちを押さえ込み、真っ赤な顔で黎翔に言う。
「あのっ道路でそういう事言うの止めて下さい!!」
「二人きりの場所なら良いの?」
顎に手をかけられたまま、近い距離で黎翔が微笑む。
その魅力的な微笑みに思わず見惚れそうになりながらも、夕鈴は強い口調で言った。
「二人きりになんて、なりませんからっ!!」
「―――そう?」
ニヤリと笑った黎翔は、夕鈴の手を引くようにして一軒の店に入って行った。

カジュアルな男性用の服が並ぶ店内を見渡し、夕鈴はまるで青慎が来るような店ねと思った。
「あの…本当にここで良いんですか?」
「うん、基本的に私服ってあまり着ないんだよ」
―――そう言えば昼間は寝てるって言ってたわよね。夜はお仕事だし…
「…家で何を着てるんですか?」
「普通にTシャツとかかなぁ」
黎翔は話しながら、目の前の棚に並べられた服を見ている。その中から一着抜き出し広げた黎翔は、自分の体に当て夕鈴に聞いた。
「コレどうかな?」
細身の黒いTシャツ。どことなくホストっぽさが滲み出て見えるのは、気のせいかしらと夕鈴は首を傾げた。
「気に入らない?」
「あ、違うんです」
手を振りながら言う夕鈴に、黎翔は穏やかに笑むと
「夕鈴が選んでくれる?」
と笑みを深くした。
「わ、私が選ぶんですか!?」
「彼女に見立ててもらうの夢だったんだ」
嬉しそうに幻の尻尾を振りながら言う黎翔を横目に、彼女じゃないのにと呟きながら夕鈴は目の前の服達を眺める。
「…何でも着こなしそうですよね」
「そんな事ないよ」
夕鈴は悩みつつ、あちらの服、こちらの服と広げて黎翔と服を交互に見ている。
「好きな色とかあります?」
「特にないけど…」
男物の服と言えば、父と弟の服しか選んだ事のない夕鈴にとって、黎翔の服を選ぶのはとても難しく思えた。
「コレ…とか?」
夕鈴がおずおずと黎翔に当ててみたのは、紺地に目立たないプリントが小さく入った、どちらかと言うと地味な感じのTシャツだった。
「こういうの好きなの?」
夕鈴の手からそれを受け取りながら黎翔が尋ねた。
「派手な物より、黎翔さんに合うかなぁって…」
その言葉を聞いた黎翔は、少し驚いたような顔をした後でにこっと笑顔になった。
「やっと僕の名前を呼んでくれたね」
「え?」
「覚えてくれないんじゃないかと、ちょっと心配だったんだ」
頬を赤く染める夕鈴に嬉しそうな笑顔を向け、黎翔は夕鈴が選んだ服を持ちレジへ向かった。
レジの店員に黎翔が何かを告げると、店員は同じ服を持ってきて一緒に袋に入れた。
「え?二枚買うんですか?」
「うん」
にこにこと上機嫌な様子の黎翔を見て、そんなに気に入ってくれたのかしら、と夕鈴は思った。



SNS初出2013年5月17日

ホストクラブ白陽③

並んで歩いていた夕鈴が、黎翔に恥ずかしそうに赤い顔を向けた。
「あっ、あの…手を離して頂けませんか?」
「ん?歩きにくい?」
黎翔は夕鈴の腰に回していた手を外すと、今度は夕鈴の手をきゅっと握った。
「えっ!?何で!?」
「今日は人が多いからね。はぐれたら大変でしょ?」
にこりと笑う黎翔の言い分は正しいような気もして、夕鈴は一度口を閉じたが、やはりそれは違うだろうと黎翔の顔を見上げた。
「子供じゃないんですから、大丈夫ですっ」
「でも、繋いでいないと君の事が心配なんだ。まるで心まで離れてしまうようで」
じっと自分を見つめる黎翔の瞳から逃れるように、夕鈴は顔を背けた。
「や、やっぱりお上手ですね」
「…え?」
握られていた手の拘束が緩んだと思ったら、指と指の間に黎翔の指が通された。
ぎょっとした夕鈴が手を見ると、黎翔は静かな口調で言った。
「上手って…僕は自分に正直なだけだよ?」
「…さすがホストって気がしますけど」
ひどいなぁと黎翔は笑いながら言って、絡めた指に軽く力を入れた。
「あ…あの、この繋ぎ方、恥ずかしいんですけど」
「―――初心なんだね。可愛いな」
クスッと笑う黎翔の瞳が夕鈴を捕える。夕鈴は自分の頬が熱くなるのを感じながら、黎翔の手から逃れようとしたが無駄だった。
「あのっ、人が多いって言ってましたけど、いつもこんなものですよ?」
だから手を放して下さいと懸命な様子で言う夕鈴に、黎翔の頬が緩む。
「そうなんだ。僕は夜しか歩いた事ないから」
「――昼間は何してるんですか?」
首を傾げる夕鈴の仕草が可愛いと、黎翔は繋いでいない方の手で夕鈴の頬を撫でた。夕鈴から上がる小さな悲鳴すら愛しいと言うように黎翔は目を細める。
「昼間は寝てるか、ぼーっとしてるよ」
「え、そ、そうなんですか…彼女と出かけたりしないんですか?」
「今してるよ」
楽しそうに言う黎翔に、夕鈴は言葉を詰まらせた。
「お店が開いてる時に歩くの久しぶりだな。しかもこんな可愛い子と歩けて嬉しいよ」
「~~~っ!!」
夕鈴は居たたまれない気持ちで、真っ赤な顔のまま俯いた。そんな夕鈴の顔を、黎翔は覗き込む。
「夕鈴?」
「わ、私をからかってるんですか?」
顔を上げた夕鈴の目には涙が浮かび、黎翔は目を丸くした。
「可愛いとか気軽に言うし、付き合ってる訳じゃないのに手を握るし!!」
「……嫌だったの?」
途端にしゅーんと落ち込んでしまったような黎翔の態度に、夕鈴は怒っていた事も忘れポカンとしてしまった。
「――ごめんね…嫌ならもうしないから」
そっと夕鈴の手を放した黎翔は、眉根を下げた顔で窺うように夕鈴の顔を見た。
「気を付けるから…もう少しだけ付き合ってくれる?」
何だか幻の垂れた尻尾が見えた気がして、夕鈴はつい
「か、買い物だけならお付き合いしますよ」
と言ってしまった。
その夕鈴の台詞を聞いた黎翔はパアッと笑顔になり
「良かった~」
とニコニコしている。
早まったかしら、とこめかみを押さえる夕鈴の腕を掴んだ黎翔は、その腕を自分の腕に絡めさせる。
「えっ!?」
「夕鈴からなら良いでしょ?」
満面の笑みを浮かべて言う黎翔に、夕鈴はやっぱり早まった!!と後悔しつつ言った。
「あの、こんな所を見られたら困るんじゃないですか!?」
「…僕が?」
「彼女とか沢山いるんじゃないんですか?そういう方達に見られたら…」
黎翔は夕鈴の赤い顔をじっと見つめると、囁くような声で言った。
「僕の恋人は君だけだよ」
「こっ恋人って…私は違いますからっ」
必死に言い返す夕鈴に、フッと笑った黎翔は
「じゃあ、僕が勝手に恋人と思っているだけ。僕の心の恋人だよ」
と額に口付けた。気絶しそうになる自分をどうにか留まらせた夕鈴は、どうしたら自分の言葉が通じるのかと目の前の人物に溜息を吐いた。



SNS初出2013年5月15日

ホストクラブ白陽②

ホストクラブでの一件があった翌日、出社した夕鈴はニヤニヤ笑う明玉に給湯室に連れ込まれた。
「で、どうするの?夕鈴」
「何が?」
少し怒ったような顔をする夕鈴に、明玉は笑いながら続ける。
「黎翔さんとお付き合いするの?」
「ふざけないで!あれは単なる冗談でしょ!?どうせ誰にでも言ってるんでしょうし」
明玉は軽く溜息を吐き苦笑すると
「黎翔さんがあんな事言ってるの、初めて聞いたけどね」
と夕鈴に言った。
「たまたまアンタがいる時に言わなかっただけよ」
素っ気なくそう言う夕鈴に、明玉は話題を変え
「そうだ!土曜日、一緒に買い物行かない?」
と誘ってきた。
「別にいいけど…」
「じゃ、駅前に10時ね!」
明るく言う明玉に、夕鈴も分かったと笑顔を返し給湯室を出て行った。
そして後に残された明玉は、何かを企むようにニヤッと笑った。


土曜日の10時。
駅前の時計台の前に立つ夕鈴は、明玉が来るのを人込みを眺めながら待っていた。
(遅いなぁ…いつもここで待ち合わせしてるんだから、場所を間違うはずないし…)
その時、人込みの中から見覚えのある人物が笑顔を向けた。
「――夕鈴?お待たせ」
「え?…確か、ホストの…」
「黎翔だよ。名前忘れちゃった?」
にこっと笑う黎翔に、夕鈴は呆気にとられつつも
「あの、私は友達を待ってますので」
と離れようとしたが、黎翔は夕鈴の手首を掴み自分へと引き寄せた。
「明玉さんなら来ないよ」
「はい?」
びっくりして聞き返す夕鈴に、黎翔はニヤリと笑う。
「あの後、明玉さんがまた店に来てくれてね、君とデートさせてくれるって」
「はい~!?」
夕鈴は驚きのあまり口をパクパクさせ、目を丸くしている。
「な、な、何で」
「あの日言ったでしょ?僕の恋人になってって」
黎翔は掴んでいる夕鈴の手を持ち上げると、その甲に口付けした。
うきゃー!!と悲鳴を上げる夕鈴に、黎翔は苦笑しながら
「こういうのは嫌い?」
と聞いてきた。夕鈴は頬を真っ赤に染めながら
「や、止めてくださいっ」
と手を振りほどいた。
「あの、明玉が何を言ったか知りませんけど、私帰りますからっ」
背中を向けた夕鈴の腰に手を回した黎翔は、くるりと夕鈴を自分に向けた。
「それは困る。今日は一日付き合ってもらうよ?」
楽しそうに細められた目が、まるで獲物を狙う獣のようだと夕鈴は思った。
「こ、困るって言われても、私も困ります!」
「―――何故?」
黎翔は笑みを崩さずに夕鈴に問いかける。
「何故って…」
目線を泳がせ口ごもる夕鈴に、黎翔は明るい口調で言った。
「買い物に付き合ってもらうだけ、それなら良いでしょ?」
「え?え…と」
良いのかしら、と考えている夕鈴の腰に手をかけたまま、黎翔は嬉しそうに寄り添い二人で歩き出した。



SNS初出2013年5月14日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
お客様数
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。