魔術師ユーリンが召喚した使い魔は獣人・狼一族の末裔でした③

「何かって、何ですか?」
真っ直ぐに森の奥を見つめるレイの真剣な横顔に不安を感じたユーリンは、思わずレイの袖を掴みながら尋ねた。
「おそらく――いや、まだはっきりしないな」
「弟は……大丈夫でしょうか」
レイは袖を掴んでいるユーリンの手を、もう片方の手でそっと包みながら微笑んだ。
「ユーリンの弟はここから近い所に居る。奥に居る者とはかなり離れているから心配ない」
「良かった……」
安堵の溜め息と共に、自分の手が握られている事への恥ずかしさが込み上げてきたユーリンは、慌ててレイの手を振りほどこうとしたが、逆にその手を引かれ抱き締められてしまった。
「な、な、なんで!?」
かろうじてランプを落とさずに済んだ事を自分で誉めつつも、ユーリンは自分の置かれている状況に頭が混乱した。
「震えている――寒いのか?」
「寒くなんかありません!!」
ユーリンは腕を突っ張りレイの胸を押して体を離そうとしたが、レイは腕の力をゆるめる事なく、その中からユーリンを逃がそうとはしなかった。
「では、怖いのか」
「っ!!」
図星を指摘され、ユーリンの頬がさっと朱に染まる。
こんな闇の中で、いつ魔物に襲われてもおかしくない今の状況に、恐怖を感じない人間などいるだろうか。
「それは……怖いです。私は魔術師とは言ってもまだ駆け出しで、魔物から自分の身を守るような魔法も使えないですし」
「大丈夫だ」
「……え?」
レイの言葉が柔らかい声音に変わり、ユーリンはその顔を見上げた。
「召喚された身として、私がユーリンを守ろう。その体には何者も指一本触れさせぬ」
薄い笑みを浮かべるレイの顔を見ながら、ユーリンは魔物のレイを果たして信用してよいものかと悩んだ。
『魔は気まぐれなもの』
そう言ったレイの声が甦る。
だが今、自分には自分自身を守るだけの力も術も無い。
それは痛い程に分かってはいるが、ユーリンは大きく息を吸い込むと、力強い眼差しでレイを見据えた。
「確かに召喚はしましたけど、契約していない魔物の言う事は信じちゃいけないって習いましたし、出来るだけ自分で頑張ります!」
「……自分で?」
レイの薄い唇が弧を描く。
「そ、そりゃ私は獣人のレイから見たら、ひ弱な存在かもしれませんけど」
ふてくされた様に言うユーリンに、レイは静かな声で言った。
「――人間は魔物より強い。特に、ユーリンのように生命力に満ち溢れた人間はな」
「人間が……強い?」
意外な事を言われ、ユーリンは目を丸くした。
スポンサーサイト

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

魔術師ユーリンが召喚した使い魔は獣人・狼一族の末裔でした②

ユーリンとレイは連れ立って、森へと続く夜の道を歩いた。
「足元、暗くないですか?」
「私は夜目が利くから問題ない」
家がぱらぱらとあるだけの、町の中心地から離れたこの辺りでは人々の戸締まりも早く、他の人間に会う事は無かった。
ユーリンはランプの心もとない灯りで自分の足元を照らしながら、誰とも会わずに済んでいる事に感謝した。
見慣れない異性と夜中に一緒にいた、などと誰かの口に上れば、そんな噂は狭い町の中ではあっという間に広がってしまう。
――獣人と言っても、見た目は人間だものね……
ふと隣に立つレイの顔を見上げたユーリンに、レイが微笑を返す。
「どうした?」
「いえ……狼一族って言っていましたけど、人間と見た目が変わらないんだなって」
「――狼の姿が良いなら変わるが」
事も無げに言われたその一言に、ユーリンは息を飲んだ。
「変化出来るんですか!?」
「無論だ。この姿は、ユーリンを怖がらせないように人間に寄せただけのものだ」
獣人には、変化出来る者と出来ない者がいる。
出来ない者の姿は様々で、完全に狼の姿の者もいれば、人間に近いが牙や鋭い爪、毛深い体を持つ者もいる。
変化出来る者の、変化後の姿も同じように様々だ。
レイは変化したらどんな姿になるのだろうかと、ユーリンは考えた。
「……今の姿で、狼の尻尾だけ生やすとかって出来ます?」
「出来るが、どんな意味が?」
「いえっ、いいんです!ただの興味本意です!」
慌てるユーリンの肩を抱き、レイは顔を寄せ囁いた。
「尻尾では、服を脱がねば見えぬが――見せろと?」
「そんな事言っていませんっ!」
楽しそうなレイの笑い声を聞きながら、ユーリンは火照った頬をレイに見せまいとでもいうように、そっぽを向いた。


「……ここが、森の入口です」
木々が鬱蒼と生い茂り昼間でも薄暗い森は、夜には真っ黒い闇の塊に見えた。
「まだ、魔物の気配はしないが――」
レイはするりとユーリンの腕に腕を絡め、その手を握った。
「用心した方が良いな」
「な、何で手を?」
「森の中は人間には歩きやすい道ではないだろう?転ばぬように――それと、弟の下まで案内しよう」
レイはそう言いながら森の中へ入って行く。
「弟がどこにいるか分かるんですか?」
手を引かれながら、ユーリンは尋ねた。
「あぁ、こちらからユーリンに似た匂いがする」
レイは灯りも持たないのに、よくこんなに真っ暗な闇の中を歩けるものだとユーリンは感心した。
ランプで照らされた自分の足元だけを見ているユーリンとは違い、レイは前を見て進んで行く。
やがて少し開けた場所に出た時、レイは足を止め呟いた。
「――近いな」
「え?弟ですか!?」
「いや」
その瞬間、何かが木の陰から飛び出しユーリンに向かって来た。
「――これは私のもの。手出しはさせぬ」
レイの落ち着いた声と、何かの叫び声が同時にユーリンの耳に届く。
「な……なに?」
「小物の妖魔だ。血の匂いに惹かれたか」
ユーリンがランプを向けると、レイの手から何かがだらりとぶら下がっているのが見えた。
コウモリのような羽と、細く長い尻尾を持つ黒い獣。
「血の匂いって……さっきの傷ですか?もう血は止まってますけど」
「例え血が止まっていても、傷口からは血の匂いがする」
レイは当然といった口調で答え、その妖魔を繁みの中へ投げ捨てた。
「今のが、噂の魔獣……?」
「違うな」
「……え?」
レイは森の奥へ目を向け、静かに言った。
「――もっと奥に、何かが居る」



SNS初出2016年6月1日

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

魔術師ユーリンが召喚した使い魔は獣人・狼一族の末裔でした①

「……我が呼び掛けに応じ出でよ!…………あれ?」
薄暗い部屋の中、床に描かれた魔方陣の上に立つユーリンは、首を傾げ魔導書を読み返した。
「呪文は合ってるのに……やっぱり私じゃ無理なのかな……っ痛っ!」
ページをめくった際に、魔導書を支えていた指先を背表紙の飾り金具で切ってしまったユーリンは、傷口から出てきた血で汚れない様にと、取り敢えずそれを床に置いた。
「あっ」
誤って指先が床に触れてしまい、魔法陣に血を付けてしまった、とユーリンが思うのと同時に、部屋中に真っ白な煙が立ち込めた。
「え……何?」
視界が完全に閉ざされ、部屋から出る為にドアを手探りで探していると、不意に背後から誰かに抱き締められユーリンは叫び声を上げた。
「――私を呼んだか?」
耳元で囁かれる低い声に、ユーリンの背中がざわつく。
「だ、誰?」
ユーリンが尋ね返した途端に、さあっと部屋中の煙が嘘の様に無くなった。
「誰、とは心外だな。私を呼んだであろうに」
そう言った声の主は、くるりとユーリンの向きを自分へと変えた。
目の前に立つのは、見た事のない長身の男性。
「……呼んだって、まさか」
「私は狼一族の末裔――レイ、とでも呼んでくれ」
にやりと笑う端正な顔立ちは、とても獣人のそれとは思えなかったが、人間とは明らかに違う紅の瞳がその事を証明していた。
しばらくその瞳に見とれていたユーリンは我に返ると、両手でレイの胸を押し自分から遠ざけた。
「獣人!?そんな高位な……わ、私は下級の妖魔を呼び出そうとしただけなのに!」
「あんなに魅力的な血の匂いがしては、な」
「……血?」
ユーリンはもう血は止まっているものの、まだ痛む指先に視線を落とした。
「処女の生き血を贄にするとは気前の良い」
「しょ……!?な、何て事を!」
真っ赤な顔で叫ぶユーリンに、レイは笑いながら続けた。
「それで、妖魔を呼び出して何をするつもりだったのかな?」
「あ、そうだった!弟が森に薪を拾いに行ったまま戻らなくて」
ユーリンの言葉を受け、窓の外に広がる空一面の夕焼けを眺めながら、レイは言った。
「もうすぐ夜――我々の時間という訳か」
「……弟を迎えに、一人で夜の森に入るのも心細いから、誰か呼び出して一緒に行こうと思って」
「何故、人に頼らぬ?」
レイはユーリンの髪をさらりとすくいながら尋ねた。
「だ、だって夜の森には魔獣が出るって噂が……」
「面白い」
指先に絡めたユーリンの髪に口付けをしたレイは、笑いを含んだ声でそう言った。
「私が共に行こう」
「え……契約もしてないのに?」
不思議そうに尋ねるユーリンの瞳を見つめながら、レイは口の端を上げた。
「元来、魔は気まぐれなもの――それとも私では不服か?」
「い、いえっ、とんでもないです!」
相手が高位な存在である事を思い出し、自然とユーリンの口調が敬語になる。
もっとも、レイがまとっている雰囲気自体が、高貴な立場にある者独特のものとしか思えなかった。
――もしかして、力のあるヒトなのかな?
魔の世界は、力のある者が上に立つ弱肉強食の世界。
そして高位にある者ほど、魅力的な姿をしている。
そう教わったユーリンは、改めてレイの姿を観察してみた。
「どうした?そんなに見つめられると……」
レイは言いながらユーリンを抱き上げた。
「――食べてしまいたくなる」
「っ!人を食べるんですか!?」
一瞬レイは目を丸くし、ユーリンを抱えたままで肩を震わせ、忍び笑いを漏らした。
「素直な娘だ」
自分は何か変な事を言ったのだろうかと、ユーリンはレイが笑う訳が分からず口をとがらせた。
「だって、獣人が人間を食べるなんて、聞いた事ないですよ」
「――獣人が人間を娶った話は?」
「それは、ありますけど……何か関係が?」
きょとんとした顔で自分を見上げるユーリンに、レイは苦笑した。
「たとえ獰猛な狼でも、腕の中から逃げぬ兎を襲う真似は出来ぬな」
「腕の中って……勝手に抱き上げたのはそっちじゃないですか!」
耳まで赤く染めながら、ユーリンはレイの腕から逃れようともがいた。
「暴れると落ちるぞ」
レイはふっと笑いながら、ユーリンの額に唇をつけた。
「なっ!何を!?」
「まじないの様なものだ。さぁ、夜の森へ向かうとするか」
ユーリンは額を押さえ、頬を膨らませながらも頷いた。



SNS初出2016年5月27日

テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

違う吸血鬼ネタ

毎度おなじみ診断メーカーでこんなお題が出ました。
『あなたは2時間以内に4RTされたら、吸血鬼×ダンピール(半吸血鬼)の設定でキスから関係が始まる黎翔夕鈴の、漫画または小説を書きます。』
…そして達成しました(笑)
設定が連載中の吸血鬼ネタとは違うので、別の世界と思ってくださいませ。



今日も獲物を求め、夜の闇を身にまとい人に紛れる。

――人間の質も落ちたな。
行き交う人間達を眺めながら、つい溜息が漏れる。
最近は『魅力的な香り』の人間が減った。
我々吸血鬼にとっての魅力的な香り……美味なる血の持ち主。
たまには上等な食事にありつきたいものだが……
そう思った時、目の前を通った一人の人間から極上の香りがした。
私はすぐに、音も立てずに彼女の後を追った。

人通りの無くなったガード下の闇の中で追い付き、彼女の細い手首を掴んだ。
驚いて振り向く彼女の体を壁に押し付け、首筋に牙をたてようとした時、彼女が叫んだ。
「なっ、何をするつもりですか!?人を呼びますよっ!!」
小刻みに震える体とは裏腹な、その凛とした声と強い瞳に一瞬、目を奪われた。
「きゃ……」
その隙を突いて叫び声を上げそうになった彼女の唇を、私は無意識のうちに自分の唇で塞いでいた。
柔らかい唇から、魅力的な甘い香りがこぼれる。
私はその、吸血鬼の本能を誘う様な香りにあらがえずに、幾度も彼女の唇を貪った。

「……っ、ふぅっ」
やっと私が唇を離すと、彼女は乱れた息と共に私に問いかけた。
「あなたは、誰、ですか?何故私に、こんな……」
私を真っ直ぐに見つめる彼女の潤んだ瞳に、自分の中の獣が頭をもたげる。
「――君を心行くまで味わいたい」
「えっ……!?」
驚きに目を見開く彼女の白い首筋に、牙を立てた。
彼女から、声にならない悲鳴が聞こえた気がした。
――彼女の血は想像以上に甘く、私を酔わせる程に魅力的だった。
やがて私が牙を抜くと、彼女は力なくその場に崩れ落ちた。
気を失った彼女を抱き上げ、どうしたものかと考える。
今まで獲物に執着した事などない。
だが彼女を今までの獲物と同じ様に放っておく気持ちにもなれず、かといって人間を自分の世界に連れて行く訳にもいかない。
青ざめた彼女の顔を見つめていると、ふとそのまぶたが動いた。
ゆっくりと開いた彼女の瞳を見て、私は息を飲んだ。
――紅い瞳。我々吸血鬼と同じ血の様な……
「――まさか」
「足りないの……」
彼女はかすかな声でそう呟くと、私の首に両腕を絡めてきた。
先ほどまでの脅えた顔とは全く違う、妖艶な微笑みを私に向けた後、彼女は私の首に顔を寄せた。
「――っ!?」
首筋に痛みが走る。
不意の痛みから逃れるように、私は彼女を抱える腕に力を込めた。
一層密着した彼女の体が、段々と温かさを増していく。
まさか、同族なのか……?
いや、私が血を吸うまでは確かに人間にしか見えなかった。
では今、私の首に牙を立てているのは――

「……はぁ」
軽い溜息ともとれる息を吐き、彼女が私から顔を離した。
「あ……え?」
困惑した表情で私を見る彼女の瞳は、もう紅い色をしてはいなかった。
「わ、私……何を……?」
「吸血鬼である私が逆に血を吸われるとは――君は一体何者だ?」
「え?血を?」
驚き、両手で口を覆う彼女が演技をしているとは到底思えない。
「人間、なのか?」
「あ、当たり前です!あの、もう放してください!」
真っ赤な顔で怒り出した彼女の、生き生きとした表情に心惹かれる。
「こうしていると人間にしか見えないが――ダンピールか?」
「は?」
暴れていた彼女が動きを止め、不思議そうな顔をした。
「ダンピールとは吸血鬼と人間のハーフの事だ。何かがきっかけとなり、その能力に目覚める時がある」
「きっかけ……?」
「この場合は多分、私が血を吸った事、だな」
私の話を聞いていた彼女の顔が、さあっと青ざめた。
「あ、あなたは吸血鬼なんですか?」
「勿論」
私の腕の中から、わたわたと逃げ出そうとする彼女を抱き締め直し、その耳元で囁いた。
「――名前は?」
「おっ、教えませんっ!!」
「では、姫とでも呼ぶか――いや、花嫁か」
「はぁっ!?」
目を丸くしている彼女に向かって、私は薄く微笑んだ。
「ダンピールとして目覚めた以上、人間の世界では暮らせないだろう」
「え……」
「血を求めるようになるかもしれない。日の光が苦手になる事もある――灰になる場合もあるな」
彼女の顔がみるみる曇っていく。
こんなに豊かな表情を見せてくれる彼女を、いつまでも見ていたいと思うのは何という感情だろうか?
「――だから、私と共に生きてみないか?」
「な、何で、ですか?」
涙をたたえた瞳で、私を見上げる彼女の額に、私は唇をつけた。
「君を手放したくない。残りの生を、君と共に過ごしたい」
「……それ、プロポーズですか?」
「一生を共にするには、花嫁になるしかあるまい?」
今はまだ、彼女に対する執着心かもしれない。
人間のような『愛情』を持つのは無理かもしれないが、それでも彼女を大事にしたいと思い始めている。
吸血鬼として長く生きてきた自分が、こんな思いを持つ日がくるとは考えた事も無かった。
「……一度」
「ん?」
「一度、家に帰って父に聞いてみます。亡くなった母も人間だったか……」
かすかに震える彼女の手が、私の袖を掴んだ。
「そしてもし本当に、私が人間でないなら――」
彼女は探るような瞳を私に向けた。
「その時は、どうしたら良いか、教えてくれますか?」
「――では、まず名前を教えてくれないか?」
「……夕鈴、です」
「夕鈴。プロポーズの返事は何百年でも待とう。君と共にいられるなら、どんな関係でも良い」
そう言って頬に口付けると、夕鈴はたちまち顔を真っ赤に染めて暴れ出した。
自分の頬が緩むのを感じ、こんなに楽しい思いをしたのは初めての事かもしれないなと思いながら、私は夕鈴の唇にそっとキスをした。



SNS初出2014年8月19日

お弁当屋の彼女②

昼休みの時間。
僕は今日、久々にあの弁当屋へ向かう。
毎日店番をしている可愛いあの子に、僕は少し前にプロポーズした。
しかし何故か思いは伝わらず、落ち込んだ僕は食欲も無くし、昼食は毎日ゼリー飲料で済ませてしまっていた。

だがこんな事ではいけないと、僕は今日もう一度アタックする為に彼女に会いに行く。

「いらっしゃいませ!」
彼女の明るい元気な声が、僕の耳に心地好く響く。
「こんにちは」
「あ、お客さんお久しぶりですねっ」
覚えられていた事が嬉しくて、つい笑顔になる。
「最近急に暑くなったから食欲も無くて…」
「何だかちょっと痩せました?ちゃんと食べなきゃダメですよ」
心配そうに言う彼女の言葉には押し付けがましい所が無く、僕は素直に頷いた。
「そうだね。今日は何にしようかな」
「最近、新作も増えたんですよ」
そう言って彼女はにこにこと笑う。
初夏の日射しの中、薄着になった彼女の体のラインがエプロンごしでも良く分かる。
その柔らかそうな曲線に見惚れた僕は、つい思った事をそのまま呟いてしまった。
「君…美味しそうだね」
言った後で、しまったと思ったが遅かった。
恐る恐る見た彼女は、やはりきょとんとした顔で僕を見ている。
これじゃただのセクハラじゃないかと後悔した時、彼女は何故かにこっと笑った。
「そうなんです!このロコモコ丼、黄身の半熟加減が絶妙だって好評なんです!」
「――え?」
「でもロコモコ丼って、ちょっとお野菜が少ないんですよね」

気が付くと僕はロコモコ丼とサラダの入った袋を手に、彼女の温かな言葉を背中に受けていた。
「ありがとうございました!またいらしてくださいね」

あぁ、また来るとも。
愛しい君の頼みを断るはずないだろう?
気温が30度に近い中、そう思いながらも、僕の心はクールビズ並に寒かった。



SNS初出2014年5月30日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
お客様数
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR