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晩秋

お話をUPするのも久しぶりです。

意外な事に、動きのない時でもご訪問くださる方がいらっしゃいます。
本当にありがたい事です。
書く力をくださる皆様、いつもありがとうございます。







椅子に座り窓から外を眺めつつ、夕鈴は自分でも意識せずに溜息を一つ吐いた。
後宮の丸い窓を通して見える景色といえば、紅葉の見頃を過ぎた木々達から落ちる枯れ葉と、その枯れ葉をあちらこちらへと気ままに運ぶ冷たそうな風だけ。

「――我が妃は憂いている姿も愛らしいな」
「陛下!?」
思いがけない呼び掛けに振り向いた夕鈴は、不思議そうに黎翔に尋ねた。
「まだご政務の途中では?」
「あぁ、少し休憩だ」
「ではお茶をお淹れしますね」
にこりと笑い、すぐにぱたぱたとお茶の準備を始める夕鈴の後ろ姿を見ながら、黎翔は長椅子に腰を降ろし侍女達を下がらせた。
頬杖をつき、夕鈴の長い髪が揺れる様を眺めていると、狸達のせいで話し合いがこじれ、休憩を入れざるをえなかった事も良かった事のように思えてくる。

「――どうぞ」
湯気の立つ茶杯を手にし一口お茶を飲んだ黎翔は、ほっと小さく息を吐いた。
「心まで温まるようなお茶だね」
「やっぱり風が冷たいですよね。回廊をお渡りになる時に体が冷えたのでは?」
心配そうに気遣う夕鈴の言葉に、黎翔から笑みが漏れる。
「いや……うん、そうかもしれないね」
「お茶のお代わりをどうぞ。あ、それと何か掛ける物をお持ちしますね」
黎翔の茶杯にお茶を注いだ夕鈴が立ち上がると、黎翔は夕鈴を引き寄せ自分の膝に座らせた。
「っ!?陛下?あの、何かお持ちしますから」
「んー……夕鈴がいい」
後ろからぎゅうっと抱き締められ、夕鈴の頬がかあっと赤くなる。
「さ、寒いと人恋しくなるって言いますけど、私よりも何か掛けた方が温かいと思いますよ?」
落ち着かない気持ちを紛らわせるように、夕鈴はわたわたと早口で言った。
「――夕鈴、恋しい人がいるの?」
「へ!?」
何でそうなるのかと黎翔を見上げた時、夕鈴は自分を真っ直ぐに見つめる黎翔の瞳から目を逸らせなくなった。
「あ、あの、恋しいと言うか……今日は青慎の事を思い出していたんです」
「弟くん?」
夕鈴からの意外な言葉に、黎翔はいささか驚いたように聞き返した。
「はい、今日は冷たい風が吹いていて……こんな日はよく、青慎をぎゅーってしてたなぁって」
ふふっと笑う夕鈴を横向きに抱き直し、黎翔は夕鈴の髪を指に絡めた。
「本当に仲良いんだね」
「だって隙間風って、すごく冷えるんですよ?くっついていないと寒くて」
「――うん」
黎翔は絡ませている夕鈴の髪に口付け、指先からするりと滑らせた。
「――そうだろうね」
どこか寂しそうな黎翔の笑みに、もしかしてそんな経験が無いのかしら、と夕鈴は思った。
「陛下は……」
「うん?」
「陛下は寒い時に、誰かと温めあったりはしませんでした?」
首を傾げながら問う夕鈴に、黎翔は一瞬目を丸くした後、どこか遠くを見ながら言った。
「うん――寒かったら羽織る物を増やしていた、かな」
「……そうですよね。国王陛下に軽々しく抱き付いたりする人なんていませんよね」
苦笑する夕鈴の体を、自分の袖で包むように抱き締めた黎翔は、夕鈴の耳元で静かに囁いた。
「君だけが――夕鈴だけが、僕に温もりをくれるんだ」
「……陛下?」
「どれだけ温かな物を着たとしても、夕鈴のように心まで温めてくれはしない」
そう言いながら、夕鈴を胸に優しく抱き寄せた黎翔は、その頭の上にそっと自分の額を寄せた。
「ずっとこうして抱いていたいくらいだよ」
「だっ、駄目ですよっ」
両手で黎翔の胸を押し返し、夕鈴は真っ赤な顔で反論した。
「先ほど、少し休憩だと仰っていましたよね?」
「――うん」
「もう皆様お待ちになられているのでは!?特に、李順さんがっ」
眉間にシワを寄せた側近の姿が容易に想像できた黎翔は、くすりと笑うと夕鈴を膝から降ろした。
「我が妃は私より働き者だな――では行くとするか」

黎翔が夕鈴の部屋から出ると、夕鈴の侍女達が深く頭を下げ控えていた。
黎翔はそちらをちらりと見た後、夕鈴を抱き締め囁く。
「妃よ、今日は一段と寒くなりそうだ。また今宵も私を温めてくれぬか?」
「なっ!?」
「あぁ、愚問であったか――夜が待ち遠しいな」
にやりと笑い満足そうに妃の額に口付ける国王と、耳まで赤く染まった初々しいお妃様の姿に、侍女達からも思わず笑みがこぼれた天高いある秋の日のお話。



SNS初出2014年11月4日
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中秋の名月

9月8日は中秋の名月でしたね。
生憎、曇っていたためお月様が見られなくて残念でした。
久々の原作沿いをどうぞ。



「陛下、お帰りなさいませ!」
もう夜遅い後宮で、夕鈴に笑顔で迎えられた黎翔は内心驚いていた。
「――我が妃はもう夢の中かと思っていたが」
軽く微笑む黎翔に、夕鈴は楽しげに答える。
「だって、今日は中秋節ですよ?ちゃんと月餅も作ったんです」
黎翔はそう言われて初めて気付いたように、ふと視線を窓の外に向けた。
「生憎の曇り空だが――せっかくの妃の好意だ。今から庭園に出るか」
「はいっ」
黎翔に手を取られ、夕鈴は嬉しそうに頷いた。


庭園に置かれた椅子に腰を下ろし、黎翔と夕鈴はどちらからともなく夜空を見上げた。
「――やはり見えぬな」
「残念ですね……」
辺りは夜露のせいか、どこかしっとりとした空気で満たされている。
無言の二人の代わりとでも言うように鳴く、様々な虫の音が耳に心地好い。
「あ、お茶をお淹れしますね」
夕鈴の立ち上がった音に、一瞬ぴたりと止んだ虫達の鳴き声が、また遠慮がちに再開する。
侍女が用意したお茶の道具と菓子入れが、すぐそばの卓の上に置かれていた。
その道具を使い、夕鈴は慣れた手付きで淹れたお茶を黎翔に手渡した。
「どうぞ。少し熱めにお淹れしましたから、お気を付けて」
「――あぁ、この茶の温もりも、私を思う妃の心の暖かさには敵うまいな」
「へっ、陛下ったら……!」
いきなり何を言ってんの!?と赤くなった顔を黎翔から逸らした夕鈴の目の端に、微笑む侍女達の姿が映る。
「そ、それでは、こちらもどうぞ」
プロ妃として負けてなるものかと、出来るだけ優雅に微笑みつつ、夕鈴は月餅の入った菓子入れを黎翔に差し出した。
「――違うな」
「……はい?」
手にしていた茶杯を卓に置いた黎翔は、夕鈴の腰をさらうと自分の膝の上に座らせた。
「なっいきなり何ですか陛下!?降ります!!」
「君が食べさせてくれ」
「はぁっ!?」
ニヤリと笑う黎翔は、夕鈴に回した腕を緩める気など毛頭無い様だ。
「今日は遅くまで宰相の顔を見ていて疲れた。愛しい妃に癒してもらいたいのだが――」
目を細め、妖艶に笑みながら黎翔は夕鈴の顔を覗き込んだ。
「駄目、か?」
「いっいいえっ…でも、そんな事で癒されるんですか?」
「無論、妃自身を味わいたい所だが、ここではな」
「なっ!?」
ボフッと一気に耳まで赤く染まった夕鈴の頬を指先で撫で、黎翔はくすりと笑った。
その笑いが何故かカチンと気に障った夕鈴は、菓子入れから月餅を取り出すと、黎翔の口元にそっと差し出した。
「どうぞ陛下、召し上がってくださいませ」
にっこりと微笑む夕鈴の顔と、その手の月餅を交互に見た黎翔は、フッと笑むと月餅に齧り付いた。
「――甘いな。やはり妃の手から食べると味が違う」
「え?あ、甘すぎました?」
黎翔の言葉を、そのままの意味で捉えた夕鈴が心配そうに尋ねる。
黎翔は軽く苦笑しながら、月餅を持つ夕鈴の手を捕えると夕鈴の顔に近付けた。
「君も味わうと良い」
「……え?あ、あの、食べ辛いですから、手を放してくださいますか?」
「――そうか」
言いながら手を放した黎翔に、分かってくれたのかしらと夕鈴が安堵した時、その手の月餅を黎翔に取られ夕鈴は目を丸くした。
「陛下?召し上がるのでしたらまだこちらに……」
菓子入れを取ろうとした夕鈴の目の前で、黎翔は月餅をいくつかに割ると、そのうちの一つを夕鈴の口元に差し出した。
「これなら食べ易かろう」
「は?……自分で食べられますよ?」
「――今宵は私の我が儘だと思って付き合ってくれぬか?」
「我が儘、ですか?」
穏やかに頼む様な黎翔の物言いに、いつもよりお疲れなのかしらと夕鈴は思った。
陛下の頼みに応えるのも妃の役目かしらと、仕方なく口を開いた夕鈴に黎翔は月餅を食べさせ、満足気に微笑んだ。
「たまには兎の餌付けも楽しいものだな」
「なっ!?」
怒って反論しようとした夕鈴だったが、上手く月餅が飲み込めずにむせてしまった。
ごほごほと咳き込む夕鈴の背を軽く叩き、黎翔は茶杯を夕鈴に差し出す。
そのお茶を一気に飲み干した夕鈴は、真っ赤な顔で黎翔に向かって声を荒げた。
「餌付けって何ですか!?まるで飼育されてるみたいじゃないですか!」
「飼育というよりは愛玩か?あぁ、時には食べてしまいたくなるが――」
咳き込んだせいで涙が浮かんだ夕鈴の目尻に、黎翔はチュッと音を立てて唇をつける。
自分が受けた思わぬ行動に、動けず固まった夕鈴の髪を黎翔は優しく撫でた。
そしてその手で夕鈴の顎に指をかけ上向かせた黎翔は、自分を見つめる夕鈴の唇のすぐ横を舐めた。
「――旨い餡だな」
「それは、蓮の実の餡ですから……って陛下!?な、な、何を!?」
「味見だが?」
「味見って、陛下先ほど月餅は召し上がりましたよね!?」
兎の味見だと言ったら余計に怒るだろうなと笑いながら、黎翔は自分の膝の上で怒り続ける元気な兎の鼻先に口付けた。

そんな二人の仲睦まじいお姿に、月も恥ずかしがって隠れていたのでしょうと、後の日に侍女達は楽しそうに語った。



SNS初出2014年9月11日

君の世界を僕にもわけて

診断メーカーで、お題が出るパターンがありまして。
「黎翔夕鈴へのお題は『君の世界を僕にもわけて』です。」
と出ましたので書いてみました。



白陽国に珍しく雪が降った。
見慣れたはずの後宮の庭も白く染まり、雪の害が出なければ良いがと黎翔は思った。
夕鈴の自室までの回廊も雪が吹き込み、滑りやすくなっている。
無論、黎翔が通る前に女官達が綺麗に雪を掃除したが、それでも風に舞う粉雪は次から次へと降りてくる。

「妃よ、今戻った」
「お帰りなさいませ」
頬を染め出迎える夕鈴の笑顔に、黎翔の心が温かくなる。
「君の笑顔を見ているだけで、春を迎えたような気分になるな」
「――は?」
首を傾げる夕鈴を抱き締め、その肩に顎を乗せた黎翔は
「我が妃は温かいな」
と夕鈴の耳元で囁いた。
「へ、陛下、お体が冷えてませんか?今お茶をお淹れしますから」
腕の中から逃げ出そうとする夕鈴の耳たぶに、黎翔が軽く唇を付けると夕鈴は小さく叫んで体を離した。
真っ赤な顔で睨む夕鈴にクスリと笑み、黎翔は侍女達を下がらせた。
「陛下!!やり過ぎですよ!!」
「ちょっと唇が触れただけだよ」
にこにこ笑いながら長椅子に座った黎翔にお茶を差し出すと、夕鈴は頬を染めたまま納得いかない様な顔で椅子に腰を下ろした。
そして自分のお茶を一口飲むと、ふと心配そうに黎翔に尋ねた。
「でも陛下、本当にお体が冷えているようでしたよ?回廊が寒かったのではないですか?」
「雪が吹き込んでいたからね」
「え、雪が?」
目を丸くする夕鈴に、そう言えば降り出したのは夕方からだったかと黎翔は気付いた。
「雪は雨と違って音がしないからね。部屋の中にいたら気付かないかな」
「今降ってるんですか?見ても良いですか?」
子供の様にはしゃぎソワソワし出した夕鈴に
「風邪をひくといけないから少しだけね」
と黎翔は苦笑した後、侍女を呼び夕鈴に厚手の上着を着せた。

心配する侍女達を下げ、寄り添って回廊へ出た二人の前に白い道が広がる。
「わぁ……まるで敷物を敷いたようですね」
「滑るから気を付けて」
差し出された黎翔の手に自分の手を重ねた夕鈴は、目を輝かせ一歩踏み出し、感触を楽しむ様にゆっくり歩き始めた。
「庭も真っ白ですね」
「ああ……解けるまで数日かかりそうだな」
「綺麗ですね」
夕鈴のその一言に、黎翔は驚いた顔をした。
「――陛下?」
「あぁ、いや、綺麗か……そうだな」
降りしきる雪はいつの間にか、粉雪から牡丹雪に変わっていた。
「まるで花びらみたいだと思いませんか?」
うっとりと雪を見つめる夕鈴の横顔を見ていた黎翔は、おもむろに夕鈴を抱き上げた。
「陛下!?」
「同じ景色を見ているはずなのに、感じる事は違うものだな」
積もった雪のおかげで周りは薄明かるい。
細い枝に積もった雪が、自分の重さに耐えきれなくなって落ちる軽い音がどこからか聞こえる。
黎翔は夕鈴を抱き上げたまま回廊を歩き始めた。
やがて雪が吹き込んでいない場所を見付けた黎翔はそこに腰を下ろし、夕鈴を自分の膝の上に座らせた。
「――君にはどんな世界が見えているのかな」
「え?」
黎翔は夕鈴の頬を両手で包むと顔を自分に向かせ、目を瞑り額と額を合わせた。
「僕も君が見ている世界を見てみたい――君の世界を僕にもわけて」
「私の……世界?」
夕鈴の小さな呟きに黎翔は目を開き、軽く微笑んだ。
「……陛下も、いらっしゃいますよ?」
「――え?」
黎翔は額を離し、言葉の意味を探る様に夕鈴の顔を見た。
「私の世界には、陛下もいらっしゃいます」
頬を染め、柔らかく微笑む夕鈴を、黎翔はまるで壊れ物を扱うかの様にそっと抱き締めた。
「僕も君の世界の住人か……どんな『僕』が住んでいるのかな」
黎翔の腕の中で、夕鈴は恥ずかしそうに俯き小さな声で言った。
「強くてかっこいい、でも優しい王様です」
「――優しい?」
黎翔の意外そうな声に、夕鈴はそろりと顔を上げた。
「僕を優しいなんて言うのは君くらいだよ」
「それは……陛下が皆の前では狼陛下の演技をしているから……」
黎翔は口の端だけで笑むと、夕鈴の髪に口付けた。
「君の世界の僕だけが優しければ良いよ。他の者は知らなくて良い……」
「陛下……」
黎翔のどこか切なげな微笑みに、夕鈴の胸にも切ない気持ちが広がる。
夕鈴は黎翔の胸に自分の額をこてん、と付けると穏やかな声で言った。
「陛下の世界の『私』も、陛下だけが知る私ですね」
「――そうだね。僕だけの夕鈴だね」

白く、寒々とした風景に包まれているはずの二人だけの世界が、いつの間にかどこか温かく柔らかな色に彩られ始めていた。

贈り物

SNSのお友達の誕生日に(遅刻して)贈らせて頂いたお話です。
最近お話をUP出来ていないのでさらしてしまおう←



12月のある日の事。
夕鈴は久しぶりに下町の自分の家へと向かっていた。
寒さが厳しくなる前に保存食を作っておきたいと李順を説得し、何故か嬉しそうな黎翔に付いて来ないように念を押し、やっと手に入れた休みを有効に使おうと、夕鈴は軒を並べる店々の品物に目をやりながら歩いていた。
「――何だオマエ帰ってたのかよ」
聞き覚えのある声に夕鈴が顔を上げると、ちょうど一軒の店から出て来た所らしい几鍔の姿が目に入った。
「何でアンタがこんな所にいるのよ」
不機嫌な態度を隠そうともしない夕鈴をじっと見ていた几鍔は
「そう言えばお前、一応女だよな」
と呟くように言い、夕鈴はその言葉に声を荒げた。
「一応って何なのよ!!喧嘩売ってんの!?」
「あぁ、わりぃ…ちょっと暇あるか?」
「……は?」
呆気にとられた夕鈴の腕を掴み、几鍔は一軒の飯店へと入って行った。

お茶と、軽い食べ物をいくつか頼んだ几鍔は、向かい合って座っている夕鈴に言いにくそうに話し始めた。
「実はな、世話になっている姐さんに贈り物をしたいんだが…何を贈ればいいか皆目見当もつかねぇ」
ガリガリと頭を掻く几鍔を目を丸くして見ていた夕鈴は
「贈り物!?アンタが!?」
と驚いた声を出した。
「――そんなに意外かよ」
運ばれて来た点心を、ホラ食えと自分の近くに寄せてくれた几鍔を見て、面倒見は良いから意外な事でもないのかしらと夕鈴は思い直した。
「で、そのお姐さんってどんな人なの?」
「そうだな…絵を描いてる、絵師だな。それで筆でもどうかと思ったんだけどな」
夕鈴は点心を口に運びながら
「それじゃ仕事道具じゃない。どうせならもっと違う物にしたら?」
と提案した。
「それが思い付かねぇから相談してんじゃねぇか」
「うーん…」
几鍔のもっともな言い分に、夕鈴は自分なら何が嬉しいかと考え始めた。
「――困り事?」
聞こえてはいけない声が自分の後ろから聞こえ、夕鈴は慌てて振り返った。
「へ…李翔さんっ!?」
「またオマエかよ…そんなに暇なのか?」
呆れたような几鍔の声を気にもせず、黎翔は夕鈴の隣の椅子に座るとお茶を注文した。
「で、難しい顔をして夕鈴は何を悩んでいるのかな?」
「お前には関係ねぇ…っと、いや…お前の方が詳しいか?」
几鍔は黎翔に向き直ると、先ほど夕鈴に話したのと同じ内容を説明した。
「ふーん…女性に贈り物をねぇ」
黎翔は薄く笑みながら、お茶を一口飲んだ。
「どんな物でも、相手が喜ぶ物が一番じゃないかな」
「それが分かれば苦労はしねぇ」
「――そうだね、女性によって喜ぶ物も違うからね。宝飾品より鍋とか」
にこにこと笑いながら言う黎翔に、几鍔は呆れた顔を向けた。
「そんな女、こいつ以外にいるのか?」
「ちょっと!!失礼ねっ!!鍋のどこが悪いのよっ」
「――やっぱりオマエの事かよ」
参考にならねぇな、と言う几鍔に
「実際にお店を回って決めようか」
と黎翔が助け船を出した。

飯店を出た三人はあちらの店、こちらの店と様々な物を眺め、手にとり吟味して行く。
だがなかなか几鍔は首を縦に振らず、贈り物探しは難航していた。
「もういい加減に決めなさいよっ!!」
「んな事言ったってなぁ、決まらねぇもんは仕方ねぇだろ」
腕を組み、ふいっと横を向いた几鍔の動きがピタリと止まった。
「……?どうしたのよ?」
「――あれだ」
几鍔はポツリと呟くと一軒の店へと走って行った。
「どうしたのかしら…?」
「何か見付けたんじゃないかな」
黎翔と夕鈴が顔を見合わせていると、そこへ几鍔が戻って来た。
「あー…今日は付き合わせて悪かったな」
「決まったの?」
「まぁな」
見れば几鍔の手には可愛らしい包みが乗っていて、それをポンポンと弾ませている。
「ふぅん…良かったじゃない。じゃ私は家に行くから」
「あぁ、青慎によろしくな」
くるりと背を向け歩き出した夕鈴の後を、にこりと几鍔に笑みを見せた黎翔が付いて行く。

「――夕鈴」
するりと手を絡められた夕鈴は、危うく上げそうになった悲鳴を何とか押し留めた。
「へっ…李翔さんっイチャイチャしないっ!!」
真っ赤な顔の夕鈴に、黎翔は面白くなさそうに言った。
「だって夕鈴、几鍔くんとお茶したり買い物したり仲良さげで…今だって几鍔くんの事考えてたでしょ?」
「うっ…そ、それは、几鍔が贈り物をする相手が気になって…」
「僕のお嫁さんなのに」
黎翔は夕鈴の手をしっかり握ると、指を絡ませた。
「~~~っ!!手、放して下さいっ」
「駄目だ――君は私の花嫁だろう?私の事だけを考えていれば良い」
眼鏡の奥から狼の瞳で見つめられ、夕鈴が口ごもると黎翔はその指先に唇をつけた。
「さぁ、早く夕鈴の家に行こう?」
にこっと笑った黎翔に手をひかれ、また変な噂が広まらないと良いけど、と夕鈴は溜息を吐いた。

途中の店で必要な物を買い、家に着いた夕鈴は早速パタパタと忙しそうに保存食作りを始めた。
「僕も手伝うよ」
「いいから座ってて下さいっ」
申し出をあっさりと却下された黎翔は、それでも嬉しそうにニコニコしながら夕鈴がやる事を眺めていた。
やがて作業が一段落し、夕鈴がお茶を淹れていると入口から声がした。
「おい、まだいるか?」
「――几鍔!?何しに来たのよっ」
「これを渡しに来たんだよ」
几鍔から袋を渡された夕鈴は、中を覗き込み
「え?サンザシ?」
と不思議そうに呟いた。
「オマエ、風邪をひかないようにって毎年買っていただろ?まぁ、今日の礼だ」
「お姐さんにもう渡して来たの!?喜んでくれた?」
「喜んだより驚いてたな――でも姐さん今日が誕生日でな」
頭に手をやりながら言う几鍔に、黎翔は納得したように話し掛けた。
「あぁ、だから今日渡せる様に探し回っていたんだね」
「まぁな…ところでお前もいつまでいんだよ」
「夕鈴と一緒に帰るよ?」
微笑みながらお茶を飲んでいる黎翔に、眉間にシワを寄せた几鍔は
「相変わらず胡散くせぇ奴だな」
と言った後、夕鈴に向かって忠告した。
「さっさと手を切った方が身の為だぞ」
「なっ…!!そんなんじゃないって言ってるでしょっ!!」
「へーへー。ま、仕事頑張れよな」
外へ出て行く几鍔の背中に、夕鈴は慌てて声をかけた。
「あ、几鍔サンザシありがとうっ」
片手を上げそのまま出て行った几鍔の後ろ姿を見送った夕鈴は、急に後ろから抱き付かれ心底驚いた。
「きゃっ!!な、何ですかっ」
「だって夕鈴また几鍔くんと仲良くしてるから」
「仲良く?どこがですかっ!?はーなーしーてー!!」
腕の中でバタバタと暴れる夕鈴の頭に、黎翔はこつんと額をつけて微笑んだ。

晩秋の甘味

SNSでの足跡33333hitのキリリクです。



「――我が妃はこちらか?」
「こ、これは陛下、お妃様でしたら庭園を散策中でございます」
夕鈴の自室を訪ねた黎翔に、掃除中の女官は慌てて礼を執りそう答える。
黎翔は表情を変える事もなく、その言葉が終わらぬうちにくるりと背を向け庭園へと向かった。
「――本当に陛下はご政務以外の時は、いつもお妃様とご一緒に過ごされて」
「とても仲睦まじいお二人でございますね」
笑顔になった女官達はまた忙しそうに掃除を再開させた。

「――妃は?」
「お妃様はただいま池のほとりの四阿で休まれておいでです」
夕鈴付きの侍女を見つけ尋ねた黎翔は、足早に四阿へと向かった。
礼を執ったままその後ろ姿を見送った侍女は、お茶のご用意はお二人分に変更ですわねと微笑みながら後宮へと急いだ。

池のほとりの四阿に着いた黎翔は静かな事を疑問に思い中を覗き込むが、やはりそこには誰もいなかった。
辺りを見回しても人の気配はない。
何かあったならすぐに浩大が報せに来るはずだと考えた黎翔は、危険な状況ではないと判断して夕鈴の行きそうな場所の見当を付け始めた。
――そう言えば最近は花の見える四阿が気に入っていたようだな…
そこへ行っても駄目なら浩大を呼ぶか、と黎翔はもう一つの四阿へ向かった。

「――陛下!?お仕事中では?」
「思わぬ休憩時間が出来たからな。妃と共に過ごそうかと来てみた――やはりこちらだったか」
秋の花々が咲き乱れる中に建つ四阿の中、夕鈴の姿を見付けた黎翔はどこか安堵した様に微笑みを向けた。
「池の側の四阿で休憩したのですが、風が思ったより冷たかったのでこちらへ…陛下もお寒くありませんか?」
心配そうに尋ねる夕鈴に、黎翔は四阿に入ると
「そうだな。我が妃が温めてくれるか?」
と夕鈴を抱き上げ椅子に座り、自分の膝の上に夕鈴を降ろした。
「あ、あのっすぐに温かいお茶をお淹れしますから、降ろして下さいっ」
「茶は侍女でも淹れられる。だが私を温められるのは妃だけだ」
ぎゅっと抱き締められた夕鈴は、黎翔の衣が冷たい事に気付いた。
「――陛下、もしかして長く外にいらしたんですか?」
「さほどでもないが…元気に跳ね回る妃を追ってな」
にやりと笑う黎翔の言葉に、夕鈴は顔を赤らめぷいっと横を向いた。
「そ…そんな跳ね回ってなどおりませんっ」
黎翔はすっと手を伸ばすと夕鈴の頬を両手で挟み、自分へと向けさせる。
「全く元気な兎だ――たまには私の腕の中でゆっくりと休んでくれぬか?」
「なっ…だ、だって陛下お忙しいのでは!?」
「まだ大丈夫だ」
くすりと笑いながら、黎翔は夕鈴の両手をとると先ほど自分がしたのと同じ様に、自分の頬に手を当てさせた。
「――妃の手は温かいな」
「あっあの、寒いのでしたら上に羽織る物を」
「我が妃以上に私を温める物がこの世にあるとでも?」
――何言ってんのこの人ー!!
ぼふっと一気に赤面した夕鈴に、黎翔はからかう様な口調で続ける。
「――ほら、また一層温かくなった」
「へ、陛下っ手をお放し下さいっ」
「我が妃は恥ずかしがり屋だな」
黎翔は押さえていた夕鈴の両手から手を放すと、夕鈴の体を自分の袖で包むように抱き締めた。
「陛下!?」
「手は放したが?」
「な、な、何で抱き締めるんですか!?」
抱き締められると、ちょうど夕鈴の耳元に黎翔の唇が近付き、囁かれるだけで夕鈴の心臓は落ち着かなくなる。
「妃が寒いだろうと思ってな」
「私は大丈夫ですっ」
両手を黎翔の胸に当て押そうとする夕鈴の耳に、黎翔は笑みを含んだ声を落とす。
「侍女達が心配そうに見ているよ」
「~~~っ!!へ、陛下のそのお気持ちだけで私には充分ですわっ」
「成程、心は温まったか」
黎翔はそっと体を離すと、まだ自分の胸に当てられている夕鈴の手に、自分の手を重ねた。
「そのように確かめなくとも、私の心も妃に温められたが…」
そして黎翔は夕鈴の髪を撫でた後、その頭を自分の胸へポスンと寄りかからせた。
「な!?」
「この方が良く分かるか?」
「へ、陛下…っ」
黎翔は夕鈴の髪を梳くように撫でつつ
「我が妃はいつまでも初々しいな」
と満足気な笑みを見せた。

黎翔が侍女に目で合図をすると、侍女の一人が進み出て卓上の道具でお茶を淹れ始める。
「あ…私が」
「妃は私を温めるという大切な役目があるだろう?」
黎翔は自分の前に置かれた湯気の立つ茶杯を手にすると、中身を一口飲んでから夕鈴の口元へ差し出した。
「君も温まると良い」
「私の分もありますよ?」
卓上のもう一つの茶杯を見ながら夕鈴が言うが、黎翔は薄く笑んだまま茶杯をひこうとしない。
「――冷めてしまうぞ?」
はっ恥ずかしいんですけどっ!!と叫びたい気持ちを抑えつつ、飲まないと解放してもらえない雰囲気を感じとった夕鈴は、意を決して茶杯に口を付けた。
温かいお茶が喉を通り、お腹の中まで温まって行く。
「――菓子も食べるか?」
茶杯を卓上に置いた黎翔は小さな菓子を一つ食べると、もう一つ指でつまみ再び夕鈴の口元に差し出した。
「じ、自分で」
「ほら、早く」
「でもっ」
夕鈴が反論しようと口を開けた所へ、黎翔は菓子を放り込んだ。
「君の様に甘い菓子だろう?」
にっこり笑う黎翔を夕鈴が真っ赤な顔で睨み付けるものの、黎翔は益々嬉しそうに笑みを深める。
「もう一つ食べるか?」
「けっ結構ですっ!!」
すっかり寒さなど感じなくなった二人に、秋の花々が笑いかけるように風に揺れた。



※リクエスト内容は
『原作寄りで黎翔×夕鈴の甘い話』

SNS初出2013年11月11日
プロフィール

*へもへも*

Author:*へもへも*
『狼陛下の花嫁』の二次創作小説がメインです。

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